世界で一番欲しいモノ |
「ナイトメア、堂々と盗みの予告をあたしに出すなんてどうゆうつもりかしら?」 ここはリナが経営するマンションの屋上。そうナイトメアがリナに予告状を出した盗みの場所とはリナの住んでいる所だったのだ。 「どうゆうって、そのまんまの意味だが?」 何時に無く真剣な表情のナイトメアに、リナは思わず怒りの為に顔を赤くする。 予告状には『リナ=インバース様、今宵貴女の大切な物をいただきに参上。ナイトメア』と書かれていた。 「あんたフザケてんの?あたしがあんたが狙うほどの宝石を持ってると思ってんの?」 「う〜ん、宝石は持ってないだろうな。」 ナイトメアのその言葉にリナの口元が怒りでピクピクと動く。 「だぁ〜ったら!宝石を狙いなさいよね!!あたしに挑戦するんならわざわざこんなまどろっこしい事しなくても、ちゃんと相手してあげるわよ。」 リナの凄まじい剣幕にも動じる事無く、ナイトメアは静かな口調で話し始めた。 「・・・・・・・・俺が欲しいのは宝石じゃなかったんだ。今まで気付かなかったけど。」 「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」 ナイトメアの訳の解らない告白に、リナは思わず情けない声を出した。 「子供の頃、俺を可愛がってくれた婆ちゃんが死ぬ時・・・俺に言ったんだ。『自分だけの大切な宝物を見付けなさい』って。で、俺は宝物って言ったら宝石って子供心に思い込んじまってな。それで大きくなってから宝石を盗むようになったんだ。」 「そ・・・・・それが、あんたの怪盗になった理由な訳?」 「あぁ、でもなぁ、どんなに盗んでもどうしても違うって思っちまって・・・・・・」 「それで盗んでは持ち主に返すを繰り返したんだ?」 呆れた顔で尋ねるリナにナイトメアは苦笑いをしながら頷いた。 「そんな時お前さんに会ったんだ。それからは宝物を探して盗むより、リナが追い掛けてくれるのが楽しくて、嬉しくなっちまってたんだ。」 「否、楽しまれてもねぇ。」 小さく溜息を吐くリナ、こっちは結構必死だったのにと心の中で文句を言う。 「初めてだったんだ俺、あんなに楽しくて嬉しかったのは。だから、もう宝石は盗まない。怪盗は今日で廃業だ。それをお前さんに伝えたくて・・・今日は来たんだ。」 「な!?何、あんたそんな事あたしに言いに来る為にわざわざ予告状送ったってゆーの?」 思わぬナイトメアの発言にリナは少なからず動揺していた。 「あ、そりゃあ違うな。先刻言ったろ?俺が欲しいのは宝石じゃないって。」 言うが早いかナイトメアは素早くリナの唇を己の唇で塞いだ。 「な?な・・・な、ななななな!?行き成り何すんのよ!!!」 ファーストキスを奪われたリナは顔を真っ赤にしながらナイトメアを怒鳴りつける。だが、ナイトメアはそんなリナの態度に全く動じる事無く口を開いた。 「今日俺が盗みに来たのはリナ=インバース、お前さんの心だ。」 「え?ええええええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」 余りに想像の域を越えた展開に驚くリナに、ナイトメアは優しい笑みを浮かべてリナの髪を一房手に取った。 「お前さんに会って、俺は初めて婆ちゃんが言ってた自分だけの大切な宝の本当の意味がやっと分かったんだ。この世でたった一つしかない俺だけの宝物、それは俺が心から愛し、心から守りたいと想う人。それがリナ、お前だ。」 「ちょ・・・ちょっと!何勝手に決めてんのよ!!」 どんどん進んで行く話にリナは慌てて怒鳴るが、ナイトメアは優しく微笑みながらリナの顔を覗き込む。 「リナは、俺の事嫌いか?」 捨てられた子犬のような瞳で尋ねるナイトメアに、リナの心臓がドキリと高鳴った。 「き・・・嫌いも何も、あたし達は怪盗と探偵よ。敵同士じゃない。」 「じゃあ、俺が怪盗を辞めればリナは俺の事好きになってくれるか?」 真っ直ぐな青い瞳がリナを追い詰めていく。 「そ・・・・そんなの分かんないわよ!」 顔を赤くして答えるリナに対し、ナイトメアはニッと笑う。 「分からない・・・か?その答えだと、俺を好きになるかもしれないって事だよな?」 「勝手な事言うなぁ!!そんな簡単に人を好きになる訳無いじゃない!!」 リナのもっともな意見にナイトメアはポンと手を叩く。 「そんな事無いぞ。実際お前さんに一目惚れした奴が目の前に居るんだから。俺の事をもっと良く知れば絶対惚れるってv」 思い切り言い切るナイトメアに、思わず赤面するリナ。 「・・・・・・・・その前に、勿論自首して罪を償うんでしょうね?」 思い切り疲れきったリナの言葉に、ナイトメアはそれはそれは爽やかな笑顔を浮かべる。 「それなら大丈夫、先刻警察に行ったら何にもお咎めなしだって言われたぞ。」 「な・・何ですってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「そんなに驚く事じゃないだろ?ちょっとついでに偽物捕まえて連れてったら、警察が盛り上がっちまってな。どんだけ俺が本物だって説明しても信用してくれなくてな。金一封まで貰っちまったんだよ、ハハハ。おぉ、そうだ!これでゼロスの屋台で飯食うか?」 ナイトメアは金一封と書かれた封筒をリナに見せる。 「ハハハ、じゃなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!何なのよぉそれ!?あんた他人に罪被せて平気なの?最低ね。」 「最低って・・・前からゴッソリ盗みまくってる偽者をとっ捕まえたんで警察に連れてったんだぞ。そしたらそいつが「俺はナイトメアだぁ!!」って叫んで今までの事件は俺が全部やったんだって言うから、俺がナイトメアだって何度言っても誰も相手にしてくれなかったんだよ。」 「そんなバカな?一応裏付けは聞かれたんでしょ?」 驚きを隠せないリナの質問に、ナイトメアは小首を傾げる。 「裏付け?あぁ、そう言えば確かどこで何を盗んだかとか聞かれたな。」 「それよそれ、あんた何て答えたの?」 「う〜ん、全然覚えてないって答えた。どうしたリナ?床に何て寝たら風邪引くぞ?」 思い切り床に突っ伏すリナに、ナイトメアは心配そうに声を掛け手を差し出す。 「誰の所為だ、誰の!!!」 素直にナイトメアの手を取り立ち上がるリナ、ぶつけた鼻を擦りながら怒鳴る。 「?まぁ良いや、覚悟しておけよリナ。絶対俺に惚れさせてやるからなv」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?か・・・勝手な事言わないでよね。今度は負けないんだから!」 顔を真っ赤にしながらリナは思う、多分こいつには勝てないだろうと。 終 お・ま・け 「リナぁ〜!新作作ってきたぞ!味見してくれ!!」 バンと勢い良くリナの事務所のドアが開いた。そこには可愛いフリルのエプロンをした長身金髪の美青年が入って来た。 「あんたねぇ・・・勝手に事務所に入ってくんじゃないって何度言えば分かるのよ!」 机をバンと力一杯叩くリナの目の前に綺麗に盛り付けられたホールケーキを置いてから、青年はニッコリと微笑んで口を開く。 「お?そうだったか?済まん済まん、俺の最新作を一番にリナに食ってもらいたくてさ。」 青年が本当に嬉しそうに話し掛けるので、リナは仕方無いと溜息を吐くスタスタと給湯室へ向かって歩き出した。 「おいリナ、どこに行くんだ?」 「紅茶入れんのよ。折角セイルーン王国ホテルのパティシエ長、ガウリイ=ガブリエフ氏が作ってくれた新作ケーキなんだからさ。ゆっくり味わいたいじゃない。」 ウインクをして給湯室に姿を消すリナ。その言葉に幸せそうな笑みを浮かべるガウリイ。 そう、彼こそが元ナイトメアである。彼は今、リナの経営するマンションに引越しをし、仕事が休みの度に新作お菓子を作っては差し入れに来る日々を過しているのだった。 楽しそうに紅茶を入れるリナ、実は彼女のハートを盗む事に成功しているのをガウリイはまだ知らない。 END |