compromise heart


























 「ゼリアス、一つ聞いていいか?」
 ガウリイが近くの椅子に腰掛け、剣を磨いているゼリアスに声を掛けた。
 「何だガウリイ?」
 素っ気無く答えるゼリアスに、思わずガウリイは苦笑いをする。
 (何かに集中すると他事には見向きもしないのはリナそっくりだな)
 「どうしてお前さん、姫さんを探さないんだ?」
 ゼリアスは剣を磨く手がピタリと止まる、そして怒りと悔しさの入り混じった赤い瞳をガウリイに向けた。
 「俺だって探しに行きたいさ、でも・・・ロイの野郎、俺がファルリーア様を探しに行くと二度と見付からないって神託があったって言いやがって、ヴォルビィーナ様の命令でファルリーア様の捜索から外されちまったんだよ。で、街の連中やあの下衆野郎に姫が居なくなったのを悟られないように、あんたが来る前からこの部屋を警護しろって命令付きでだ。」
 その時、ドカドカと凄い足音をさせて部屋に飛び込んできたのはジーマだった。
 「お主の連れは何とゆう事を仕出かしてくれたんじゃ!!」
 ジーマの言葉にガウリイの表情が一気に険しくなる。
 「リナに何があったんだ!」
 しかし、ジーマの答えはガウリイが想像するものとは違っていた。
 「あったのではない!仕出かしてくれたのだ!事もあろうに姫が結婚の日取りを決めただのと街中に噂を流したのじゃ!!これでは何の為に秘密裏に事を運ばせたのか分からぬではないかぁ!!大体がだ、あんな小娘――――――――」
 途中でジーマが口を閉ざす、余りにも凄まじい殺気がガウリイから放たれるのに驚いたのだ。
 「おっさん、何があったかは知らんが・・・リナを、あいつを侮辱するのは許さない。リナはそんな事は決してしない、それ以上リナを悪く言うのならこの場であんたを殺す。」
 怒鳴っている訳でも無く、否むしろ静かな口調で話すガウリイだが溢れ出す殺気を隠しもしない。先に折れたのはジーマの方だった。
 「す・・・済まぬ、証拠も無しに疑ってしまった、ゆ・・許せ。」
 「ジーマ様、ファルリーア様がご結婚の噂とはどうゆう事ですか!」
 今度はゼリアスがジーマに問いただす、婚約はしているものの姫の病気を理由に延期しているこの状況で行き成り結婚の噂。ゼリアスが焦るのも無理は無い。
 「分からんのだ!儂も兵の一人からたった今報告を聞いた、だからこそ今ガウリイ殿に尋ねに来たのだ!仮にも姫が帰ったとゆうのはリナ殿と儂等数名しか知らぬ事じゃからな!」
 「あら〜、居るじゃないジーマ。ファーちゃんが帰ってるのを知ってて尚且つそんな事しそうな人が。」
 「カルリアーナ様!?誰です?そんな馬鹿げた事をする者は!」
 何時の間に入って来たのかカルリアーナはフフッと鼻で笑うと、分からないのという目をジーマに向ける。
 「居るでしょ、ガウちゃんが着たとほぼ同時に来た孔雀の化け物みたいな男。彼は誰に聞いたと思う?」
 彼女の言う男がジャルアランの事だろうと誰もが納得するが、彼と例えられた孔雀が可哀想だと思うのはガウリイだけだった。
 「ロイ殿か!?」
 「ピンポーン!正解よジーマ。」
 ジーマの答えにカルリアーナはニッコリ微笑む。
 「そうだ!しかし・・・儂はロイ殿には何も話しておらん!なのに何故彼は姫が戻ったと知っておる!?」
 「・・・・・・・・・神の神託」
 ゼリアスがポツリと呟く、ガウリイが珍しく横から口を挟んだ。
 「なぁ、そのロイって一体何者なんだ?」
 その問いに答えたのはカルリアーナだった。
 「あの男は10年前に突然お父様の前に現れたのよ、その前の素性を知る者は居ないわ。最初の神託は・・・お母様の死の予言。そして・・・次に親衛隊隊長の死、まだまだあるわよ。日照りに洪水、全てあの男の神託は当ったわ。そして何時の間にかお父様はロイの言う事しか聞かなくなったのよ。年貢を上げ税金を上げ・・・それはもう色々ね」
 カルリアーナはここまで言うと大きく溜息を吐いた。
 「・・・・・・・・・・・いいえ、ヴォルビィーナ様は何かお考えがあっての―――――」
 ジーマが言い掛けて口を閉じる、彼も本当は分かっていたのだ。己が敬愛する王が壊れてしまったのを。
 「ありがとうジーマ、父様の心配をしてくれて。でもね、そろそろ答えを出さなければいけない時なのかもしれないわ。ゼリアス、貴方はファルリーアを探しなさい。」
 「姫!?」
 カルリアーナはゼリアスに近付くと優しく抱き締めた。
 「そして二人で逃げなさい、あなた達は幸せになりなさい・・・・ライルの分も私の分も。ファルリーアはあなたが守ってあげなさい、ファルリーアは強くて優しくて・・・脆い、そしてあの子はあなたの守護だけを本当は求めています。でも、あなたを思うからこそ、その想いを表には出さない不器用な、可哀想な子」
 カルリアーナの言葉をジーマとガウリイは黙って聞いていた。そしてガウリイは彼女の言葉が自分にも向けられている気がしていた。
 「ガウリイ殿、あなたはどうなさいますか?これは我等一族の問題、あなたはそれに巻き込まれただけの事。」
 ガウリイは肩を竦める、ここで逃げればきっとリナに嫌われる気がするから。リナに嫌われる事はガウリイにとっては死の宣告も同じ事・・・・・
 「ここまで来たなら付き合うぜ、多分俺の連れが傍に居ても同じ事を言うと思うしな。」
 そう言ってウインクするガウリイに、涙を堪えながら微笑むカルリアーナ。そして固い決意を顕にしたジーマ。
 「カルリアーナ様、俺ファルリーア様を探します。そして二人で戻ってきます!」
 「ゼリアス!」
 カルリアーナは驚いた声を出す。しかしゼリアスはニッと笑いながら答える。
 「だってここでカルリアーナ様を犠牲にして俺がファルリーア様と逃げたら、一生俺ファルリーア様に嫌われちまう。それなら俺達に出来る事をして皆で幸せになる道を選びたい!」
 (・・・・・・リナ)
 ガウリイの目に、目の前の少年と今まで一緒に旅をした少女が重なる。
 「では、我々は何をすれば良いですかな姫?」
 ジーマの質問にカルリアーナはキッと表情を厳しくする。
 「まずお父様に会います、ジーマはこの城の者を全て避難させなさい。」
 「俺はどうする?」
 「あなたは私の妹姫として付いて来てください・・・あら、何かしら?」
 窓に何か当る音にカルリアーナは首を傾げる、窓を開け外を見たゼリアスが思わず声を上げた。
 「ジャン!?」
 「ゼリアス、久し振り。元気だったか?」
 小さな石を片手に、ニッコリ手を振るジャンの姿がそこにはあった。

                              





    つづく