compromise heart


























 「はぁー!!」
 カルリアーナが何やら呟いた後、彼女の手の平から白い閃光がロイを襲う。しかし、ロイは軽々と避ける。
 「どりゃあ!!」
 ロイが避けた所をジーマが走り込み斬り付けるが、ロイはそれを寸前で身をかわし呪文を唱える。
 「ファイアー・ボール!」
 「ディム・ウイン!」
 リナの放った魔法がファイアー・ボールに接触した瞬間、大爆発を起こす。辺りに立ち込める爆煙を目くらましにして突っ込むゼリアス。
 「やぁ!!」
 ザン、鈍い音と共に視界が開け始める。アストラル・バインを掛けていたゼリアスの剣によってロイの右腕が床に落ちていた。しかし、ロイは笑ったままで立っている。
 「な!?」
 驚きの声を上げるゼリアス、それもその筈、ロイの腕からは血が一滴も流れていなかったのだ。
 「・・・・・・・人間じゃないのか?」
 呟く様に言うジーマ、それに対しガウリイがリナの横で剣を構えたまま問い掛ける。
 「リナ、『あれは』何だ?」
 意外な質問にリナは苦笑いを浮かべながら答えた。
 「魔族じゃないの。」
 「そうなのか?」
 リナの答えにガウリイが驚きの声を上げる、それを見てリナが逆に問い掛ける。
 「どうして?」
 ガウリイはロイに視線を向けながら静かな口調で答えた。
 「何の気配もしないんだ、あいつ」
 (気配がしない?)
 「何言ってんのよ、こんなに瘴気が立ち込めてるのに!?」
 リナがロイの攻撃を避けながらもガウリイに話し掛ける。
 「違う、あいつからは何も感じないんだ!」
 ガウリイは飛んでくる魔法をブラスト・ソードで斬り付けながら話を続ける。
 (何も感じない?ガウリイが何も感じない?斬られても血が出ない腕、痛みを感じない体。まさか!?)
 「ガウリイ、援護して!!」
 「分かった!」
 リナの言葉にガウリイはロイに剣を向け走り出す、ちょうどロイがゼリアスを魔法の風で吹き飛ばした瞬間と同時にガウリイが斬りかかるが、ロイは手をかざしファイアー・ボールを唱え始める。
 「エルメキア・ランス!」
 ガウリイが壁になって死角になったリナが、魔法を発動させる。ガウリイは素早く左に回り込み魔法を避ける。すると、ロイの動きが突然止まった。
 バシュッ!リナの魔法が見事にロイに決まる、フラリとロイの体が揺れたと思った瞬間、ロイは再び呪文を唱え始めた。
 (やっぱり!)
 「ファル、あんたラ・ティルト唱えられる?」
 父ヴォルビィーナの傍に居るファルリーアに近付き、声を掛けるリナに彼女はコックリと頷き姉に視線を向ける。その意味を理解したのか小さな笑みを浮かべるカルリアーナ。
 「ジーマ、ゼリアス、父様をお願いします!姉様行きますよ!!」
 ファルリーアの言葉にジーマとゼリアスが後ろに下がる、その代わりにファルリーアとカルリアーナが前に出る。
 「ガウリイ退いて!!」
 リナの呼びかけにガウリイが、ロイの左肩を斬り付けながら右に飛ぶ。
 「「永久と無限をたゆたいし、全ての心の源よ、尽きる事なき蒼き炎よ、我魂の内に眠りしその力、無限より着たりて裁きを今ここに。ラ・ティルト!」」
 二人の呪文が見事に重なり、ロイの体を青い柱が包み込む。その様子をリナは真剣な表情で見詰めていた。
 ロイの体が床に倒れる、誰もが倒した。そう思った時、ロイは何事も無かったかのような顔で立ち上がったのだった。
 「フフフ、効きませんな。どうしました?もう終りですか?」
 「えぇ、これで終りにしましょうか。行くわよ、ブラスト・アッシュ!!」
 リナの唱えた呪文がロイを襲う、そして黒い塵となってロイは消滅した。それはあっけない程の決着だった、それと同時に立ち込めていた瘴気が薄れていく。
 「終わったのですか?」
 震える声で話すファルリーアに、カルリアーナが静かに頷く。するとガナンド王が小さく首を振り辺りを見回した。
 「わ・・・私は、今まで何を?其方は何者だ!ここで何をしている?」
 「・・・・・・・操られてただけなのか?」
 ゼリアスの言葉にガナンド王は不思議そうな顔をする、そして何が何だか理解していない息子、ジャルアランに視線を向ける。
 「何があったのだ?そなたは・・・・・そなたは、私の息子なのか?どうしてそんなに成長しておるのだ?」
 流石にこの父の言葉に驚いたのか、ジャルアランは顔面蒼白になっていた。
 「じゃあ・・・ガナンド王は10年もの間、ロイに操られていたって事なのか?」
 ゼリアスの問いにリナが答えるが、彼女の答えはその場に居た全員が固まってしまった。
 「な〜に何時までも茶番劇をしてるつもりなの?今回の黒幕のくせにさぁ、そうよね、ガナンド王?それとも別の名前があるのかしら?魔族さん。」
 「ま・・・・魔族だって、父上が・・・・・・・・・・嘘だ!!そこの女、嘘を付くな!」
 叫びながらリナを指差し批難するジャルアランに、ガナンド王は優しく微笑み息子を軽く振り払う。
 「うわあぁぁぁ!!」
 しかし、ジャルアランの体は反対の壁まで飛ばされ、そのまま意識を失ってしまった。
 「フフフ、良くぞ気付いたなリナ=インバース。何故私が魔族と分かった?」
 ガナンド王、否、魔族の問いに不敵な笑みを浮かべリナが口を開く。
 「あら仕掛けさへ分かれば簡単よ、操られていたのがあなたじゃなくてロイだった、只それだけよ。」
 「ほう、何故ロイが人形と分かった?」
 「そうね、魔族のくせに呪文を唱えないと魔法が発動しなかった事と・・・斬られても痛がらなかった事かしら。確かに、只の剣なら痛みなんか感じないでしょうね、あんた達魔族は。でもアストラル・サイトからの攻撃であるアストラル・バインやガウリイの持つブラスト・ソードで斬られて痛がらないのは変だわ。」
 リナの説明にフッと鼻で笑うガナンド王、リナは自信満々にニッと笑う。
 「だから、アストラル・サイトからの攻撃で試させてもらったのよ、もしロイを操っているのなら彼を媒介している存在も少なからず影響を受けるんじゃないかって、あなたはそれで自分の存在を知られるのを恐れてロイのコントロールを解いた。だから、ロイは一瞬動かなくなった。何か違うかしら?魔族さん。」
 「流石ですな、リナ=インバース。あなたに敬意を称し、私の本当の名を教えて差し上げましょう。私はバルンダルと申します、短いお付き合いなると思いますがお見知りおきを。」
 ガナンド王、否魔族バルンダルは優雅な仕草でお辞儀をする。それに対しリナは腕を組み話を続ける。
 「あら、それは光栄ね。じゃあ聞くけど、何が目的なのバルンダル?」
 「食事ですよ、あなたはご存知でしょう?我々の食事がどのような物なのか。」
 バルンダルの世間話でもするような口調に、リナはキッと魔族を睨み付ける。
 「随分大袈裟な食事の仕方するのね。それで、はいそうですかって信じろって言うの?」
 「私はグルメでしてね、これまでにも色々な所の高名な方の負の感情を食してきました。そんな時、噂であの国の事を知り是非賞味をしたくなりました。が・・・流石アミュレット・プリンセスの力と言うだけはありました。
私では近付く事も出来ず仕方なくこの国の王を殺し、王に成り済まし時を待ちました。そこに現れたのがロイとゆう男でした、私は彼を殺し彼を操りあの国に送り込み、あの男を通してアミュレット・プリンセスの負の感情を食していたのです。」
 バルンダルの言葉にカルリアーナは怒りの形相で問い質した。
 「じゃあ、お母様を殺し、ライルを殺し、お父様の魂を封印しファルリーアを嫌がる結婚を無理矢理させようとしたのは、全て・・・・・・・食事の為だと言うのですか!?」
 カルリアーナの言葉にバルンダルは肩を竦め意外と言った感じで話し掛ける。
 「それ以外の何があるとゆうのですか?大変美味しかったですよ、あなたの感情は。今も私を満たしてくださる。しかし・・・・・・まだ少し足りぬ」
 「うおっ!!」
 バルンダルの言葉が終わるか終わらないかの内に、ジーマの叫び声が聞こえてきた。
 「ジーマ!!!」
 カルリアーナが思わずジーマの名前を叫んだ、その場に居たものが見た光景は、血に染まりその場に蹲るジーマの姿と、血に染まったナイフを握り締め、虚ろな瞳で立ち尽くしているヴォルビィーナの姿だった。

                            





      つづく