compromise heart |
やっと辿り着いた礼拝堂の扉の前に立つリナが、後ろに居る三人に小さく頷くと扉を蹴り開けた。 「その結婚式ちょっと待ったぁ!!」 「な、何者だ!?」 ジャルアランの怯えた声に、リナは含み笑いをしている。 「フフフ、っ・・・・フフ、あーはっはっはっははははははははははは!!可笑しい可笑しい!!」 リナの含み笑いは何時の間にか大爆笑に変わっていた、流石にそれには一同が固まってしまう。 「あ・・・あの〜リナさん?」 ファルリーアがビビリながらリナに声を掛けると、リナはまだ笑いが止まらないのか肩が微かに揺れている。 「だって、だって・・・ガウリイのあの格好!似合い過ぎてて・・・あはははははは!!」 「リナぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 情けない声を上げるガウリイに、驚きの声を上げたのは隣に立っているジャルアランだった。 「ゲッ!その声は・・・男!?ハッ!良く見れば・・・そこに居るのはファルリーアじゃないか?どうなっているんだ一体???」 「残念だったな、俺の名前はガウリイって言うんだよ!」 ガウリイは着ていたドレスを脱ぎ捨てると、何時ものアーマーを着けてはいないが普段着ている服装でリナの傍に走り寄る。 「お父様こちらに!」 カルリアーナがヴォルビィーナの手を取り、矢張りリナ達の傍に走り寄る。 「おやおや、これはお揃いで。しかし・・・いけませんな、ヴォルビィーナ王。我等を騙すとは。」 スッとリナ達の目の前に立つロイ、礼拝堂の隅で震えるガナンド親子。 「ハッ、なーにふざけた事言っちゃってくれてっかなぁ。知ってたんでしょ、あんた。この姫が偽者だって!」 ビシッとロイを指差しながらキッパリ言い切るリナにニッと笑いながら答えるロイ。 「ほほぉー、何を言い出すかと思えば・・・あなた方が我々を騙していたにも関わらず開き直りですかな?ではお聞きします、何故あなたはそう言い切れるのかな『リナ=インバース』殿?」 「分かるわよ、それとあなたの本当の目的がファルリーアじゃなくて、彼女のお姉さんだって事もね!」 『何ぃ!?』 リナの言葉にロイ以外の全員が驚きの声を上げた。 「どうゆう事なんですかリナさん!?」 驚いた表情で問い掛けるファルリーアに、リナは静かに笑う。 「おかしいって思ってたのよ、どうして見張りがあたし達に何も仕掛けてこないのかってね。そしてその見張りが現れだしたのが、あたしとある人物が接触してからだって事も腑に落ちなかったのよ。」 「ある人物?」 ゼリアスが問い返すとリナは小さく頷き言葉を続ける。 「そう、その人物とはズバリ、そこにいるファルリーアよ!でも、それだと納得出来ない事があるのよ。」 「何じゃ?」 今度はジーマが問い掛ける、リナはウインクしながら答えた。 「結婚式をする筈の姫がお城に居る筈なのに、どうしてファルは見張られていたの?誰かと間違えられたから?それはまず無いと考えて良いわ、じゃあどうしてか。それは城に居る姫が偽者で彼女こそ本物のファルリーア姫だと知っていたからよ。」 「成る程、でもそれでどうして目的が私では無く姉様だと?」 「あぁ、それはね、偽者だって知っていてガウリイをガナンドに連れて行ったからよ。本物の姫の居場所を知っているのに、どうして偽者を連れて行く必要があるの?本当にファルが目的ならあなた自身を連れて行けば良い事でしょ。」 リナは一旦口を閉じロイを観察する、しかし彼は顔色一つ変えずにリナを見詰めている。リナは静かな口調で話を再開した。 「なのにそれをしなかった、つまり本当の目的はファルじゃない。でも、あなたを利用しようとは思ってたのよ、目的が何かは知らないけどね。で、どうしてあなたのお姉さんが目的か分かったのは、ファルの父親がロイと一緒に城を出たって聞いた時よ。つまり、ジュアラール国王に言う事を聞かせるのは容易いって事よね、そんな相手にこんな回りくどい作戦を立てるバカは居ないわ。」 「流石はリナ=インバース殿、噂に違わぬ方ですな。では、それだけ分かっているのなら・・・カルリアーナ姫をこちらにお渡し願おう。」 ロイが右手を差し出しリナに話し掛けるが、リナはフッと鼻で笑いながら答えた。 「お断りよ、それよりこちらとしてはどうしてファルのお姉さんにそんなに執着するのかを聞きたいわね?」 「リナ=インバース殿、あなたはアミュレットをご存知かな?」 突然のロイの問いに、リナは彼の言いたい事の真意が読めず顔を顰める。 「ちょっとあんた、あたしをバカにしてるの?魔道士でアミュレットを知らない人なんて居ないわよ。」 リナの答えに満足そうに微笑むと、ロイは静かな口調で話を続けた。 「では、そのアミュレットの力を持つ人間が存在するのはご存知か?」 「アミュレットの力を持った人間ですって?」 護符の力を持つのは、魔法でルビーなどの宝石の中に魔方陣を埋め込んだ物等色々な種類があるが、中にはそう言った不思議な力を持つ者が居ても不思議ではない。 「実際あった事ないけど、噂では聞いた事があるわ。確か・・・国を災いから守る存在だってね、それがどうしたってのよ?」 「それがそこに居るカルリアーナ姫だと言ったら、分かって貰えますかなリナ=インバース殿?」 ロイの言葉に表情を曇らせるカルリアーナと、彼の言葉に驚きを隠せないリナ達。 「カールがアミュレット・・・だって?」 ガウリイの言葉にロイはニヤリと笑う。 「そうですな、アミュレット・プリンセス―――カルリアーナ姫?」 「嘘です、私はそんな事聞いた事もありません!」 ファルリーアがロイをキッと睨みながら答える、しかし、カルリアーナが全員の前にスッと立ち、静かに微笑んだ。 「ロイ、良くご存知です事。どうしてその秘密をお知りになったのか聞きたいわ。」 「姉様!?」 カルリアーナは振り向きファルリーアを見詰める、その瞳は悲しげな光を宿していた。 「ファーちゃんが知らないのは当然よ、これはジュアラール国でもアミュレット・プリンセスを受け付いた者にしか伝わらない秘密なんですもの。アミュレット・プリンセスの力を受け継ぐのはジュアラール王家の選ばれた姫のみ。・・・・・・・お母様もそうだったわ。」 悲しげな表情で語るカルリアーナに、ファルリーアは愕然とする。姉だけでは無く、母親まで自分に隠していた事がかなりショックだったのだろう。 「この力は生まれ持ったモノ、この力を受け継ぐのはジュアラール国の姫のみ・・・しかし、受け継ぐのは只一人。この力を受け継いだ者は、不可思議な力を使う事が出来るわ。」 「それが式神ね?」 リナの問い掛けに無言で頷くカルリアーナ、そして沈痛な面持ちで彼女は話を続けた。 「でも、この国を守る力を持つのはジュアラール国では只一人だけ・・・護符の力を得るのは先代のアミュレット・プリンセスが亡くなった時。」 「そんな・・・・・護符の力があるのなら、どうしてお母様はあんな酷い殺され方したんですかぁ!?」 ファルリーアの血を吐くような問い掛けに、カルリアーナは驚きの余り目を見開いた。 「知ってたの・・・・・・・ファルリーア?」 「姉様は入れてくれなかったけど、後から色んな人が噂をしているのを聞きました。切裂かれ、血塗れで・・・礼拝堂で逆さ釣りにされて・・・・亡くなっていたって・・・・・・」 「・・・・・・・・そう、あなたには見せたくなかったのよ、あんなお母様の姿を・・・そして私がその力を受け継ぐ瞬間を」 「どうしてですか?」 小さく尋ねるファルリーアにカルリアーナは優しく微笑む。 「アミュレット・プリンセスは国を守るだけの存在なの、己の魂を糧にしてジュアラール国を外敵から守る。あなたがそれを知ったらどうする?」 「そんなの、姉様だけを犠牲になんかしません!私達でも出来る事を―――――――」 ファルリーアの言葉をカルリアーナは己の言葉で遮った、優しい笑みを浮かべながら。 「だから言えなかった、力を持つ私でも辛い・・・・・モノをあなたに背負わせたくなかったから」 「フフフ、お優しいですなカルリアーナ姫。これからはその命、このガナンドの為に是非使っていただきたい。」 「ふざけるなぁ!!」 カルリアーナの言葉に、ロイが笑いながら口を挟むとそこにジーマが叫んだ。 「貴様、姫を何だと思っているんだ!カルリアーナ様は道具ではないんだぞ!!何故ガナンドなどに力を貸さねばならん!?」 「おや、分かりませんかジーマ殿。この国の絶大なる攻撃力とカルリアーナ姫の絶大なる守護力が合わされば、最強の国になるでしょう?戦士であるあなたなら良く分かる筈だと思いますが?」 「ロイ!貴様だけは許さん!!」 行き成りジーマは剣を抜くとロイに斬りかかった、しかし、ロイはスッと手の平を目の前に突き出し何かを呟く。 「ダメ!ジーマさん避けてぇ!!」 リナの声にジーマは咄嗟に左に跳んだ、すると先刻までジーマが居た場所にファイアー・ボールが炸裂した。 「っ!」 ジーマは何とか受身を取り床で一回転をし立ち上がる、ロイは楽しそうにクスクス笑う。 「仕方無いですね、では腕尽くでもカルリアーナ姫をいただきましょうか?」 「そんな事させないわよ、行くわよガウリイ!!」 「ちょっと待てリナ!」 呪文を唱えようとした瞬間、ガウリイに呼び止められて苛立ちながら振り返るリナ。 「何なのよぉ、この忙しい時に?」 ガウリイはリナの胸元を指差しながら口を開いた。 「否、行くわよってお前さんが俺の剣抱かかえてるんだけど」 「あ!あはは、そうだった。はい、ガウリイ。返したわよあんたの剣、じゃあ改めて行くわよ!」 「おう!!」 「フフ、面白い。ではこちらも手加減しませんよ!」 ロイが言いながらもう一度ファイアー・ボールを仕掛けてきたが、それをガウリイがブラスト・ソードで斬り付け、真っ二つに切裂く。それが戦闘の合図となった。 つづく |