compromise heart |
ゼリアスがレビテーションで窓の下まで降りると、そのままジャンを抱えて戻ってきた。 「お初にお目にかかります、カルリアーナ姫。ジーマ様、報告が遅くなりまして申し訳ございません。」 ジャンはカルリアーナとジーマに敬礼をする、そしてガウリイの顔を見て驚いた。 「あ〜!あなたがガウリイさんですね?流石にリナがファルリーア姫を見て驚く筈だ。」 「リナに会ったのか!」 余りの剣幕に驚くジャン、ガウリイが怒ったのはジャンがリナを親しげに呼んだ事だとはカルリアーナしか気付かなかった。 「はい!?え・・・えぇ、ファルリーア姫も一緒です。」 「見付かったのか!?ファルリーア様はどこに居るんだ!!」 今度はゼリアスに詰め寄られジャンは思わず後退る。 「お・・・落ち着けゼリアス!案内するから、その前に僕も幾つか聞きたいんだ!」 「何じゃ?」 ジーマの言葉にやっとゼリアスはジャンから離れた。 「はい・・・実はここにはジーマ様に報告する目的では無く情報を集めたくて戻ってきたんですが、ゼリアスに聞けば結構詳しく分かるかと思って、まさかカルリアーナ姫とジーマ様もご一緒とは思いませんでした。」 「説明は良い、無礼も許す。何を聞きに参ったのかを聞かせよ?」 「はい、実はあれからリナと宿屋で会いました。その前に広場で噂が流れている時に一度彼女と会っています。かなり結婚話に驚いていたようです。彼女はすぐこの城に来たと言ってますが、ジーマ様は留守だと追い返されたそうですが?」 ここでジャンは一度言葉を区切り、ジーマの様子を覗う。ジーマは本気で驚いているようだった。 「し・・・知らんぞそんな話?第一儂は今日はずっと城に居て外には一歩も出ておらん!」 「そして噂が流れるのが早すぎると言っていました。」 「儂等はそれを今知ったばかりじゃ、どうなっておるのだ?」 ジーマの問いにジャンは自信なさげに答える。 「リナの話では、城内に黒幕が居るのではと・・・・・」 「やはりロイしか考えられないわね。で、その他には?」 カルリアーナが尋ねるとジャンは少し困った顔をすると、ポツリポツリと話始めた。 「その後は・・・リナが行き成り見張りが居ると言って僕は別行動をとる事になりましたから詳しくは。でもこの後ある場所で落ち合う約束をしています。」 「どこだ、それは!」 思わず怒鳴るガウリイにジャンはキッパリと言い切った。 「言えません、もし城内に裏切り者が居るのならどこから情報が漏れるか分からない。もしその場所が漏れてファルリーア姫やリナが襲われたら困るからね。」 「・・・・・・・・・ぅ」 (リナ、頼むリナ!無茶をしないでくれ!) 「分かったわ、ジャン、ゼリアスを連れて行って。そしてファルリーアとリナさんをここに連れて来て、正直味方は多い程助かる状況なのよ。私達はそれまで待機していましょう。良いわね、ガウリイ殿。」 「・・・あ、あぁ」 ガウリイの顔に一瞬過ぎる安堵の表情、カルリアーナはガウリイにコッソリ耳打ちをする。 「案外モテるみたいねあなたの可愛いお連れさん、気を付けた方が良いかもよ。」 「うっ!」 思わず顔が青くなるガウリイに、一同訳が分からず首を傾げる。その中で一人笑いを堪えているカルリアーナを軽く睨むガウリイだった。 (あ・・・・・・・遊ばれてる、絶対遊ばれてるぞこのねーちゃんに) その時、突然扉をノックする音にその場の全員が固まる、そしてカルリアーナはゼリアスとジャンに小声で言う。 「ゼリアス、レビテーションでジャンを連れて窓から出なさい。すぐ高度を上げるのよ良いわね?」 「分かりました、行くぞジャン」 「OK、では失礼します。」 言うが早いかゼリアスは呪文を唱えるとジャンと二人、窓の外から出て行った。それと同時に開かれる扉。 「お父様!」 そこに立っているのは明るい茶髪にエメラルドの瞳の落ち窪んだ目、痩せこけた頬。立派な口髭を蓄えた初老の男性、この城の主ヴォルビィーナだった。そしてその横にはロイがニヤリと笑って立っている。 「さあ、ファルリーア。結婚式が行われる、私と一緒にガナンド帝国に行くのだ。」 「お父様!?まだファルリーアは病弱の身、隣の国に行くには体力が―――――」 「黙りなさい」 カルリアーナはキッと父親を睨むが、静かな叱責を受け思わず口を閉じる。ジーマは驚きを隠せずにいた、確かにヴォルビィーナに目の前の姫が偽者だと知らせた筈なのにと・・・ 「カルリアーナ、これは王の命令である。娘と言えど口答えは許さん。そなたも来るがよい。共に姫の幸せを願おうぞ。」 そう虚ろな瞳で、王ヴォルビィーナは言い放ったのだった。 つづく |