バレンタインぱにっく!?
中後編〜




















好きって、どんな気持ちだろう?

「よーよー!にーちゃんたち!!さっさと金出し……っ」
「炎の矢!」

「「うおーっ話は最後まで聞けーーー!!!」」

「じゃかぁしい!! そら行けガウリイ!
 あ。身包み剥がすんだから一匹たりとも逃がすんじゃないわよ!!」
「へいへい…」





恋いって、どんな気持ちを言うんだろう?


「ふっふっふっふ……」
「だ、だれだ!?」
「あんたら程度の盗賊風情に名乗る名前はないわ!!
 四の五の言わず、さっさと貯め込んだお宝出しなさい〜!!」

「お頭!!」
「ま、間違いねぇ!
 あの栗色の髪!!!
 あのちびで寸胴!!!!!!!!
 おまけに噂通りの洗濯板も足が生えて逃げ出すほどのナイ胸!!
 あいつは…っ!人外魔境のリナ=インバース!?」
「ひぇぇぇぇぇっっっっお助けをーーーー!!!!!」

「だぁぁぁぁれが人外魔境よ!傍若無人よ!現世利益至上主義者よ!?
 みーーーんなまとめて消し飛べ!!火炎球!!」

「「「「そこまで言ってねーーーー!!!!」」」」





あたしは、あいつにそんなこっ恥ずかしい気持ちを持ってるのかな?





「おっ宝さん♪おっ宝さん♪一人占めするあたしのお宝さん♪」
「……遅かったな、リナ」
「げぇ!?ガウリイ!?なんでここに先回りしてんの!?!?」
「盗賊いびりの仕上げにここに来るのは分かってるからな。
 さぁて。さっさと帰ってたっぷりお説教だ」
「あーーっせめて五袋だけでも!!あたしのお宝ーーーー!!!!」





やっぱり、胸がドキドキしたり、時には切なくなるような感じ?





「ここであったが百年目!!貴様の悪名もここまでと知れ!
 この正義の騎士ラルフ=グレイザーが……」

「でぃるぶらんど(投げやり)」

ドピュるるる……

「ま、まだ口上が終わってないのにーー!!!(涙)」

「おー。今日は一段とよく飛んだなーーー」





そんでもって、愛おしくなるとか、相手にワガママ言ってみたり。





「あっちゃーっ!ここ、ゴブリンの群生地だったみたいね」
「来るぞ、リナ」

「えーい、やるっきゃないか!いっけー炎の矢!」

「手加減するんだぞ。 せぃ!」


「〜〜〜〜あ゛ーーーも飽た!!
 まとめてぶっ飛べ、ボム・ディ・ウィン!!」

「わ゛ーっ!? なんでオレまでーーーー!?!?」

「ガウリイ〜!お昼までには戻ってくんのよーーー!!」





意図的に困らせたり、相手の傍に寄り添ってみたくなったり?





「…リナ、この先で人間が野良デーモンに襲われてるぞ!!」

「何ですって!?くぅぅっっ偉いぞガウリイ!
 さぁ!お礼を貰い倒して幸せになるわよーー!!!」

「お、お前さんなぁ……」


「グルルル…っ」

「んっふっふ。こんな雑魚ちょろいわね。エルメキア・ラ〜ンス!」

「はぁぁっ!」

「黒妖陣!………ガウリイ!」

「おう! まかせろ!!」


「やー。以心伝心。なかなかいい連携だったわよ〜」
「まぁ、な。あ、リナさっきデーモンの爪掠っただろ?
 ちゃんと治療呪文掛けておけよ?」
「わ、分かってるわよ!!(な、なんで気づかれたの!?)」









そんなこんなの珍道中。
ただし、今までの大事件に比べれば、とるに足らない平和な旅路。
それでも月日が過ぎるのは早く、もうすぐ彼の定めた期限が到来する。

だけど、あたしの答えはまだ混沌の闇の中。

あたしにとってガウリイは………
う゛ーーーーーっっ

頭がどうにかなるほど煮詰めても、旨く言葉では言い表せない。

今までは旅の連れで片付いたはずなのに、どうして彼は今更その関係を変えようというのだろう?

居心地のいい曖昧な関係。
それでいいじゃないの?

彼は欲張りになったと言っていた。
だからあたしに…想いを伝えたのだと。

ってぇーことは何?
ガウリイはそれ以前からあたしのことをどうこうしたいと思っていたってことよね?
………………なんか…ヤだな。

ガウリイとは今まで通りの関係でいい。
なにも変化なんか望みたくない。
それなのに……。

彼はあの日から別段変わった様子を見せない。
たぶん、あたしが彼の気持ちには応えられないと言っても、彼は笑って、いつも通り旅をして、一緒にゼフィーリアに付いてきてくれるだろう。
全てをなかったことにして、いつもとおり振る舞ってくれる。

なら、応えたら?
応えても何が変わるということないと彼は言った。



「それなら……何も変わらない方がいいな…」


一人になるわずかな時間、誰もいない空間でポツリと呟く。
そんなことをしたところで、どうもならないのは知ってるが、そうせずにはいられなかった。
内心に抱えたもやもやした想いがどこかにはけ口を求めていた。

町までの道すがら、野宿をする時はいつも彼が薪を拾いに行く。
ついでに辺りに不審な気配やらなにやらを調べているのだろう。
のうのうしているように見えてもやはり、元傭兵だけあってそういう所には気を抜かない。
だから、今この時は一人。

手を伸ばして届く範囲から燃えそうな物をかき集めて火種を点し、あたしはゆらゆらと頼りなさ気な炎をぼんやりと見ていた。


だけど、本当に彼は笑って許してくれるだけだろうか。
断ることで気まずくっなったり、彼が傷ついたりしない保証はどこにもない。
むしろ、相手に想われてないと知ったら、傷つくのが当然よね?

ガウリイのそんな顔…見たくない。
結局、あたしは自分で自分の気持ちが解らないのだ。

ただ漠然と不安を感じたり、彼の優しい視線に心が満たされたりする。
やっぱり結論としては、今まで通り、何も変わらず何も干渉しない曖昧でそれでいて確かな居場所がいい。


彼が近づいてくる気配。
こんなにも親しみのある優しい存在。

彼の姿が視界に入り、じっと見つめているとガウリイも不思議そうにあたしを見る。

「どうした、リナ? そんな神妙な顔して…」

丁度あたしと向かい合う形になって、集めてきた薪を置いて自分も火の傍に腰をおろす。
じっと見つめてくるガウリイからそれとなく視線を逸らし、あたしはポツポツと語る。


「あたし、さ。それなりに考えたんだけど……やっぱり、はっきりとした形になんないのよ。あんたは旅の仲間で。くらげで。でも、剣だけは超一流でさ。
 だから今までこうやって旅してこれたし、これからも行けるとこまで行きたい。だけどあんたが好きだとか、アイシテル…とか……
 そーゆーの、よくわからないや……」

「……そっか」

抽象的なもの言いにも、ガウリイは真摯に耳を傾けてくれる。
あたしは躊躇しながら続けた。

「あんたのこと、嫌いじゃないのはわかる。だけど……」


実際、彼とそういう関係になるのも悪くないかな、と思った。

ただ、そうなったとき…今までなかったこともするかもしれない、というコイビトの壁にぶち当たってしまったのだ。

つまり…その、……あたしにとっては未体験ゾーンの未知の世界ってやつよ。
一人で赤くなったり青くなったりと百面相をしていると、落ち着いた低い声が掛けられる。

「リナはオレが嫌いってわじゃないんだな?」

念押しする彼に、あたしもその言葉を自身に反芻させ、深く頷く。

「あたしは嫌いなヤツと長く組んで旅なんかしないわ」
「なら、好きかもしれない?」
「……かも、しれないわね」
「そうか…」

珍しくまぢめモードのガウリはどこか思案気な表情だった。


「近くにありすぎて空気みたいな存在なのよ、あんたは」

あたしがそう表現すと、彼は困ったように微笑んだ。

「ま、これが答えになっちゃうのかな」
「いいや、リナまだあと2日…いや、もう日が変わるから1日あるさ」
「また随分としぶといセリフね〜」
「まぁな。どっかの激ニブ娘を落とすには、これっくらいの根気がないとやってられないのさ」
「…みょーに引っかかるセリフね……」

ジト目で見据えると、ガウリイはわざとらしく視線を逸らし、鎮火寸前まで勢いの弱まった炎に薪をくべた。

たわいない話をしながら時間をつぶして、あたしはしばしの仮眠をとることにした。
携帯食料はおいしくないし、めぼしい盗賊団もいない。
こんな夜は美容と健康の為、さっさと寝るにかぎるのよ。
そうやって葛藤を頭の中から無理矢理追い出すと、すぐさま睡魔に引きずられていった。











ガウリイはしばらく無言で、じっと傍らに眠る少女の寝顔に見入っていたが、リナか深い眠りについた頃、大きくため息を吐いた。

「嬉しい言葉だが、まいったなぁ……。
 なら、きっかけを作ってみるのも悪くないかな」

意味深な言葉を残して、男は少女の傍らに腰を降ろす。
そっと髪をすきながら、こんなにも無防備に眠ってくれることに複雑な心境を覚える。
本当に自分を安全な男だと認識していのか、それともまだ保護者として信頼されているのか……。

もっとも、彼女は自覚がないだけなのだ。
その背中を誰かが押してやれば良い…。

彼女はまだ、本当に無知な少女なのだから。
そして自分はまだ、手札を出し尽くしたわけではないのだから。


『リナ、人はな、空気がないと生きていけないんだぞ?』


内心苦笑しながら髪をすきつづける。
彼女はまだ自分の気持ちの名前がついていないだけ。



「オレもな、お前さんがいないと生きていけないんだ」


小さくささやいた言葉はリナの無防備な寝顔にそっと降り注いだ。

そのまま更けてゆく夜に、彼はぼんやりと彼女を眺めながら過ごしていった。
朝になってようやく目を覚まし、自分を起こさず見張りをしていたことに腹を立てた少女がガウリイをスリッパで殴り倒すまで。