バレンタインぱにっく!?
〜前編〜




















            『バレンタイン』
――― 一般的では、恋する(義理の場合もありけり)女の子の祭典。


しかし、あたしはタダのオンナノコじゃない。
盗賊も悲鳴を上げて逃げ出す(?)天才美少女魔道士。
その連れも、ただのとっぽいにーちゃんじゃない。
容姿端麗、剣の腕は超一流。それだけで言葉足りれば良かったのだが、
それを全て無に帰すほどの乏しいノーミソみぢんこ。


あたしたちは自由気ままに旅をする庇護者と保護者の関係。
こんなあたし達にはバレンタインも関係ない。
そう思ってたんだけどーーー…












事の起こりは2月14日深夜。







「リナ、ちょっといいか?」

魔道書から顔を上げると、いつの間にやらベットの側に人が立っていた。

「うぴっ!?  あ、あんないつの間に…?」

当然、その人物はガウリイで、剣は腰に差してはいるが、アーマーは脱いだ軽装の装い。
全然気づかなかったあたしにもガウリイは全く意に介せず、にこにことやたら上機嫌な様子である。

「ん〜?そんなに驚くなよ。オレ、リナに渡したいモノがあるんだ」
「ふえ?ガ、ガウリイが?……なんかくれるの!?」

くれるという言葉に目を輝かせると、ガウリイはその蒼い目をあたしに合わせ、ふんわりと微笑む。

「ああ。とびっきりのものをな」

今までお目に掛かったことがないような艶のある微笑みで呟き、そっと形のいい唇を寄せる。

耳元で低い声が囁く。

「オレ、お前に惚れた」





…………???はぃぃぃ?????


凍り付くあたしから距離をとると、瞳を覗き込んでにぱっと笑ってみせた。

「そんでな、イキナリ襲うのもリナが可哀想そうかなって思ってな。
 丁度一ヶ月後のホワイトデーまで猶予をやるから、それまでに(諦めて落ちるとか観念するとか、身も心も捧げるっていうか…以下、自主規制)リナの気持ちを考えといてくれるか?うん、オレって優しい♪」

「が……な、なな…ふぇぇぇ????????」

頭から湯気が出てくるような、そんな錯覚。
なに、なんなのコレはぁぁぁぁぁああ!?!?!?!?!?

淀みなくつらつらと戯言を抜かしたガウリイはうんうんと満足気に頷く。

「よしよし。ちゃーんと聞こえてたな。上出来だ」

満足気に一人ごちて、あたしから隠すようなそぶりの右手から、小さな包みを目の前に差し出した。
それはあたしの片手に収まるほどの大きさの赤い包装紙に金色のリボンが付いた箱。

「これ、チョコレートな。もちろん本命だぜ。あ、寝る前に食ったらちゃんと歯磨くんだぞ?」

ぽんぽんといつもの癖であたしの頭を撫でると、その箱をあたしの手に置いた。

「で、真剣味がないと思われるのは嫌だから、ちょっと保険かけとくな」

頭を撫でていたおっきな手がさらりとあたしの前髪をかき上げて意味ありげに梳いていく。
なんだか無性に気恥ずかしい。
そりゃ、今のあたしはもう寝るだけだと寝間着姿で、防具もバンダナもしていない。その無防備きわまりないあたしの顔にガウリイの長い前髪がかかった。

あ…なんか不思議な感触………


それはおでこに柔らかい感触と吐息。



「ごちそーさん♪」

悪戯っぽい瞳が離れていき、彼はすたすたと部屋を横切って行く。







……は?

……………い、今の……………………何?







「……ちとマテや、をら」

思考停止したあたしの頭が目まぐるしく動き出し、電気信号があたしの脳に怒濤の如く流れ込んできた。
導き出された結論と共に、ぎりぎりまで引き金が巻き上がった状態のまま歯から軋み出すような声で、あたしはなんとか制止をかけた。

「ん?どーした?」
「どーしたもこーしたもあるかぁ!!なんなのよぉぉっっ!!!
 イキナリ人の部屋に現れて、用意周到にチョコまで買ってコクっちゃったりなんかして、挙げ句の果てに乙女のデコにちゅーなんかしてくれちゃってぇぇぇっっ!!!!!」

頭をかきむしり、発狂する。
先ほどまで没頭していた魔道書もその辺に投げ捨ててしまった。

「お、おい。落ち着けって」
「これが落ち着いて居られるか〜〜〜!!!!」

がばりと跳ね起きてベッドから跳躍すると、ねらい違わずガウリイのどたまにスリッパをぶちかます。
ぜぇはぁと肩で荒い息を付くいて自分でも真っ赤になっているであろう顔でガウリイを睨み付けるが、相手はぽよよん、と笑っていた。

「って〜〜ま、なんとなくこーなるような気はしてたから。
 これから一ヶ月、ゆーっくり考えてくれ」

おまけに大したダメージを受けた様子もなく、あっさりと立ち上がると、ひらひらと手を振って部屋を出ていこうとする。

「…あたしのコトからかってるわけ?」




低く問いかけると、ぴたりと足を止めて振りかえる。

「それもリナに考えて欲しいが、疑われるのはヤダからな。敢えて言っとくが、嘘でも冗談でも気の迷いでもない」

しかし、言葉の端や瞳からも真剣味がこれっぽっちも感じられない。
酒でも飲んでいるのだろうか?

…いや。ガウリイの体からはお酒の匂いはしない。


傀儡の術にでもかかっているとか?

…それも駄目。あいつの瞳は正気だ。

くそぉ、否定する要因が見つからない。
言葉に窮するあたしに苦笑すると、軽い足音で遠ざかる。


「あ、そうそう。リナ。本に集中するのはいいけど、ちゃんと戸締まりして読むんだぞ」

ドアに手を掛けて、保護者癖の過保護を発揮するガウリイはとても今さっきあたしを口説いていたようには見えない。

…あれ?あたし、鍵かけなかったっけ??

パタム、と閉まったはずみに落ちる金属片。

「……………をぃ…」

先ほどと同じ突っ込み。ただし、その相手はもう居ないけど…
あたしが見たモノ。
それは、見事なまでの切り口を見せた打ち掛け式の鍵。
ヤツだ……こんな見事に鍵の部分だけ叩き切れるのは。
ヤツが切り落としたに違いない。

「…あんのバカクラゲ。これでどーやって戸締まりしろってぇのよ…」

あたしのごもっともな呟きに、答えてくれる人は誰もいなかった。





繰り返すが、バレンタインとは女の子が想いとチョコを渡す日。
しかし…
あたしたちの場合は違う。

想いを唐突に告げられたのは、あたしの方。
飄々とチョコを渡し、言いたいことだけを言って去っていったのはヤツの方。


返事の期限は一ヶ月。



……どーしろっちゅーんぢゃいっ!










続いていーんだろうか??





ここでのバレンタインはそんな価値観が定着していると思ってくだせぇ(笑)
さてホワイトデーはどうしよっかな〜と思いながら、「合作にして手堅くゲット☆」とか。
そんな考えは微塵も………ござったかもしれません(笑)