compromise heart
























 「嫌ぁ―――――――――!!」
 叫び声を上げながらカルリアーナはジーマの傍に駆け寄った。
 「ジーマ!確りしてジーマ!!」
 己のドレスが血に染まるのも気にせず、カルリアーナはジーマを抱き起こし必死で彼の名を呼び続ける。
 「・・・・・・・・・・・っ、カルリアーナ姫・・・儂は大丈夫・・・・・・・・・・」
 そのままジーマは目を閉じる、出血が酷くて意識を失ってしまったのだった。
 「ジーマ・・・・お父様・・・・どうして?どうして、ジーマを!?」
 カルリアーナは涙を必死で耐えながら今だ呆然と立ち尽くしている父、ヴォルビィーナに問い掛ける。
 「それはですね、彼、ジュアラール国王がロイと言う男と同じ、私の操り人形だからです。残念ですがあなた達のお父様はお母様がお亡くなりになった時、一緒に殺しておきました。でも、ご両親も二人仲良く亡くなったのなら寂しくないでしょう。」
 世間話でもするかの様にバルンダルが口を開き、そして指をパチンと鳴らす。
 「嫌あぁぁぁぁぁぁ!!!父様ぁ!!??」
 ファルリーアの悲鳴が礼拝堂に響き渡る、バルンダルが指を鳴らした瞬間、ヴォルビィーナが砂のように姿が崩れ始めたのだ。
 『済まぬ・・・カール、ファル』
 完全に崩れる瞬間、悲しげな低く渋い声が聞こえてきた。それを聞いて泣き崩れるファルリーアとカルリアーナ、そして唇を噛み締め悔しさを顕わにするゼリアス。
 「リナ、今の声」
 「・・・・・・・・・ジュアラール国王の声ね」
 「ははははははははははは!美味い、美味いぞ!流石に今までの負の感情の中で一番美味いぞ!カルリアーナだけで無く、他の者も中々美味だ!!気に入った!貴様等全員ここで飼い殺しにしてやろう!」
 楽しげに笑いながら言うバルンダルに、リナはドスの効いた声で話し掛ける。
 「それは良かったわね、じゃあこれだけ楽しんだんだから・・・・・あなた、滅びなさい。」
 「フフ、それは無理でしょう。人間如きが魔族の私に勝てる筈が無い、諦めて私のデザートにでもなりなさい、リナ=インバース。」
 「悪いがこいつは俺だけのモンだから、それは却下だ。」
 「ガウリイ!?」
 「ファルリーアを泣かせる奴は全て俺の敵だ、バルンダル!あんたには消えてもらうぜ!!」
 「ゼリアス!?」
 ガウリイとゼリアスがリナの隣で剣を構えながらバルンダルに啖呵を切る。
 リナが後ろを見ると、ファルリーアとカルリアーナがジーマにリザレクションを掛けていた。
 「あたしはね、やりたい事がまだ一杯あるのよ。あんたみたいな三流魔族の食事の為なんかに人生捨てる気なんかないわ!」
 「三流だと!!!」
 リナの言葉に怒り狂うバルンダル、しかしリナはバカにした視線をバルンダルに向けると話を続ける。
 「偉そうな事言ったって、たかが食事するのに10年掛かって直接食事が出来たんじゃあさ、ぜ〜んぜんダメじゃない。あんたなんか人間の死体を使わなくちゃ人型にさへなれないんでしょうが?」
 「ぐ・・・ぐぅっ、許せん!!」
 歯をギリギリ軋ませながら搾り出すように話すバルンダルに、リナはニヤリと笑い軽く手をパタパタ振りながら、更に話を続ける。
 「あらヤダ、図星指されて切れるなんて人間以下ね。これじゃあ三流どころか四流ね、あたしの相手じゃないわ。」
 「貴様ぁ!!殺す、殺す、殺す!!」
 リナの言葉にバルンダルは完全に切れた、リナは素早く呪文を唱える。ゼリアスはアストラル・バインを剣に唱え即席魔法剣を作り出し、ガウリイはブラスト・ソードでバルンダルの背後に回り込む。
 「ディル・ブランド!」
 興奮したバルンダルが突っ込んできた所を、リナが魔法を解き放つ。バルンダルはそれを避けようとした所にゼリアスが突っ込んで行き、斬り付ける。
 「うがぁ!」
 寸前で飛び退き避けたものの、少し掠ったのだろう呻き声を上げるバルンダル。しかし、彼が着地した場所には既にガウリイが待っていた。ガウリイの剣裁きに付いて行けずバルンダルは堪らず後退る。
 「な・・・何なんだ?貴様等本当に人間か!?」
 「だから言ったじゃない、あんたは人間より弱い四流だってね!エルメキア・ランス!」
 呪文を素早く唱え発動させるリナ、彼女の魔法をまともに受けるバルンダル。
 「うごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げよろめいたバルンダルに、横から斬りかかる一つの影。影の正体は血塗れのジーマだった。
 「ジーマさん!大丈夫なの?」
 ファルリーアかカルリアーナのどちらかに掛けてもらったのだろう、ジーマの剣はゼリアスと同じく赤く光っていた。
 「おう、もう全然平気じゃ!美味しいとこを儂にも残してくれんと困るなリナ殿!」
 ジーマの言葉にリナは笑顔で答える。
 「あのねぇ、もっと美味しい所を譲る相手が居るでしょう。」
 ウインクしながらチラリと背後を見るリナに、ジーマも又ニッと笑顔を見せる。
 「そうであったな。」
 「ふざけるなぁ!!」
 リナとジーマの会話に、怒りに任せ口から炎を連続で吐き出すバルンダル、しかしガウリイは軽々と避け、ゼリアスは二人の姫の援護に回り、リナとジーマも余裕で避けている。
 リナがファルリーアとカルリアーナに視線を向け、笑顔で叫んだ。
 「さぁ二人とも、いっちょ派手にやっちゃってちょうだい!」
 「「はい!」」
 二人は厳しい表情でバルンダルに向き直ると同時に呪文を唱え始めた。
 「「永久と無限をたゆたいし、全ての心の源よ、尽きる事なき蒼き炎よ、我魂の内に眠りしその力、無限より着たりて裁きを今ここに。ラ・ティルト!!」」
 「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!バカなぁ!!こ・・・ん・・・・・・・・・な・・・」
 青い柱が魔族を包み込み、バルンダルは雄たけびを上げながら消滅した。
 「やったぁ!!」
 ゼリアスがファルリーアの元に駆け寄り、彼女を抱き締め喜びの声を上げる。
 「・・・・・・・・カルリアーナ様、全て終わりましたな。」
 ジーマがカルリアーナの傍で優しく微笑みながら話し掛けると、カルリアーナも静かに微笑み小さく頷いた。
 「終わったみたいだなリナ。」
 ガウリイがリナの頭に手を置きながら何時もの様に優しく撫でる、リナは頬を赤く染めながらもガウリイのやりたいようにさせていた。
 「・・・・ガウリイ」
 「・・・・リナ」
 お互いの名を呼び見詰め合うリナとガウリイ、そしてガウリイがリナを抱き締めようとした。その瞬間――――――――
 「ジーマさーん!約束どうり依頼料に成功報酬上乗せヨロシクね!」
 リナはジーマに向かって走り出し、行き成り報酬の話をし始めたのだった。その場に取り残され空振りした腕の行き場に困り果てているガウリイを残して、リナは何やらジーマとカルリアーナの三人で話し合っていた。
 「リナって俺よりガキなんだな、ガウリイの奴可哀想に・・・同じ男として同情するぜ。」
 溜息混じりのゼリアスの言葉に、ファルリーアは笑いを必死で堪えながら楽しそうに答える。
 「リナさんのは只単に照れ隠しだと思うわよ。」
 見て御覧なさいと言ってファルリーアがリナを指差すと、リナは少し頬を赤く染めながらジーマやカルリアーナと話をしていたが、時々チラチラとガウリイを盗み見ていた。
 「・・・そうみたいだな、しかし今のガウリイを見ると、やっぱり同情するぜ・・・俺は。」
 ゼリアスが言いながらガウリイを見詰める、ガウリイは大きな体をこれ以上無い位小さく蹲り、床にのの字を書いていたのだった。


 それから、ジャルアランに全て説明をし、今回の結婚式は取り消す事に話が決まった。ジャルアランはかなり嫌がっていたが、リナの脅し・・・もとい説得に渋々納得した。
 そしてお詫びと言う事でジャルアランはリナ達一行に部屋を提供し泊る事を勧め、リナ達はその申し出をありがたく受ける事にしたのだった。







     つづく