compromise heart |
リナとファルリーア、そしてジャンがリナの部屋に集まっていた。 「ふぅ、さて・・・あたしは依頼通りファルを見付けたわ。」 「・・・・・・・・・・やはり私をお城に連れて行くのですか?」 不安そうに尋ねるファルリーアに、リナは首を横に振る。 「いいえ、どうも今回の話・・・気になるのよ。」 真剣な表情で答えるリナに今度はジャンが問い掛ける。 「どうゆう意味だいリナ?」 「うん、そうね・・・まず、ファルの結婚の日取りが決まったって噂。あたしはジャンから聞いたんだけど、ジャン、あの噂何時頃流れたの?」 「え?あ、あぁ、あれはリナに会う少し前位かな。確かお昼を回った位だったと思うよ。何で?」 その答えにリナではなくファルリーアが口を開いた。 「お昼ですか?リナさんがこの街にいらしたのはお昼位、つまりその前にガウリイさんがこの街に来ている訳ですが・・・少し噂が流れるのが早くありませんか?」 「良く知ってるわね、あたしがお昼に街に来たって?」 リナの問いにファルリーアはニッコリ微笑んで答える。 「えぇ、街で偶然見掛けたのがそれ位の時間でしたから。あれからゼリアスが街に現れる事などありませんでしたから、対・・・」 (そっか、ファルはゼリアスが探しに来るのを待ってたんだ。そこにあたしが現れた、しかも女の格好で。だから確かめたくてあたしの後を付けてたんだ) 「ファルの言う通り、つまりあたし達はジーマさんに頼まれてガウリイだけ先に馬車でこの街に着いた。でも、歩いて一時間程度の場所だから精々10分もしない内にこの街についた筈よ。でも時間が問題、あたし達とジーマさんが会ったのはお昼少し前。そして噂が流れたのはお昼。どう考えたって早すぎるわ。」 リナの言葉にジャンは只頷く、そしてリナはそれを見てから話を続ける。 「もう一つは、あたしが結婚の噂を聞いて思わずヴォルビィーナの城にジーマさんを訪ねに行ったんだけど、門番はあたしの顔を見てジーマさんが居ないと言い切った、しかも城内に報告も確認もしないで。」 リナの話にジャンが首を傾げる。 「じゃあ本当に居なかったんじゃないのかな?門番も出掛ける所を見たから居ないって言い切れたのかもしれないよ。」 ジャンの言葉にリナは小さく首を横に振る。 「それこそ在り得ないわ、ガウリイを身代わりにする為には最低でも王に報告しなくちゃいけない筈よ。だって、本物の父親がその事実を知らなかったら後でばれた時、大騒ぎになるわ。 それに、ファルの身代わりにするなら信頼の置けるメイドさんに事情を話して着替え、化粧なんかをしなくちゃいけないし、ガウリイに注意をしたり色々と護衛の手配なんてのもしなくちゃいけないだろうし。そんな忙しい中でジーマさんが出掛けるのは考え難いわ。」 ファルリーアが静かに頷きながら答える。 「そうですね、それにジーマは真面目で忠実な方。その仕事を他人に任せ出掛けるとは思えません。それですと、一体誰があの噂を?」 リナは暫し考え、そして立ち上がると窓の外を見詰めながら呟く様に言った。 「ジャン、悪いんだけどファルにサイズに合いそうな男物のの服とライトアーマーとレイビア買ってきてくれる?ブーツもね。それから表からじゃなくて裏から出て、帰りも裏から入るのよ。良いわね?」 「あ?わ・・・分かった、行って来るよ。」 リナから金貨を受け取り、言うが早いかジャンは部屋を飛び出した。 「どうなされましたのリナさん?」 「・・・・・・・・・顔を出さないで、見張られてるわ。変装してここから脱出するのよ。」 宿を出る二人の人物、一人は小柄な長い金髪の少女とやはり長い黒髪に青いシャツとズボン、そしてライトアーマーにレイビアを装備した青年剣士。二人は宿屋を出て無言のまま広場まで来ると立ち止まった。 「ジャン。」 金髪の少女がジャンの名前を小声で呼ぶと、どこからか先刻までリナ達と一緒に行動していたジャンがこっそりと姿を現した。 「上手くいったね、リナ、ファルリーア様。」 「シーッ、まだ近くに見張りが居るかもしれないから静かに。良い、あたしはリリーナ、ファルはガウリイって呼ぶのよ。分かった?」 無言で頷く二人。 「リリーナ、よかったら良い所があるんだが、行かないか?」 ファルリーアが爽やかな笑顔でリナに話し掛ける、しかも男声で。 (・・・・・・・・うぅ、黒髪にして良かったぁ〜。あんなセリフ、ガウリイそっくりのままだったら聞いてて恥かしいよ) 思わずリナが顔を赤く染めるとファルリーアは静かに微笑む、それが様になるから恐ろしい。多分今の彼女はどこから見ても完璧な男だろう。 「良いわよ、あんたカッコいいから付き合ってあげるわ。じゃあジャン、又後でね。」 「あぁ、楽しんどいてよ。」 そしてジャンと別れリナとファルリーアが向かったのはモーテルだった。因みにジャンにはこの場所を教えてあるが、待ち合わせ場所は別の場所を指定してある。 「しっかし、良くこんな場所を隠れ家にしてたものね?」 「あぁ、昔世話になったばあやが経営してるんだ。安心して良いよ、信用出来る人だから。」 「あのさぁ・・・そろそろ普通に喋っても良いわよ。ここなら暫くは大丈夫みたいだし。」 リナの言葉にファルリーアはニッコリと微笑むと黒髪のウイングを外した。 「どうでしたリナさん、これなら正体が気付かれないと思いませんか?」 何やら楽しそうな笑顔で話すファルリーアにリナは溜息を吐く。 「・・・・・・・・・・・・・・それより、何であんなに男の振りが上手い訳?」 「フフッ、私演劇が好きなものですからお父様に内緒で練習してましたの。お母様がお芝居が好きでしたから・・・・・」 (過去形?まさかファルのお母さん・・・・・) ファルリーアはリナの視線の意味に気付いたのだろう、寂しげに微笑むと静かに口を開く。 「・・・えぇ、お母様は10年前に亡くなりました。・・・殺されたんです。王族の神殿での中で・・・・・・・無残な殺され方だったそうです。」 「ごめんなさい、辛い事思い出させちゃったみたいね」 リナが謝るとファルリーアは行き成りリナを抱き締めた。 「ありがとう・・・・・・・・・優しいんですね」 ファルリーアの声が震えている、そして抱き締められながらリナは思う。彼女が抱き締めているのは自分ではなく、自分を通して見詰める最愛の人なのだと。だから暫くリナはファルリーアに抱き締められたまま動かずに居た。 「ごめんなさいねリナさん、驚かれたでしょ?では、これからどうなさいますか?」 暫くしてファルリーアは落ち着いたのかリナから離れ笑顔で尋ねる。リナはそんな彼女を見てガウリイを思い出していた。 (すぐに元の顔に戻っちゃうんだ、本当にガウリイみたいな人) 「そうね、まずはあたしとジーマさんを会わせたがらないのが誰かを突き止めればいいんだけど。まぁそれはジャンが戻ってからにしましょう。」 そう、今ジャンは城に戻っていた。ジーマに報告する為にでは無く、情報を収集してもらう為に。 「そうですね、私にも心当たりが無い訳ではないのですが・・・・・・・」 「誰なの?」 リナが静かな口調で尋ねると、ファルリーアは真剣な表情で答えた。 「ロイ=ザーズ=ディアランド、10年前に突然現れた神官です。」 (10年前?確かファルのお母さんが死んだのも10年前。そしてロイって神官が現れたのも10年前。これは10年前に鍵がありそうね) 「そうね、今取り合えずあたし達に出来る事は、ジャンとの約束の時間まで体を休めて体力をキープする事しかないわ。少し寝ましょうか?ファルも今まで余り寝れなかったんじゃないの?」 「・・・・・・・え、えぇ」 「ダメよ、寝不足は美容の敵。そんな疲れきった顔じゃ彼氏に会った時幻滅されるわよ〜。」 冗談めいたリナの言葉に、ファルリーアは2〜3度瞬きをしてからクスリと笑う。 「それは困りますわね、じゃあお休みなさいリナさん」 「お休みファル」 そして二人はお互い大切な人を思いつつ眠りについた。 つづく |