ｃｏｍｐｒｏｍｉｓｅ　ｈｅａｒｔ

























　「きっと奴だわ、ゼリアス私が良いと言うまで扉を開けないで対応して、ガウちゃん窓際まで椅子を移動して。絶対何があっても振り返っちゃダメよ。それからちょっと我慢してくれるかしら。」
　そう言うとカルリアーナは懐から何かを取り出しガウリイの顔に塗り始めた。
　（リナといいカールといい、何で懐に隠してあるんだ？）
　女性の神秘に驚きながらガウリイは一つの気配が気になって仕方が無かった、その気配は明らかに扉の外から感じられる。
　（リナが居たら又厄介な事に首を突っ込んだって騒ぐだろうな）
　「良いわよゼリちゃん、入れてあげて。」
　ゼリアスは頷き、ゆっくりと扉を開ける。
　「お待たせしました、しかしファルリーア様はまだお体の調子が芳しくありません。出来ればお引取り願いたいのですが。」
　ゼリアスのハッキリとした拒絶の言葉、しかしその言葉を気にするでもなく二人の男が入って来た。
　一人はショートヘアーの茶髪にこれ以上無い位派手な格好をしたまぁまぁ整った顔立ちの青年と、もう一人は純白の法衣を纏った銀髪にラベンダーの瞳をした細面の中年である。
　「あら、ジャルアラン＝デ＝ラフィ＝ガナンド様と神官のロイ＝ザーズ＝ディアランド様。病弱の妹姫のお部屋に何の御用かしら？」
　ニッコリ微笑みながらフルネームで相手を呼ぶ事でハッキリと拒絶の意味を含むカルリアーナにガウリイは冷や汗を流す。
　（うわぁ〜このね~ちゃん滅茶苦茶怖いぞ！）
　「相変わらず手厳しいね姉上、婚約者が病気なら見舞いに来るのがフィアンセの勤めでしょう？尋ねてみれば何時も門前払い、今日来たらファルリーアが起きていると聞いたのでこうして顔を見に来たというのに？」
　「私貴方のような弟を持った覚えはありません。ロイ、何時私が貴方にその様な命令を出しました？妹姫はまだやっと床から起き上がれる様になった所です。出て行きなさい。」
　静かな、しかし一切の抗議を受け付けないとゆう威圧感にジャルアランは脅え、ロイは苦笑いを浮かべる。
　「王子、今日はカルリアーナ姫の具合も悪そうでございます。又起こし頂けますか？」
　「し・・・仕方無いよね、では姉上僕はこれで。ファルリーア、又来るよ。」
　「もう来なくて結構です。それからロイ、今後勝手な真似は許しません。下がりなさい。」
　「クックック、では姫様方ごきげんよう。」
　バタンと扉が閉まるとその場に居た全員が溜息を吐く。
　「何だあの嫌な奴等？」
　「若いのがファーちゃんの自称フィアンセのジャルアラン、で・・・あの神官が我城に神託を与えるのが仕事の筈のロイよ。」
　「随分棘のある言い方だな、そんなに嫌いなのか？」
　ガウリイの言葉にカルリアーナは凄い勢いで怒鳴りだした。
　「嫌いかですってぇ、あんなの好きになる奴居る訳ないでしょう！あいつが来てからよ、この城がおかしくなったのは！」
　「カルリアーナ様！」
　ゼリアスの声に我に返ったカルリアーナは、寂しそうな瞳で笑った。
　「ごめんねガウちゃん、驚いたでしょ？私少し疲れたわ、部屋で休みます。何かあったら呼んでね。」
　そう言ってカルリアーナは部屋を出て行った、途端に力を抜くゼリアス。
　「悪いなガウリイ、あ、呼び捨てでも良いよな？」
　行き成り口調を変えたゼリアスに、ガウリイは驚き首を縦に振る。
　「カルリアーナ様はロイが嫌いなんだよ、何しろ最愛の人を殺されたんだからな。」
　「何だって、じゃあこの城はそんな人殺しを雇っているってのか？」
　「違う、あいつの言葉で死にに行ったと言うべきかな。ライルは親衛隊隊長でもありカルリアーナ様の護衛でもあったんだ。ある時ロイが負けると分かっている戦の前衛をライルにすれば必ず勝利すると神託が降りたと言いやがった。その言葉どおり戦には勝ったさ、ライル一人の犠牲によってな。」
　ゼリアスの拳が強く握られる涙を必死で堪えているのだろう、ガウリイはゼリアスの肩に優しく手を置く。
　「ガキ扱いすんじゃねぇ！」
　勢いよくその手を払い除けるゼリアスに、ガウリイは何故かリナに拒絶された錯覚を覚えた。
　「あ、済まん・・・辛い事聞いちまったみたいだな。」
　「否・・・・もう１０年も前の話さ。気にするなよ。」
　「でも、どうしてライル一人の犠牲で戦が終わったんだ？」
　「知らねぇよ、でも・・・生き残った奴から聞いた話だと、ライルが死んだ途端に向うの軍が降参してきたらしいんだ。」
　在り得ない、ガウリイも傭兵をしていたから分かる。そんな戦がたった一人の兵士が死んだ途端降伏するなど在り得ない事だ。何か裏にある、ガウリイの直感がそう訴えかけていた。
　「それにしても随分詳しいな、どうしてだ？あんたもっとガキの頃の話だろ？」
　ゼリアスはどう見てもリナと同じに見える、とゆう事は精々１８歳位だろう。それでも１０年前の話に詳しすぎる。
　「当たり前さ、だってライルは・・・・・・・・・俺の兄貴だからな。」
　思わずガウリイは何時もリナを慰めるようにゼリアスの頭を撫でてやる。
　「・・・・・・・あんた、ファルリーア様と同じ事すんだな。あんたも俺を子供だと思ってんのかよ？悪いけど・・・俺は子供じゃないぜ。これでも１５だからな」
　「・・・・・まだ子供だよ」
　バシッ、ゼリアスはガウリイの腕を力一杯払い除ける。その瞳には怒りと何故か切なさが入り混じった光を宿していた。
　「どうしてファルリーア様と同じ顔して同じ事ばかりするんだよあんたは！！俺は子供じゃない！子供のままじゃ何時までもファルリーア様を守れないじゃないかぁ！俺は守られたいんじゃない！年とか身分何て関係無い、俺は只ファルリーア様を守りたいんだ！それなのに子供扱いされてたら、俺は・・・何時までも同じ位置に立てないじゃないか」
　ガウリイは絶句した、丸で今のゼリアスの言葉をリナ本人に聞かされた気がしたからだ。
　（リナ・・・良く言ってた。子供扱いするなって・・・・・まさかリナもゼリアスと同じ事思っているのか？俺と対等の立場に居たいって・・・でも、俺は・・・ダメだリナを傷付けたくないんだ！保護者だった奴が行き成り男に変わればリナが怯える、そうしたら一緒に旅をし
てくれなくなるかもしれない、それだけは嫌だ！）
　「ガウリイ、おいガウリイ大丈夫かよ！」
　「あ・・・ゼ・・・ゼリアス、あぁ、大丈夫だ。」
　「びっくりしたぜ、ガウリイの顔真っ青だったから。」
　思わずガウリイが額を拭うと白い手袋に青いものが付いている、それはカルリアーナが塗っていた青色のファンデーションだと気付く。
　「これ・・・・カールが塗ってた奴だ」
　ガウリイの言葉にホッとしたのだろう、ゼリアスは満面の笑みを浮かべる。
　「ごめん・・・ガウリイにあんな酷い事言うつもりは無かったんだけど、何だかファルリーア様に言えない事をあんたにぶつけっちまったみたいで・・・・・・」
　余程普段から溜まっていたのだろう、そしてガウリイの行動に思わず爆発してしまったのだろう。リナも本音をぶつけてくれれば良いのにと、自分の事を棚に上げ考えるガウリイだった。
　「別に気にしてないよ、俺もゼリアスの気持ちも知らないで悪い事しちまったって反省してるんだからおあいこさ。」
　「あんた、大人だな。俺も早く大人になりたいよ。」
　笑って言うゼリアスにガウリイは只笑うだけだった、その笑顔を本当に向けていたのは果たしてゼリアスにだったのかそれとも、愛しくて堪らない一人の少女に向けたものだったのか。
　それはガウリイ以外分からない―――――――

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　





　　　　つづく