compromise heart |
「なぁおっさん、今リナが来てなかったか?」 化粧を終え綺麗なドレスを無理矢理着させられたガウリイが窓の外を眺めながらジーマに尋ねる。 「誰がおっさんだ!全く近頃の若者は言葉を知らん。リナ殿か?その様な報告、儂は受けておらん。」 ジーマの答えにガウリイは首を傾げる。 (おかしいなぁ、確かに表でリナの気配がした気がするんだが?) ガウリイは勘が鋭い、どんな気配もいち早く察知する。それがリナの気配ならば尚更である。 (このおっさんが嘘吐いてる訳じゃ無さそうだし、大丈夫かなリナ?) 今の状態ではリナに何が遭ってもガウリイに助ける事は出来ない、それがガウリイには悔しくて堪らない。傍にリナが居ないだけでこんなにも不安になってしまうガウリイをリナは過保護と言うが、本当は違うのだと今のガウリイには言えなかった。 「あ〜ガウリイ殿、先程もお話した通りお主が偽者と知る者は数少ない。誰か面会する時は儂とゼリアスが傍におるから、決してガウリイ殿は椅子から立たぬように。それと絶対その間は口を聞いてはならん、その扇で口元を隠し話す振りをするのだ。いいな?」 「なぁ〜、どうして俺立っちゃいけないんだぁ?」 ガウリイの間の抜けた質問にジーマが思わず怒鳴った。 「馬鹿者ぉ!!いくら顔が似ておるとは言え姫との身長差がありすぎるだろうがぁ!お主が立てばすぐにバレてしまうではないかぁ!」 「あ、そうか。でも俺座りっぱなしは苦手なんだが・・・・」 「それに対してならば安心せい、本当の事を知らぬ者の前だけだ。普段は立っていても構わん。そろそろゼリアスも来る、ガウリイ殿の世話は奴がする。では、儂は席を外すが頼みましたぞガウリイ殿。」 「お〜、任せとけ〜」 間の抜けた声で返すガウリイの返事に、ジーマは大きな溜息を吐いて部屋を後にした。 一人きりの部屋でガウリイは窓の外を見詰める、考えているのはリナの事。 (きっとこの姿を見たら笑うだろうなぁ、でもリナの笑顔が見れるならそれでも良いか) 今のガウリイの姿、ピンクに金の刺繍を施した豪華なドレス、耳にはダイヤを散りばめたイヤリング。顔は薄く化粧を施されている。 コンコン、ノックの音に苦笑いをしながら何も言わず椅子に座る。ガウリイはリナの事を考える余り、今扉の前の人物の気配に気付かなかったのだ。 暫くして扉が開き入って来た人物は、ガウリイと同じ長い金髪に南海の色を思わせるエメラルドの瞳、顔立ちはガウリイに少し似ているが鋭い切れ長の目をしている。知的な美しい女性だった。着ているドレスは薄い青のやはり金の刺繍を施した高そうな代物である。 (誰だ、このねーちゃん?) 威圧感を感じながら構えるガウリイに、その女性は行き成り抱き付いて来たのだった。それには流石に焦るガウリイ。 「ファーちゃ〜ん、ど〜して帰ってきたのぉ!折角お姉ちゃまが逃がしてあげたのにぃ、ドジな子ねぇ・・・・・・・・・あれ?ファーちゃん?」 顔と口調が一致しない女性は固まっているガウリイにやっと気付いたのか、抱き付いたままガウリイの顔を見る。 「あなた・・・ファーちゃんじゃないの?あなた誰?」 「俺はガウリイだ、ここの姫さんの身代わりしてんだよ。あんたは?」 ガウリイの言葉にその女性は心底驚いたらしい、目をパチクリしている。 「あぁそう・・・私はまだ本当の事聞いてないわね、じゃあ今頃ジーマがお父様に報告してる頃なのね。ゴメンねガウリイさん、妹にそっくりだったからつい何時もの調子でフフフ、驚いたでしょ?私はファルリーアの姉でカルリアーナよろしくね。」 (このねーちゃん、顔と性格が合ってないぞ?あれ、そー言えば今逃がしてとか何とか言ってたような気が?) 「なぁあんた、先刻逃がしてあげたとか言ってなかったか?」 ガウリイの問い掛けにカルリアーナは悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべる。 「そーよ、だって政略結婚なんてファーちゃんが可哀想だもの。あの子好きな子が居るから余計にね、だから本気でその子が好きなら逃げなさいって言ったのよ。」 「で、逃げたんだ。その姫さん?」 カルリアーナはニッコリ笑って頷く、そして視線を天井に向けどこか遠くを見詰める感じで話し始めた。 「そう・・・本当にバカな子、身分や年齢差を気にしている相手に気を使って自分の気持ちを伝えようとしないなんて、それは優しさなんかじゃないって気付いているのかしら。」 (何か逃げた姫さんって俺と同じなのかもしれないなぁ) 相手を思う余り自分の本心を隠し続ける事、それは優しさ。だが目の前に居る女性はそれを間違っていると言っている。 「優しさじゃなきゃ何だってんだ、カルリアーナ?」 「フフ、カールで良いわよガウリイさん。あなたも優しいって言うの?私には自分が傷付くのが怖くて逃げてるだけだと思うけど。もし、この関係が壊れたら・・・ってね。」 ガウリイの表情が微かに曇る、図星を指されたからだった。 「そ・・・そんな事!無いんじゃないか、相手が子供だからとか・・・さ」 その言葉にカルリアーナの目が一瞬細められ、そしてニッコリと微笑む。 「あらガウリイさん、相手が子供だとして何故自分の気持ちを伝えられないの?相手を守っているつもりの自己満足なのかしら?ねぇガウリイさん、そうだと思いません?」 「・・・・・・・・・さぁ」 (やっぱり逃げた姫さんは俺にそっくりみたいだな、顔も思いも) 一瞬ガウリイの表情が厳しくなる、すると暫くして扉をノックする音が聞こえる。 「フフフ、きっとゼリちゃんよ。楽しみ〜、驚くわよあの子。」 カルリアーナが楽しそうに笑っている、ガウリイが意味が分からずキョトンとしていると扉がゆっくり開かれ誰かが入って来た。その人物を見てガウリイは思わず目を見開く。 「あ、カルリアーナ様おいででしたか、ヴォルビィーナ様が・・・・・・・姫」 カルリアーナから少し視線をずらし、ガウリイを見た人物が驚きの表情を見せる。 (な・・・すっげ〜、リナそっくりだ!) 「姫!心配―――貴様誰だ!姫を装うとは許さん!!」 行き成り背中の剣を抜く人物にカルリアーナが一喝する。 「お止めなさいゼリアス!こちらはガウリイ殿、我妹の身代わりを勤めているのです。無礼である、剣を収めよ!」 「・・・は、申し訳ありませんカルリアーナ様。・・・ガウリイ殿失礼しました、私はジュアラール国親衛隊所属、ファルリーア様の護衛を勤めるゼリアス=バルブスです。」 ショートヘアーの栗色をした髪、燃えるような赤い瞳。親衛隊の制服に背中には身長に似合わないバスタードソードを装備している。そしてその顔はガウリイの大切な被保護者と全く同じだった。 「あらどうしたのガウちゃん?そんな鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しちゃって?」 カルリアーナの言葉に思わずこけそうになるガウリイ。 「が・・・ガウちゃんって、あのなぁ・・・・・・」 そんな二人を見て笑いをかみ殺すゼリアスがガウリイに話し掛ける。 「ガウリイ殿、カルリアーナ様にかなう者など存在しません。諦めてください。」 ガウリイは頭をガシガシ掻きながらゼリアスに照れ臭そうに話す。 「あのさぁ、ゼリアスだっけ?悪いけどその顔でガウリイ『殿』は止めてくれないか。何かあいつに言われてるみたいで妙な感じだからさ。」 「あいつ?」 ガウリイの言葉に答えたのはゼリアスではなくカルリアーナだった。 「あ、あぁ、俺の旅の連れ何だけど、こいつにそっくりなんだよ。」 そう言ってガウリイはゼリアスを指差す、それに対しゼリアスは困った顔をする。 「良いわよゼリアス、彼は姫でも何でも無いんだから畏まる必要は無いわ。あなたも普段通りの口調で話して差し上げなさい。」 「はっ!カルリアーナ様の命令ならそうさせていただきます。」 流石に姫様の前では口調は崩せないらしく、ゼリアスは敬語のままカルリアーナに敬礼をする。 (う〜ん、素直じゃないか。似てるのは顔だけか?) ゼリアスに聞こえない様にガウリイはカルリアーナに問い掛ける。 「なぁカール、こいつって男なのか?」 「そうよ、あなたのお連れさんは女の子な訳?」 「あぁ。」 「女顔の事かなり気にしてるから、余り恋人と間違えちゃダメよ」 カルリアーナの突然の言葉にガウリイは思わず顔を赤くする。 「違う、あいつとはそんな関係じゃ―――――――!」 言い掛けてガウリイは扉を睨み付ける、それに気付いたのかゼリアスが剣に手をかけ、カルリアーナは厳しい表情になる。 そして扉がノックされた。 つづく |