compromise heart
























 夜の帳が下りる頃リナ、ファルリーア、ジャン、ゼリアスの四人が城に向かう途中、ジーマが漆黒の馬に乗って姿を現した。
 「おぉ、ジャン、ゼリアス!リナ殿とファルリーア姫とは会えなんだのか?その見慣れぬ者達は何者じゃ?」
 ジーマの問いに思わず苦笑いをする四人、それがジーマの癇に障ったのだろう。ジーマが声を荒げて話す。
 「何が可笑しいとゆうのだ!ジャン、ゼリアス!お二人はどうした!?」
 「ジーマさん、そのお二人ならここに居るわ。」
 金髪の少女の声にジーマは驚きの表情を浮かべる。
 「り・・・リナ殿か!?すると、そちらの黒髪の剣士は・・・・・まさか!?」
 「久し振りですジーマ、心配を掛けました。」
 その声を聞いてジーマは慌てて馬から下りる。
 「ファルリーア姫、無事でございましたか?ジーマは心配しましたぞ。」
 「はいはい、感激のご対面中悪いんだけど、ちょ〜っと聞きたい事があるのよジーマさん。」
 迫力のあるリナの声にジーマは一瞬後退りした。
 「あ・・・い・・・依頼料ならば成功報酬を後で少しだけたそう、それで許してはくれぬかリナ殿?」
 顔を引き攣らせるジーマに、リナは彼の胸倉を掴んでドスの利いた声で話し掛ける。
 「それはそれでありがたく受けるけど、その前に・・・ガウリイとカールって人が仲良くバカンスってど〜ゆ〜事か説明してもらいましょうかぁ?」
 「ば・・・バカンス!?そ・・・そんなものに行ってはおらんぞ!それより大変なのだ、詳しくは道すがらに話す。お主達急いで城の裏まで来てくれ!ファルリーア姫は一緒に馬にお乗りくだされ!儂は先に行って馬車を用意する、待っておるぞリナ殿!!」
 切羽詰った顔で言うと、ジーマはファルリーアを馬に乗せその場を走り去ってしまった。
 「ジャン、ゼリアス、あたし達も急ぐわよ!」
 ゼリアスはすでに走り出していた、ジャンはリナの言葉に頷くと全速力で走り出した。

 深夜馬車の中、すでにガウリイとカルリアーナは出発をしてかなりの時間が立っていたらしい。ごく普通の荷馬車で移動をするリナ達、手綱はジーマが握っている。因みにリナは何時もの服装をしている、ファルリーアは変装用に着ていた服のままだが、ウイングは外していた。
 「大体の話は分かったわ、やっぱりロイって奴が今回の首謀者だったみたいね。それにしてもカールって人、ムカツクわね!そうならそうと手紙に書けば良いじゃないのよ!」
 ガナンド帝国はどんなに急いでもジュアラール国から丸一日掛かってしまう。リナが親指の爪を噛みながらブツブツ文句を言っているのを、頬杖を付いて見詰めるゼリアス。
 「なぁリナ、恋人が心配でイライラするのは分かるけど、もう少し落ち着いたらどうだ?」
 ゼリアスの少し呆れた言葉に、リナは思い切り顔を赤く染めると慌てて冷静を装い話し出す。
 「な〜に言ってくれちゃってっかなぁ〜、あいつはねぇ、只の旅の連れで便利なアイテムって処なの。そんな関係じゃないわ。」
 リナの言葉にゼリアスとファルリーアは同時に驚いた顔をする、ジャンは訳が分からずキョトンとしている。
 「あんた・・・・・ガウリイの事気付いてないのか?」
 「何が?」
 自分の質問を質問で返したリナにゼリアスは盛大な溜息を吐く、その態度がリナには気に入らなかった。
 「何よ、大袈裟な溜息なんか吐いちゃって!?あたしがガウリイの何に気付いてないってのよ?」
 「否、俺も正直あんたの事あんまり言えないけど、ガウリイはあんたの事どう思ってるのか本当に知らないのか?」
 リナはゼリアスの言いたい事が全く分からず、更にイライラしながら口を開いた。
 「あんたは知らないでしょうけどね、ガウリイはあたしの自称保護者!あのクラゲはそれ位にしかあたしの事思ってないのよ!分かった?」
 「そんな筈は無いと思うぜ、だってあいつの俺を見る目って・・・ファルリーアと同じだったから。」
 ゼリアスは思い出す、身代わりとなった男が自分をよく見詰めていた事を。最初は警戒していた所為か気付かなかったが、その視線は自分を通して誰かを見ていたのだと気付いた。そしてファルリーアと想いを通じ合わせ、やっと彼の視線の本当の意味を知った。あれは愛する人を見詰める眼差し、そうファルリーアと同じ光を宿した瞳だったのだから――――――
 そっとゼリアスの手をファルリーアが優しく握り締めた、そして静かに頷く。きっと彼の言いたい事が分かったのだろう。
 「ゼリアス、今は戦う事だけを考えましょう。リナさん、ロイは一体何者なのでしょうか?」
 「え!あ・・・あぁ、う〜ん・・・まぁまず間違いないのはロイはガナンド側の人間って所ね。そして狙いはずばりジュアラール国を自分の物にする為。でも・・・それでは解けない謎が多いけどね。」
 「と、言われると?」
 問い掛けてきたのはジーマだった、馬を全速力で走らせ正面を見据えたままで。
 「うん、ロイが来たのが10年前。どうして10年も行動を起こさなかったのかって事よ。」
 「そうだね、でもさリナ、それはやっぱりファルリーア姫が成長するのを待ってたんだと思うよ。」
 ジャンの答えにリナは首を横に振る。
 「それも考えたわ、でもね、それでも10年も待つ必要があるとは思えないのよ。まだ何か裏にある気がするの・・・・もっと大きな何かが。まぁ、それを今あーだこーだ言っても仕方無いんだけどね。」
 リナは肩を竦めると外の景色を眺める、しかし、見詰めているのは景色では無く自称保護者の面影だった。


 「ねぇガウちゃん、一つ聞いてもいい?」
 リナ達よりかなり前に城を出たカルリアーナとガウリイの二人を乗せた豪華な馬車が、結構早いスピードで走っている。
 「何だ?」
 「あなたは好きな人居るでしょ、やっぱりゼリアスのそっくりな娘?」
 「あ・・・あぁ、でもどうしてそんな事聞くんだ?」
 驚いた様に聞くガウリイにカルリアーナは寂しげに答えた。
 「どうして告白しないの?やっぱり怖い?」
 確信を付くカルリアーナに表情を硬くするガウリイ、暫く見詰め合う二人。ガウリイは小さく溜息を吐くと静かに答える。
 「あぁ怖いさ、今までの温い関係を壊しはしないかとか、下手をすれば・・・・二度と会えなくなるんじゃないかとか、そんな事ばかり考えて・・・・・・何度も悪夢にうなされた事もある。あんたもあるんだろ?」
 ガウリイはカルリアーナに視線を向ける、彼女は静かに微笑んだ。
 「・・・・・・・・あるわよ、でも・・・後悔してる。」
 「後悔?」
 カルリアーナは静かに頷く。
 「私も最初はあなたと同じ事を考えてたの、でもね彼は死んだわ・・・私の知らない所でね。私は泣いて泣いて、涙が枯れても泣き続けたわ。どうして、彼が死ぬ前に本当の気持ちを伝えていなかったのかって・・・・彼が私をどう思っていたのかって、もう答えを聞く事も知る事も出来ない。そして今・・・私は・・・・」
 「好きな人が居るんだろ?」
 ガウリイが優しい笑みを浮かべる、カルリアーナは小さく頷いた。
 「えぇ・・・・・居るわ、私の大事な人。でももう・・・死なせたくないの、だからあなたを巻き込んでしまった・・・・・ごめんなさい」
 涙を流すカルリアーナにガウリイは首を横に振ると、優しい声音で語り掛ける。
 「大丈夫だよ、俺達皆でお茶を飲むんだろ?俺は死なないさ、俺が死ぬ時はあいつの腕の中って決めてるんだからな。だから・・・・・・・死ねない」
 (そうだ、俺の生死を決められるのはリナだけだ。だからリナが俺の死を望まない限り、俺は死ねないし、死なない)
 「ガウリイ・・・・・羨ましいわ、私にもあなたの様な勇気が欲しい」
 呟く様に言うカルリアーナにガウリイは苦笑いを浮かべながら答えた。
 「・・・俺は、只の臆病者だよ」
 何時の間にか朝日が昇り、戦いの幕も又、開かれようとしていた。

                              






     つづく