バレンタインぱにっく!?
中編〜




















突然、なんの前触れもなく告白されて。
それがああの万年健忘症のガウリイだというのだから、脳が錯乱状態に陥ってしまうのも無理はないと思う。
チョコを睨みながら過ごした一夜。
寝ようにも、あんなことがあった手前、あんまりよく眠れなかったし。
朝起きても…目覚めは良くない。

ぎこちなく食堂でガウリイと再会した時、彼は笑いながら、
『昨日までのリナで大丈夫だぞ』などとぬかしていたが、あたしには無理である。

昨日まで恋愛の「れ」の字もなかったあたしにガウリイがいきなり告白して。
意識しないようにするなど到底無理。

とりあえず食事は鬱憤晴らしとして徹底的にガウリイから奪い尽くしたし、
次の町に出発してからも普段通りに振る舞う努力はしてみた。

今は二人のんびりと次の街を目指して人気のない街道を進んでいる。

…ふぁ…。平和、ねぇ。
まぁ、物足りない日常もたまには悪くない。
昨日の寝不足で思わず漏れそうになる欠伸をかみ殺し、何か退屈しのぎはないかと辺りを見渡しても、あるのは丘の果てに続く街道とちょっとした草原。そして、あたしの歩調に合わせ、一歩後ろを付いてくる某くらげ氏だけ。


ガウリイの横顔をちらりと盗み見るが、こいつは昨日までとどこも変わってない。
だけど、晩の出来事はあたしの荷物に入っている手つかずのチョコが証明している。


……この、ガウリイが…ねぇ。

ゆっくり、いつもより殊更歩くスピードを落として彼と並びながら観察する。

顔はいいのよ。うん。
金髪蒼眼だし、顔はまぁまぁ。
でも、あたしの好みのタイプ…渋いおぢさま(はぁと)もしくは、容姿端麗頭脳明晰金持ちで性格よしっ!……とはかけ離れてる。
そもそもヤツの脳みそはクラゲの酢の物がぎっしり保存されているはずである。

そりゃ…器は大きいと思うわよ。
支えて欲しいとは思わないけど、ちょっとバランスを崩した時に無意識のうちに肩を貸してくれるっていうか……
空気みたいな感覚で心地良いと思う。

でも、そりゃいつもなぁぁんにも考えてないから、文句も言わずあたしとの旅に付き合っているともとれるけど…。いや、寧ろそっちのほうが可能性大である。

剣の腕は超一流だが、それを取ったら体力しか残らないっていう難点もある。

ガウリイの無駄に整った横顔を見ながら頭の中で彼の人物考察を考えていると、ふいにその本人がこちらを見てくる。
明るい蒼い瞳があたしを映す。


……前言撤回。黙っていればこの顔の良さも残る。


「どうかしたのか?さっきからオレの顔見て」
「…んー。ちょっとね」

言葉を適当に受け流しながら、あたしはガウリイ観察を続ける。

性格は悪くない…いや。大切なことは何一つ覚えていなくてどうでもいいようなことはいつまでもネチネチ覚えているよーなヤツではある。
コイツの好きになれない部分も知っているが、悪いヤツじゃない。
嫌いじゃないと思うけど………


「ね〜ガウリイ。あんた…いつからあたしのこと好きだったの?」

彼の顔を見ながら不意に出た言葉。
その発言に言ったあたしの方が慌てるが、彼はいつものマイペース。
ガウリイはのんびりと自分の瞳と同じ蒼穹を仰ぎ、そしてあたしに視線を戻してくる。

「んー……いつの間にか、だな。 オレにも良くわからん」
「…やっぱりクラゲねぇ。最初は子供扱いしてたじゃない」

あっさりと、でも柔らかい微笑みでガウリイが答えてくるが、普段通りの返答に溜息が漏れる。

「そりゃ、最初の頃はな」
「なら今は?」

「今は……そうだな。やっぱり少し進化したかな」
「変化じゃなくて?」
「根本的なことは今も昔も変わらんさ。ただ……」

そこまで言って言葉を切るガウリイ。
それは言い淀んでいるというより、適切な言葉が見つからないようだった。





「………そうだな。少しリナに欲張りになったかもな」


彼自身はその表現に満足しているようであるが、あたしには…よく掴めない。
まぁ、恋愛には綺麗事じゃすまされない部分も多いけど…
この嫉妬やら支配欲とは無縁そうな男が?

欲張り…ねぇ……


「今、ハッキリ言ってあたし、あんたが好きなのかどうか…解らない」
「だろうな。昨日は驚いただろ?」
「…まぁね」
「だから、一ヶ月やるよ」
「それでも答えが出なかったら?」

…出ても、それがあんたの気持ちを受け止められない方だったら?
一体、あたしたちはどうするんだろう?

こうやって、諸国漫遊名物食い倒しをしてみたり、伝説級の難事件が転がり込んできたり、無難に盗賊どもをしばき倒してお宝没収の旅も悪くないのに。


彼は…どうして………




「オレは欲張りになったんだよ。だから、リナの答えは出るさ」

内心の声に答えるように、彼は言い切った。
どういう根拠なのかさっぱりわからなかったが、どこか自信あり気なガウリイ。

………よく、わかんない。


くしゃくしゃと頭を撫でられる。
大きな手。
癖のようによくしてくるその仕草。

笑みを浮かべているガウリイにそうされるのは嫌いじゃない…が、


「ええぃい!いつも髪が傷むからやめぇいと言ってるでしょうが!」

乱暴に振り払うのもいつものコト。

…嫌いじゃないのよ、うん。



まぁ、まだあと一ヶ月引く一日あるし。


今はまだ、もう少し。
このすくずったい感じを味わうのも良いかもしれない。
ガウリイにあたしが想われている。

――――悪い気はしなかった。