compromise heart |
リナはジャンと二人で街を歩いている、ジャンは普段着に着替えリナはジャンが持ってきた男物の服を着て、髪を後ろに纏めて縛り上着で隠す。 「どうリナ、ちょっとデカイけどゼリアスの服だとあんまり声掛けられないだろ?」 「・・・・・・・・・・ま〜ね」 そう、ジャンが持ってきたのはリナのそっくりさん、ゼリアスの服だった。わざわざ家まで借りに行ったらしい。 (まぁ、確かに動きやすくはなったけど) この街に来てからリナはずっとゼリアスと呼ばれ続けていた、大体は『何変装してるんだ』とか、『とうとう女装に目覚めたか』とか、『可愛いよ、男にしておくの勿体無い』だのと言われ正直ウンザリしていたのだ。 「それにもしかすると姫が見付け易くなるかもしれないよ。」 ジャンの言葉に小首を傾げながらも、少しの可能性でもあるならと男物の服を着る事にしたのだった。 「それにしても凄い人気ねゼリアスって。」 「ゼリアスは良い奴だからね、ちょっと短気でオッチョコチョイな所が又可愛いんだ。」 (男に可愛いって言われる男には問題無いんかい?) その時、リナは歩調を行き成り速めた。 「ど・・・どうしたんだいリナ?」 「良いから黙って」 二人は曲がり角を曲がって壁にピタリと張り付いた、訳が分からないままジャンもリナに続き壁に張り付く。 「付けられてるわ。」 「えぇ!」 「静かに、あいつを捕まえるわ。」 街での情報などは全て集めた、後は少しでも違う方面から情報を集めたい。そのチャンスが今目の前にある。 「レビテーション」 リナはジャンの腕を掴むと上空に舞い上がる、そして角を曲がってきた黒いローブの人物の後ろに素早く降り立つ。 「どなたかお探しかしら?」 ハッとして振り返る怪しい人物は言葉を失い立ち竦んでいる。リナはニッと笑い話を続ける。 「あらどうしたの、正直にお話してくれれば別に酷い事はしないつもりよ。」 「・・・・・・・・・・・ゼリアス?」 女の声?リナは驚きを表に出さずに苦笑いをする。 「あたしはあなたみたいな怪しい知り合いは知らないわよ。」 リナの言葉に今度は謎の人物が驚いたらしい、リナの全身を見詰める視線を感じる。 「ゼリアスでは無いのですか?」 問い掛けにリナはまさかと思う、ひょっとしてこの人物はあの人かと? 「・・・・・・・・・ゼリアスでは無いのですね?」 明らかに落胆する声、リナは確信した。 「あなた、ファルリーア姫じゃない?違う?」 謎の人物はリナの質問に無言で頷いた。 「こんな所じゃ落ち着いて話も出来ないわ、あたしの宿まで来てくれるわよね?」 リナの言葉に謎の人物、ファルリーアはやはり無言で頷いた。 「さぁ〜てファルリーア様、その鬱陶しいフードを取っていただけるかしら。」 ファルリーアは言われるままにフードを取った、そこから現れた素顔にリナは今度こそ驚いた。 「ガ・・ガガガガウリイ!?あんたなにふざけてんのよぉ!!あんたさては女装が嫌で逃げ出したんでしょう?しかもあたしをからかうなんて良い度胸じゃない!」 散々怒鳴ってから、リナはふっと考える。 (あれ、ガウリイってこんなに背が低かったかしら?) ガウリイは背がデカイ、そして今目の前にいるファルリーアを名乗るガウリイの身長は仲間の一人、ゼルガディスと同じか少し低い位しかない。 「あの・・・私、ファルリーアですけど・・・どなたかとお間違いではありませんか?」 「・・・・・・・・嘘ぉ!!!」 (まんまガウリイじゃないのよ!?まさかここまでそっくりだとは思わなかったわ!あ、でも声が違うか。) 「お初にお目にかかります、ファルリーア姫。私はゼリアスの友人でジャン=ローランズ、こちらの方は姫をお探しになる命を受けたリナ=インバース殿です。」 ジャンの自己紹介にファルリーアは納得したかの様に静かに微笑んだ。 「初めましてジャン、あなたのお噂は兼ねがねよりゼリアスから伺っております。そしてリナ=インバース様、この度は大変ご迷惑をお掛けいたしました。」 リナは引き攣った笑みを浮かべて言う。 「あ・・・あのさぁ、ファルリーア姫。悪いんだけど・・・その顔でフルネームに様付けは結構鳥肌立つから止めて貰えないかなぁ?」 「では私の事もファルとお呼びください、先程のガウリイ様と言う方はそれ程私に似ているのでしょうか?」 「似てるから今あんたの身代わりしてんのよ。さて、どうしてお城から逃げたのか教えてくれるわよね?」 「まぁ!ごめんなさい、リナさんのお連れの女性にご迷惑をお掛けしてしまって。」 ファルリーアの言葉にリナは溜息を吐くと小さな声で言った。 「ガウリイは男よ、それよりもまず聞かせてくんない。どうして逃げたの?」 暫くの沈黙、そしてファルリーアの重い口を開いた。 「・・・・・・・・・私は只、結婚したくないだけです」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 余りに想像と掛け離れたファルリーアの答えにリナは思わず間の抜けた声を上げた。 「何?国の事考えてとかじゃないの?」 ジャンは気を利かせて挨拶をしてすぐ席を外している、今はファルリーアとリナの二人きり。 「・・・確かにそれも無くはありません、でも、私は・・・・・・・・・」 リナは頭をポリポリ掻きながらファルリーアが言えずにいる言葉を口にした。 「ゼリアスを愛している、違う?」 思わず顔を赤く染めるファルリーア、ガウリイの顔でこうゆう反応をされると何故かリナまで照れてしまう。 「・・・・・・・・・・・・私の片思いですけど」 「じゃあハッキリゼリアスとかに言えばよかったんじゃないのかなぁ、あたしはあんたが好きだから一緒に逃げましょうって。」 「言えません、だって・・・私は彼の保護者ですもの」 消え入りそうな声、同じ顔で同じ事を言う女性にリナが苦笑いを浮かべる。 (はは、置かれてる状況も同じってか?やっぱり顔が似ると考えてる事も似るのかしら?) 「分かんないなぁ、どうして保護者だと告白できない訳?」 俯いたまま何も話そうとしないファルリーアに、リナはガウリイに問い詰めてるような錯覚を覚えた。 「相手を子供と思ってなめてるんじゃないの?」 リナのこの言葉に、ファルリーアは悲しい色を浮かべた青い瞳でリナを見詰めて言った。 「言える訳ないじゃないですか、怖いんです。あの温かい関係が壊れるかもしれないのが怖いんです!ずっと子供扱いをしてた相手から行き成り異性として見られていると知ったら、それが重荷になってしまったら・・・・それなら今のままの関係でいる方が、まだ幸せなのかもしれないって思うと・・・・・・怖くて言えないんです。」 そしてファルリーアはその場に泣き崩れてしまった、その時何故かリナは今の言葉をガウリイから聞いたような錯覚を受けていた。 (まさか・・・ガウリイもそうだったの?怖いの?あんたが?今までの関係を壊したくなくてわざとあたしの事子供扱いしてたの?あんなに強いあんたがそんなにあたしと離れる事を怖がっているの?) 「リナさん・・・ごめんなさいね、私ったらみっとも無い処をお見せして。」 「え、あ・・・ううん、あたしもきつい事言い過ぎちゃったみたい。ごめんねファル。それじゃあジャンを呼んでくるわ、これからの対策を考えなきゃなんないしね!」 リナはウインクをして部屋を飛び出した、キョトンとしているファルリーアを残して。 (はぁ〜何か凄くガウリイに会いたい、会って聞いてみたい!それには早くこの事件を解決しなくっちゃね!) リナはある決意を胸に食堂で待っている筈のジャンの元へ走った。 つづく |