始まりの物語
――3――

















 長い抱擁を交わした後、
 ふと我に返ると少し困ったように微笑むガウリイの顔。
 どうして?
 あたしの表情を読んだのだろう、
 「いや、嬉しいんだが、このままで居ると一寸・・・な」
 珍しく、歯切れの悪いガウリイ。

 それって、その・・・。

 「いやぁ、ずっと我慢してたから、その、リナ・・・。
 告白してすぐ、いきなりそういう展開って、嫌だろ?」
 そう言いながらも、抱きしめる腕の力は変わらないまま。

 あたしは嬉しいのと照れくさいのと
 無性に泣きたくなってしまう心を抑えるのに必死だった。

 言葉と身体がちっとも伴ってないじゃない!!
 ・・・ほんっと、バカな奴。

 あの日、初めて逢った森の中であたしに関わらずにいれば
 光の剣を失う事も、しょっちゅう危険な目に遭うことも無かった男。
 あたしの事を嫌って言うほど見てきたくせに、
 それでもあたしを選んでくれた大事な男。

 あたしはあんたに何をしてあげられる?

 あの日、サイラーグで禁呪を唱えたあたしは、金色の闇に
 自分自身を対価として支払らい、混沌の中に飲み込まれた。
 そんなあたしを、ガウリイは自分の身も省みずに
 混沌の中まで追いかけ、連れ戻してくれた。



 今のあたしにできるのは・・・・・・。




 そっと、目を閉じながら、ガウリイの顔に自分の顔を近づけて。
 あたしからする最初のキス。
 ほんの少し触れただけで、恥ずかしくて離してしまったけれど。
 腕を伸ばしてガウリイの背中に手を回す。
 頬と頬をくっつけて、「あのね、もう、保護者じゃないよね?」と囁く。

 「ガウリイが好きだから、だから・・・いい・・・ょ」
 最後の方は掠れちゃったけど。
 新しい関係を築く第一歩。
 優しい彼はきっと、あたしがいいって言うまで無理強いしない人だから。
 最初の扉は、あたしが押そう。





 「今日、ここで保護者は卒業する」
 真面目なガウリイの声。
 じっとあたしを見つめて、「これからは恋人、って名乗るから」
 そのままあたしの頭を引き寄せて、肩の上に乗せながら髪を撫でてくれた。
 少し低い声で、「そうなる事を急がなくてもいいんだぞ」と囁く。

 「・・・あたしが・・・してほしい・・・の」
 未知の体験への恐れから、どうしても声が掠れてしまうけど。
 あたしは、ガウリイが欲しい。
 だから、勇気を振り絞って、想いを告げた。

 「そんなかわいいことを言ったら、もう止まらないぞ」耳元に響く、声。
 いつもよりも低い、ガウリイの声。
 身体がゾクリと震えた。
 手のひらの中心が、疼いてくる。

 コクリと喉が鳴った。

 ゆっくりと髪を撫でていた手が、ソロソロと背中に下りてくる。
 まるで壊れ物に触れるように優しく、優しく撫でている。

 「リナ」
 今まで聴いた事のない声色で名を呼ばれて顔を上げると、
 じぃっとあたしを見つめるガウリイの瞳が。
 
 まるで獲物を狙う肉食獣のような。
 魂までも食らい尽くそうというかのような、激しい熱を帯びた、瞳。

 「ガウリイ・・・」

 でも、怖くはない。
 これもガウリイだから。
 今まで保護者の仮面の下に隠していた、欲望を隠さない男の顔。
 これから起こる未知の体験も、ガウリイとなら怖くないよ・・・。






 ゆっくりとした口付けを受ける。

 最初は触れ合うだけ。
 何度か触れては離しを繰り返した後、少し深いキス。
 そっと口を開くと、暖かく柔らかいものが入ってきた。

 体が震える。
 手の痺れは足先にも腕にも広がっていく・・・。

 あたしを驚かさないように、少しずつ、少しずつ深いキスを。
 いつしかあたしの舌とガウリイの舌は絡まりあい、擦れあう。
 息が苦しくなると一旦口付けを止めて、鼻で息をするんだ、と教えられた。

 もう一度重なる唇。
 思う様口の中を動き回るガウリイの舌。
 ようやく開放された時には、二人の間を透明の糸が繋いでいた。
 もう目が霞んできて、まともにガウリイの顔が見られない。

 「もう、保護者には戻れない。戻りたくない。
 どれだけ泣いても、怖がっても・・・リナを、俺の女にする」
 決意を込めたその言葉を聴いた瞬間、全身がぞくんっ!と跳ねた。

 「・・・して」

 もう掠れた囁きしか出せないあたしの唇に。
 噛み付くように激しい口付けが舞い降りた。