compromise heart

























 「分かりましたわ、お父様。でもファルリーアにも準備が色々とございます、急に言われましてもすぐに出発とは行きません。ですので、お父様が先にガナンドに行って頂き、その旨をガナンド王にお伝え願えませんでしょうか?」
 カルリアーナの凛とした態度に対し、ヴォルビィーナは無表情のまま立っている。そしてこの沈黙を破ったのはヴォルビィーナの後ろに控えているロイだった。
 「宜しいでしょう、ねぇ、ヴォルビィーナ様。女性は色々と準備が掛かる物、ここは一つ姫の言う通りに致しましょう。」
 「うむ、では私は先にガナンド帝国に行っておる。待っているぞ、愛しき姫達よ。」
 一瞬だけヴォルビィーナの瞳が光を映したと思ったが、すぐに濁ったエメラルドの瞳に変わる。
 「では姫様方お待ちしておりますよ、フフフ」
 二人が出て行ってからカルリアーナはジーマに向かって厳しい口調で命令をする。
 「ジーマはここに残りなさい。」
 「な!何と申される姫!?儂も行きますぞ!」
 「なりません、あなたはここに残りリナ殿と合流し、この事を報告しなさい。良いですね?」
 「し・・・しかし、それでは姫が!」
 カルリアーナは厳しい表情でジーマを見る、その瞳には有無を言わさぬ迫力があった。
 「リナ殿に今の状況を説明できるのはあなただけです、何も分からずにリナ殿がガナンドに来れば返り討ちになる可能性が高くなります。ジーマ、残ってくれますね?」
 ニッコリと微笑み優しく尋ねるカルリアーナに、ジーマは視線を反らして口を開いた。
 「・・・・・・分かりました姫、くれぐれもご無理なさらぬよう。では、ごめん。」
 そう言ってジーマは部屋を出て行った。
 「ちょっと失礼、ガウちゃんすこ〜し待っててくれる?」
 何時もの軽い調子のカルリアーナに、ガウリイは苦笑いを浮かべる。
 (ここにも居たか、不器用な優しい奴)
 カルリアーナは懐から一枚の紙を取り出すと、近くにあったペンで何かを書き始めた。
 「何書いてんだ、カール?」
 「ウフフ、秘密よ秘密。退屈だろうけど、大人しく待っててねガウちゃん。」
 そして書き終わるとカルリアーナは何やら呪文を唱え始める。すると、手にしていた紙が一羽の鳩に変わり、クルリと一回彼女の頭の上を飛ぶとそのまま窓の外へと飛んで行ってしまった。
 「さ〜てと、ではガウちゃん、準備をしましょうかね。戦いの・・・・・」
 「・・・・・そうだな。」
 「そうそう、ちょっと辛いと思うけどガウちゃん歩く時少し中腰でお願いね。」
 「ハハ、仕方無いよな。」
 お互い笑い合った、ある意味彼女も似ているのだろう。ガウリイが愛する少女に、憎まれ口を叩きながらも相手を大切に思う優しすぎる心の持ち主に。
 「帰って来たら皆でお茶を飲みましょうね。」
 「そうだな、楽しみだよ。」
 そして、二人は戦いの為の準備を整え始めたのだった。


 夕暮れ時、リナとファルリーアはジャンとの待ち合わせ場所のカフェに来ていた。
 「遅いわね、何してるのかしらジャン?」
 「まだ10分も立ってない、落ち着けよリリーナ。」
 又も変装をして少し広場から離れたカフェにリナとファルリーアがお茶を飲んでいる。兎に角元の顔立ちが綺麗な二人、当然人の目を集めている。
 傍目、綺麗な金髪にクリッとした炎のような赤い瞳、愛くるしい唇と、完全に可愛い部類に入るリナと、傍目凛々しい顔立ちに長い艶やかな黒髪、透き通る湖を思わせる青い瞳、気品のある身のこなしを卆なくこなすファルリーア。そんな二人が見詰め合ってカフェに居るのだから、目立たない訳がない。
 「あれは、ジャンって、後ろ走ってるのって・・・・・」
 「ゼリっ・・・ぐ」
 ファルリーアが思わず大きな声を上げ、リナが慌てて手で彼女の口を塞ぐ。
 「やだわガウリイったら大きな声でゼリーが食べたいなんて、あたしが買ってきたのがお家にあるからあたしのお家で食べましょう?」
 慌ててファルリーアの手を握り、店に勘定を払ってゆっくりと歩き出す。ジャンもリナの行動の意味に気付いたのかそのまま走り抜けていく。
 「リナさん!どうしたんですか行き成り!」
 人気が途絶えた裏道に入ってから、ファルリーアが珍しく怒った口調でリナに問い詰める。
ファルリーアはゼリアスに会えなかったのが悔しいのか、珍しくリナに食って掛かった。
 「落ち着きなさいよ、あんな目立つ所であの二人にあったら変装の意味無いでしょが!兎に角例の場所に戻るわ、そこに二人も向かってる筈だから。」
 「わ・・・分かりました。」
 リナの言葉にやっと取り乱していた事に気付いたファルリーアは、恥かしそうに頷いた。
 (恋する乙女が好きな人の前で冷静な判断を無くすのは、誰でも一緒ね)
 そんな事を考えながら思わず苦笑いをするリナに、ファルリーアが不思議そうな顔で見詰めた。

 もう少しでモーテルの前という所で、リナは微かな気配を感じ足を止める。すると一羽の鳩がファルリーアの頭の上を一周クルリと回ってから彼女の肩に止まる。
 「何!?」
 「リナさんご安心ください、姉からの連絡ですわ。」
 そう言ってファルリーアが何かの呪文を唱えると、鳩は白い霧になったかと思うと再び霧が集まり、一枚の紙に姿を変えた。
 「そ・・・・それって式神!」
 式神(しきがみ)紙に命を吹き込み攻撃や、防御、伝達、尾行などが出来る呪方である。因みにリナの使う召喚とは異質な物である。
 「凄いわねあんたの姉さん、あたしも初めて見るわ。」
 「そうですか?退屈凌ぎに覚えたのだと姉は言っていましたけど。」
 (退屈凌ぎでこれだけの高等な術を覚える人って・・・・郷里の姉ちゃんみたいな人だ)
 リナとファルリーアはその紙を持ってモーテルに入った、そして提供してもらっている部屋に戻り変装用のウイングを外すと早速ファルリーアが紙に目を通し、引き攣った笑みを浮かべた。
 「どうしたの?まさか、何か変な事が起きたの!」
 「ああぁ、リナさんはご覧にならない方が宜しいかと思いますが!」
 何故か紙を見せないようにするファルリーア、しかし人間、見ちゃダメよ♪と言われると余計見たくなるものである。
 「良いから見せなさいよ。」
 リナはファルリーアから紙を奪い取るとその内容に目を通す。
 「――――――――――――――!な・・・何じゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 絶叫を上げ思わずリナは紙を握り潰した、それを見て苦笑いをするファルリーア。
その内容とは『はぁ〜い、リナっち初めまして。私カール、ヨロシクネ♪実はリナっちの大事なダーリンとバカンスに行く事になったの。詳しくはジーマにき・い・て。じゃあ、ばっはは〜い。PSリナっちが来るまであなたのダーリン、独り占めさせてもらうわね。』
 「ず・・・随分、お茶目なお姉さんねファルリーア。」
 凄い形相のリナにファルリーアは引き攣った笑顔で答える。
 「え・・・・・・・・・・・えぇ、まぁ」
 「あたし、ジーマさんに会ってくるわ!どうゆう状況かし〜っかり聞かせてもらわないと納得出来ないし!」
 「お・・・落ち着いてくださいリナさん!」
 「あたしは十分落ち着いてるわよ!この一大事な時に、事も在ろうにガウリイとバカンスですって?ふざけんじゃないわよ!!ガウリイはあたしのモノよ!」
 リナは興奮の余り自分が何を言っているのか分かっていなかった、それを見て思わずファルリーアがクスリと笑う。そこに突然ドアが乱暴に開けられた。
 「リナ、姫!」
 「ジャン、遅かったじゃない!」
 「ファルリーア様!!」
 「ゼ・・・・・・ゼリアス」
 部屋に飛び込んで来た人物、ジャンとゼリアスにリナとファルリーアは同時に声をかけた。
 「ファルリーア様・・・・・・ご無事で・・・」
 ゼリアスの瞳に涙が浮かぶ、それを見てファルリーアは優しく彼の頭を撫でてやる。
 「・・・・・・・・・・久し振りですゼリアス、少し痩せましたか?」
 「・・・・・・・・ファルリーア様こそ、お疲れのご様子・・・」
 それ以上お互い何も言えずに居る二人をリナとジャンは静かに見守っていた。
 「あのさぁ」
 その静寂を破ったのはリナだった、彼女は頭をポリポリ掻きながら口を開く。
 「あんた達そんな形だけの挨拶で満足なの?少しは本音でぶつかり合ったらどう?」
 「「え?」」
 リナの言葉に振り向く二人、そしてゼリアスの顔は驚きに固まっていた。当然だろう、何しろ自分と同じ顔の人物が目の前に居るのだから。
 「リナさん!」
 「ファル、あんたそんな事そいつに言いたいんじゃないでしょ?逃げ出した理由、ゼリアスに聞かせてあげなさいよ。ゼリアス、あんたも男なら本気で相手にぶつかってみなさいよ!仮にもこのリナ=インバース様と同じ顔してるんだから、ウジウジしないでよね!」
 「・・・・・・・・・・・」
 ゼリアスがリナを見詰める。そして、静かにファルリーアに視線を向けると一度大きく息を吸い、吐き出すように言葉を紡ぎ出す。
 「ファルリーア様、俺は初めてあなたに会った時から恋焦がれていました。好きです・・・身分や年など俺には関係無い、ファルリーア・・・愛してる。」
 ゼリアスの言葉にファルリーアは思わず涙を流す、そしてゆっくりと口を開いた。
 「私も・・・・・・・・ゼリアス、あなたが好きです。あなたの事を一度として子供だなどと思った日などありませんでした。私は・・・・・あなただけを愛しています。」
 二人は静かに抱き合い唇が触れ合いそうになる、そこにリナの咳払いが聞こえ思わず赤くなりながら離れるゼリアスとファルリーア。
 「やれやれ、これで問題の一つは片付いたわね。じゃあ次はあたしに付き合ってもらうわよ!まずジーマさんを探すわ!ジャン彼は今どこに居るの?」
 「あ・・・あぁ、城に居るよ。カルリアーナ様とガウリイさんと一緒だった。」
 ジャンの言葉にリナが一瞬ピクリと眉を上げる。
 「じゃあ城に行くわよ!」
 言うが早いかリナは金髪のウイングを被り部屋を飛び出した。その後を矢張り黒髪のウイングを慌てて被ったファルリーア、ゼリアス、ジャンが続く。
 (ガウリイの奴、他の女とイチャイチャして・・・許さないだから!!)
 ファルリーアはそんなリナを見て、只苦笑いを浮かべるだけだった。
                             







    つづく