世界で一番欲しいモノ

















 リナは只々呆然と佇んでいた。その隣ではニコニコと楽しそうに微笑む一人の男、ナイトメア。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・何ここ?」
 やっとリナが驚きから立ち直り、引き攣った顔で隣に立つナイトメアに問い掛ける。
 「何だリナ、知らないのか?これはおでんの屋台ってゆーんだぞ。」
 「アホかぁー!!んなもん見りゃ分かるわよ!!何でそのおでんの屋台が超高級住宅街のど真ん中にある空き地なんかで営業してんのかって事を聞いてるのよ!?」
 余りに現実離れし過ぎた光景にまだ動揺が抜けていないのか、リナ必殺のスリッパ攻撃は出て来なかった。
 「あぁ、そりゃあマスターの趣味だ。」
 ポンと手を叩きながら答えるナイトメアに、リナは思い切り脱力する。
 「どこの世界に、趣味でこんなバカ高い土地で屋台なんか出すのよ?」
 「ここの世界で僕がちゃんと出してますよ。」
 突然声を掛けられ、思わず身構え声のする方へ振り向くリナ。そこに立って居たのはニコ目に黒髪のオカッパ頭の青年だった。
 青年のスタイルは着古したTシャツにジーパンに腰エプロンの本当にどこにでも居る居酒屋か屋台の兄ちゃんにしか見えない。
 「いらっしゃい。おやぁ〜今日は可愛いお連れさんがご一緒ですか?お連れさんを連れてくるのは初めてですね。ひょっとしてコレですか?」
 ナイトメアの顔を見て話し掛ける青年は、右手の小指をピコピコと立てて見せる。
 「やっぱ分かるか?」
 「違うわよ!!!」
 照れるナイトメアとリナの言葉は見事に一致すると、その青年は一瞬驚いた顔をするがすぐにニコニコ笑って口を開いた。
 「いやぁ〜、本当に仲良しさんなんですねぇ。まぁ立ち話も何ですから、
僕の屋台でお食事してってください。」
 リナはナイトメアにエスコートされて屋台の長椅子に腰掛けると、ナイトメアもリナの隣に腰を降ろした。
 「ゼロス、俺冷な、食い物はゼロスに任せるよ。リナは何にする?」
 「あたし?あたしは烏龍茶で良いわ。」
 「おやおや、今時のお嬢さんにしては真面目ですね。僕は別に未成年でもお酒は飲んでいただいてますよ。ご遠慮なさらず、ご注文してください。」
 青年ゼロスの子供扱いな言葉に、リナはキッと睨む。
 「失礼ね!あたしはこれでも二十歳よ!!今はまだ仕事中だからお酒は飲まないのよ。」
 「これはこれは失礼しました。で、リナさんはどんなお仕事をしてらっしゃるんです?」
 「俺のライバルv」
 リナとゼロスの話にニコニコ笑顔で答えるナイトメア。
 「ほぉ!すると、怪盗さんですか?」
 「ち・・・・・ちょーっと待てぇ!?あんた・・・ひょっとして・・・こいつが何者か知ってんのぉ!?」
 ゼロスの答えに思わず絶叫してリナはゼロスに問い掛けると、ゼロスは一瞬キョトンとした顔をしてから、ニッコリ微笑んで答える。
 「えぇ知ってますよ、今世間を騒がす大怪盗ナイトメアさんです。因みに僕は親しみを込めてメアさんっとお呼びしてますけどね。どうしたんですリナさん、テーブルになんか突っ伏して?」
 ゆっくりと顔を上げるリナに心配そうに声を掛けるゼロス、それを肴に冷酒を飲むナイトメア。
 「それより、取り合えず折角のおでんが冷めてしまいますからお話はおでんを食べながらしましょう。ね、リナさん。」
 「・・・・・・・・そうね、お腹も空いたし。じゃあジャンジャン出してちょうだい!」
 「ほほぉ〜、嬉しい事言ってくださいますね。では、お言葉通りにジャンジャン食べてくださいね、リナさん。」
 ニコ目で言うゼロスにリナはニッコリと微笑んだ。


 「いやぁ〜、これは・・・凄い食べっぷりですよ。メアさんと余り変わらない位ですね。」
 「何よ?あんたがジャンジャン食べろって言ったんでしょ。何か文句あんの?」
 ゼロスの言葉にジロリと睨むリナ、それに対しゼロスはニコ目のまま答える。
 「いえいえ、余りの気持ちいい食べっぷりに感服してるだけですよ。僕のおでんはいかがでしたか?」
 「えぇ、とっても美味しかったわ。こんな所で店を開いてるのが勿体無い位にね。」
 密かに嫌味を言うリナだったが、ゼロスは彼女の言葉をそのまま素直に捉えていた。
 「いやぁ〜、そう言っていただけると嬉しいですねぇ。でも、これは趣味でやってるものですから、余り派手に商売出来ないんですよ。」
 (十分目立ってるじゃないのよ?)
 ゼロスの言葉に心の中で突っ込みを入れながら、リナは本題に入る事にした。
 「さて、じゃあ質問するわ。あんたナイトメアの仲間?そうじゃなきゃあどうしてこいつを知ってるのか教えて?」
 リナの言葉に、ゼロスはニコニコしながら答える。
 「僕は善良な一市民ですから、メアさんの仲間ではありません。メアさんと知り合ったのはですね、実はメアさんが僕の家に盗みに入ったんですよ。
で、その後盗んだ物を返しに来た彼にバッタリお会いしましてね、それで意気投合してしまったと――――――――、リナさん大丈夫ですか?」
 「お前さんコケるの好きだなぁ、大丈夫か?」
 思わずズッコケるリナを心配そうに見詰めるゼロスと、それを助け起こすナイトメア。
 「ちょおっとぉ!!どうやったら泥棒と被害者が仲良くなれるのよぉ!?
ってゆうか、あんたも被害届とか出しなさいよね!!」
 「被害と言われても、盗まれた物はちゃんと返って来た訳ですし。それに結構良い方ですよ、メアさんは。」
 「ま、そう言う事だ。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたし、帰るわ。」
 リナはスッカリ疲れきった顔で立ち上がると、バッグから財布を取り出した。
 「お勘定してくれる、いくらなの?」
 「何だリナ、もう帰るのか?夜はこれからだぞ?俺とホ・・・・・・あ、何でもありましぇ〜ん。」
 リナの腕を掴んで危ない発言をしようとした瞬間、リナにギロリと睨まれて冗談っぽく身構えるナイトメアだが、その表情は明らかに楽しんでいる。
 「え?あぁ、御代ですね。五百円になりますv」
 ―――――――――― 一瞬の間。
 「ご・・・・・五百円ですってぇ!?あんたフザケてんのぉ!?」
 「いいえ、僕は何時でも真面目です。」
 「だからって、ど〜この世界に屋台のおでん食べ尽くした相手に代金が五百円って請求する店があんのよぉ!?」
 「だからここに居ますってば。」
 ゼロスのこの一言にリナの商売人魂が爆発した。
 「バカ言ってんじゃないわよ!!こんな商売してたら、あんたすぐに路頭に迷うわよ!!!」
 「だから・・・・・これは趣味の店で、ちゃんと仕事はしてますから。」
 「おいおい落ち着けよリナ、こいつはこう見えてもゼラスコンチェルンの次期社長だぜ。」
 ――――――――― 又も訪れる一瞬の間。
 「ぜ・・・ぜ・・・・・ぜ、ゼラスコンチェルン!?あ・・・・あの大手企業で、確か世界でも十本の指に入る位の会社の次期社長ですってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」
 「そ、だから金の心配はしなくても良いんだぞ・・・って、おいリナ?聞いてるかぁ?」
 ニッコリ微笑むナイトメアだったが、リナが何の反応も返してこないので心配して彼女の顔を覗き込むと、リナは放心状態に陥っていた。
 「そんなに驚くものですかねぇ?別に大した事無いじゃあないんですけど、
ねぇメアさん。」
 「ま、普通だろ?そんなに驚く事じゃないと思うけど。」
 「・・・・ど・・・どど、どこが普通じゃあぁぁぁ!!!なぁ〜んでそんな大会社の社長がおでん屋何かやってんのよぉ〜〜〜〜!!」
 「いやぁ〜、ですから趣味でやってるんですってばぁ。」
 リナの突っ込みに動じる事無く、照れながら答えるゼロスにリナは思い切り脱力した。そんな彼女の肩に優しくナイトメアが手を置いて話し掛ける。
 「リナ、こいつは社長じゃなくて次期社長だぞ。」
 「どっちでも同じじゃあ――――――!!!」
 スパコーン!見事にナイトメアの後頭部にスリッパをヒットさせたリナは財布から五百円を取り出すと、バンと台の上に乱暴に置いた。
 「ご馳走様!」
 キッと二人の男を睨み付けると、リナは足音を荒げて帰ってしまった。
 「おやおや、随分元気な方ですねぇ。で、本当はどうなんですか?」
 ゼロスは少し困った顔でナイトメアに問い掛ける。ナイトメアはゼロスが
言いたい事を理解するとニッと笑い、コップに残る冷酒を一気に飲み干してから口を開いた。
 「ん〜、俺の一番のお気に入りだ。ゼロス・・・・取るなよ。」
 「ハハハ、取りませんよ。メアさんに敵う訳ありませんからね。それに僕にはもうフィリアさんって言う可愛い恋人が居ますからv」
 テレながらも嬉しそうに答えるゼロスに、ナイトメアも楽しそうに笑う。
 「なぁゼロス、悪いが・・・・・ナイトメアとしてこの店に来るのは今日が最後になりそうだ。」
 突然のナイトメアの言葉に、ゼロスは一瞬目をパチクリとさせるが直に何時ものニコニコ顔に戻る。
 「そうですかぁ、それは残念ですねぇ。メアさんは良い常連さんだったんですが、仕方ありません。どうやら、お目当ての物が見付かったみたいですね、その顔は。」
 ゼロスが言葉とは裏腹にどこか楽しそうにナイトメアに尋ねると、ナイトメアはニヤリと笑って答えた。
 「あぁ・・・随分遠回りしちまったが、やっと見付けたぜ。俺が、世界で一番欲しかったお宝がな。」
 「それは良かったですねぇ、では次にお見えになる時はちゃんと本当の名前で呼ばせていただきます。」
 「あぁ、又リナを連れて来るからな。ごっそさん、美味かったぜ。」
 「お待ちしてますよ、メアさん。」
 「おう!」

 こうして、最強の名探偵と天下の怪盗の最後の戦いが切って落とされたのだった―――――――――――と思う。





つづく