compromise heart
























 「ちょっと、会えないってどうゆう事なのよ!ジーマさん出しなさいよ!!」
 「ですから、ジーマ様はまだお戻りでは無いと申しあげているではないですか。」
 リナはヴォルビィーナの城に来ていたが、門前払いをされてしまった。仕方なくリナはジーマが用意してくれた宿へと向かった。
 (おかしいわね、ジーマさんがガウリイを連れて戻ったからこそ結婚って噂が流れた筈なのに、ガウリイを連れて行ってそんなに経ってないのに居ないってのは在りえない。そうなると考えられる事は、ジーマさんがガウリイを本物の姫様として連れて行き、その事実を知るあたしを他の人物に近付けたくないか。あるいはあたしとジーマさんが会う事を快く思っていない人物が邪魔をしているかのどっちかね。)
 リナは頭をポリポリと掻く、どうやら彼女達は又も厄介な事に首を突っ込んでしまったらしい。
 宿屋の部屋に入って暫くすると、突然ノックの音がする。
 「開いてるわよ」
 そう言ってすぐドアの陰に隠れ呪文を唱える、そこに入って来た一人の男。
 「動かないで、さてと・・・自己紹介してもらおうかしら?それと乙女の部屋を尋ねる訳も是非聞いてみたいわね」
 「私は・・・・あー!!あなたは!?」
 振り返り男が名乗ろうとして思わず驚きの声を上げる、それに驚いたリナがその男の顔をよく見るとどこか見覚えがある顔だった。
 「あ・・・あなたが、リナ=インバース?」
 腰まである黒い髪と黒い瞳の少年。だが、着ている服は街で会った時の普段着では無く、親衛隊の制服を着ていた.
 「あ、あんた、確かジャン?何であんたがここに居る訳?それにその格好は?」
「申し遅れました、私はジュアラール国親衛隊所属のジャン=ローランズであります。ジーマ=トレント様の名によりリナ=インバース様に伝令をお伝えに参りました。」
 ビシッと敬礼をしてそう答えるジャンにリナは只呆然とするだけだった。
 「ちょ・・・ちょっと、そんなに大袈裟に言わなくてもいいわよ。しっかし驚いたわ。あなたがジーマさんの言ってた使いの人だったなんて?」
 ジャンはニッコリと笑うと今まで体に入っていた力を抜いた。
 「僕も驚きましたよ、まさかゼリアスに瓜二つのあなたがあの噂に名高いリナ=インバースだったなんて。じゃあ、そろそろその魔法を解除してくれませんか?」
 引き攣った笑顔で言うジャンに、リナは今気付いたかのように乾いた笑いをしながら魔法を解除した。
 「さてと、じゃあ詳しく話してくれるわね?」
 「はい勿論です、僕はその為にここに来ているのですから。」
 ニッコリ笑うジャンにリナは真剣な表情で問い掛ける。
 「姫様が行方不明になった理由は何?あんたが先刻言ってた結婚と関係があると思うんだけど?」
 「その通りです、姫のお相手は隣の国のガナンド帝国の王子でジャルアラン様。正直僕もあの方は好きじゃないんです。多分王様も本当は嫌なんです、でも・・・」
 「姫様を嫁に出さないと国に攻め込むとか言われてるんじゃない?」
 リナの言葉にジャンが驚いた表情を見せる、どうやら図星らしい。
 (聞いた事あるわ、ガナンド帝国・・・街の住人に無理な年貢を取り立て、自分達は豪華絢爛な生活をしていながら、街の人達は餓えに苦しんでいるって噂だったわね。)
 「ふーん、よくある話ね。まぁこの結婚断ればその時はこの国を滅ぼし自分の物にする。受ければ今度はそのお姫様を人質にこの国を手に入れる、あっちにしたらどちらでも全然OKって訳か。」
 「はい、多分姫もそれに気付いたのでしょう。自分が居なくなれば少なくともヴォルビィーナ様は話を進められない、それだけこの国を守る時間が増えると考えてると思うんです。」
 リナはジャンの話に頷く、確かに姫が居なければ話は成立しようがない。いくら悪党でも病気と言う姫を無理に連れて行こうとすれば街の人達が黙っていないだろう。
 「そんで何時頃から姫様は居なくなったの?」
 「僕達に正式に発表があったのは一週間前です。」
 ジャンの言い方に疑問を覚えたリナがジャンに静かに問い掛ける。
 「正式にって事は、あんた実はその前から知ってたの?」
 この問い掛けにジャンは表情を曇らせる、そしてゆっくりと重い口を開いた。
 「えぇ知ってました、彼に・・・ゼリアスに聞いてましたから。」
 「ずーっと気になってたんだけど、そのゼリアスって何者なの?」
 「彼は姫の直属の護衛です、そう・・・・姫を守る為だけの存在。そして僕の幼馴染でもあります。」
 (成る程ね、その彼から聞いた訳ね。ん〜、そう言えば先刻何か引っ掛かる言い方だったわね?)
 「ねぇそのゼリアスってさぁ、ひょっとしてお姫様の事好きなんじゃないの?」
 「・・・・・・・・・・多分そうだと思います、水臭い!僕にまで何も言ってくれないで!あんな悲しそうな顔したら誰だってあいつが姫を好きなのが分かるのに、親友の僕にさへ言わないで――――!・・あ、ごめんなさいリナさん。僕・・・・」
 ジャンも苦しんでいたのだとリナは思った、彼も本人から本当の彼の気持ちを聞いていないのだ。悩んでいるなら相談位してくれれば良いのにと彼は思っている、リナは優しく笑い掛けるとジャンに気にするなと首を横に振る。
 「リナで良いわ、でもねゼリアスの気持ちも分かってやって。あんたを親友と思うからこそ悩ませたくなかったんだと思うわ、だって一国の姫に護衛の兵が恋なんて知れたらどうなるか分からないじゃない。それにあんたを巻き込みたくなかったんじゃないかな、彼。」
 何となくリナにはゼリアスの気持ちが分かる、状況は違うがリナも同じ悩みを持っているのだから。
(こんな事をあの正義オタクのお姫様に言ったら、きっとジャンと同じ事言うかな。『そんなの正義じゃありません!』って)
 「まだ情報が足りないわ、兎に角街で情報を探しましょう。ジャン、勿論手伝ってくれるわよね?」
 リナがウインクしてジャンに話し掛けると、今まで苦悶の表情を浮かべていたジャンがパッと明るい表情に変わる。
 「はい勿論!あ、じゃあ今から服代えてきます。そうだ、リナはそのままの格好より情報聞きやすい服持っくるよ。」
 「そうね、頼んだわよ。」
 ジャンの口調が砕けた物に変わっている事にリナは笑みを浮かべる、ジャンが部屋を飛び出してからリナは一人溜息を吐いた。
 「・・・・・・・・ゼリアスかぁ。向うは姫と一介の兵士、こっちは保護者と被保護者。顔が似ると悩みまで似るのかしら」
 そう言ってリナは今は横に居ない自称保護者の事を考えていた。







    つづく