あなたの欲しいモノは何ですか? |
「なんなのよコレはぁぁぁぁぁあああ!!!!!」 宿の一角からこだまする絶叫に、通りを歩く人々は何事かと声のした窓を見上げます。 その宿屋の一室―――・・・そこでは今当に修羅場が起きていました。 運が悪ければ、一瞬でこの町が消し飛ぶほどの修羅場が・・・・。 「で!コレは何なのコ・レ・は!!!」 先程よりは幾分衰えた声量と、さらにパワーアップした怒気でリナがガウリイに問いかけます。 「何って・・・・リナがオレに頼んだ薬だろ?」 言われたガウリイは、何故リナが怒っているのかさっぱり見当が付かない様子で首を傾げ、さらにさらにリナの怒りを仰ぎ続けていました。 なんと。リナの手にはあのいわく付きのピンクの小瓶が、握り潰さんばかりに握られているではありませんか。 あぁ・・・渡してしまったのですね・・・・・ご愁傷様です。 わなわなと手をわなつかせ、必死に何かに耐えるリナは引きつった笑みを浮かべながら、寛大にもガウリイに混沌の言葉ではなく、普通に話しかけました。 「ねぇ…ガウリイ。取り敢えず、弁解の余地だけは与えてあげる。素〜直に正〜直に話しなさい。何を言ったら、こーゆー薬になったの!?」 「へ?ん〜と・・・なんていったんだっけ?・・・・え〜っと…忘れ…」 「忘れた♪なんて言ったら、即。死刑!」 間一髪入れず、リナが突っ込みます。 ガウリイは鋭い切り返しを喰らって、頬に一筋の汗を流しながら頻りに唸ります。 「え〜〜っと・・・・・・う〜〜〜んと・・・・あ!思い出した!!元気になる薬をくれっていったんだ。・・・・・・・・・・・多分。」 語尾が弱いながらも、うんうんと嬉しそうに頷くガウリイに対して、リナのこめかみには青筋が浮き上がります。 「それで、店員はコレをくれたの?」 声ばかりではなく全身をも痙攣させ、リナはガウリイの鼻先に小瓶を突きつけました。 「う〜んと・・・・違うな。確か……夜になれば元気になるっていうヤツくれた。(……ような気がする)でも、それじゃ遅いって言ったら、コレをくれたんだ。(と思う)ををっオレって物覚えいいぢゃないかっ」 もの凄く情けないセリフを吐きながらガウリイが喜んでいます。 勿論、リナにこめかみに浮かんでいる青筋は2つ・3つと着実に増えていくのには気付いていません。 震える吐息を肺から吐き出して、深呼吸を一つ。 できるだけ穏やかな声で説明をしてあげます。 「ガウリイ。これはね。そーゆー薬なんだけど、使用条件が違うのよ・・・・あたしが頼んだのはただの治療薬!これはっ元気な人をさらに元気にする薬なのっ・・・・ってそんなことあたしに言わせんじゃないわよ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そーなのか?」 「そーなの!!!」 ぜぇはぁ・・・・っ 次第にエキサイトして息を乱していたリナでしたが、コト切れたように額に手を当て、項垂れてしまいました。 「アンタに何かを期待したあたしがバカだったわ・・・」 「そう落ち込むなって。」 「どあほぉぉぉ!!!!おのれのコトぢゃぁぁぁぁぁぁぁ」 慰めるガウリイに渾身の力を持って怒鳴り返しますが、効果は・・・・・期待する方が間違ってます。 「で、リナ。やっぱそれじゃ駄目なのか?」 「当然でしょ!?アンタっ怪我人にこんな薬使ったら・・・・はどうなるか分かんないけど・・・・と、とにかく!駄目なものは駄目!」 ちょっぴり顔を赤らめながらも、必死に抗議を続けます。 「とにかく!もうガウリイはいいわ。あたしが買ってくるから」 その言葉に、ガウリイが敏感に反応します。 「一人でか!?」 一人でいたら、また可愛い(オレの)リナに近寄る男が・・・・・・・ 冗談ではありません! ガウリイの突然の変貌に戸惑いながらも、鈍ちんリナはあっさりと頷くではありませんか。 「当たり前じゃない。アンタは宿で待ってていいわよ。 あたし一人で…」 「駄目だ!」 思わぬ怒気にリナが肩を震わせますが、リナの態度でガウリイが自分の失態に気付き、慌てて優しく説き伏せようと試みます。 「あ、あのな・・・・ほら、お前さんが買い物するなら、荷物持ちとかが必要になるだろ?オレも付き合うぜ?」 「……ヤダ」 「なんでだ?」 即座に断られ、流石にムッとしながら理由を問います。 「だって・・・・・・」 「だって?」 こうなってはガウリイの方が優勢。 リナは口ごもって、顔を赤らめながら、 「だって、公衆の面前であんな爆弾発言炸裂させて・・・もう恥ずかしくて町の中歩けないわよ・・・」 と、そっぽを向きながらポソポソと本音を吐き出しました。 リナの頭の中は、ガウリイの『これはオレの女だ』という爆弾宣言で汚染されているのです。 例え魔族相手に啖呵を切れても、どんなにせこくて我が儘で気が強くても処世術に長けていても、リナだって年頃の女の子。しかも、そーゆーコトに対しては全く免疫がないリナはそれの対処法などは思いつきません。 「リナは、オレと恋人に見られるのが嫌なのか?」 「そりゃ・・・・・そーゆー関係じゃないし・・・・」 もう蚊の鳴くような声でしかないリナの言い訳でしたが、事実は事実。 「むぅ…」 ガウリイは可愛いリナの為にヨーグルト脳みそをフル回転させて悩みます。 「そうだな・・・・・よし!」 何を考えついたのか、ガウリイは満面の笑みでリナの細い肩を掴むと、真摯な瞳に切り替えてリナの瞳と絡め、逃さぬようにしながら口を開きました。 「リナ、オレの恋人になってくれ。」 ・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「はぁ?」 素っ頓狂な声を上げ、リナはまじまじとガウリイを見つめます。 手入れもしてないくせにサラサラの金髪に、綺麗な蒼瞳。真剣な顔は文句なしに整っていて、美形のお手本のよう・・・ (ってなに、ガウリイの観察に奔ってるのよ・・・・) ガウリイに見とれていた恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをして、心を落ち着けつつ、リナはガウリイをビシッと指さし、辿り着いた結論を完結且つ、明解に述べます。 「アンタ・・・壊れたでしょ!?」 「おいおい・・・・」 リナのスルドイ推理にガウリイが困ったように苦笑すると、再び真剣な表情に戻って言います。 「違うよ・・・・オレは真剣だ。」 「だってっ・・・・」 「リナは…」 ガウリイはリナの抗議を遮って、少女の細い腕を優しく引き寄せて軽く抱きながら、ガウリイが微笑みます。 リナはガウリイの優しすぎる微笑みに抵抗を忘れ、彼の懐にスッポリと収納されます。 そして、上から降ってくる低い声。 「リナは誤解されるのが嫌なんだろ?それって、オレは嫌じゃないけど、恋人でもないのに恋人に見られるのが嫌なんだろ?」 「え・・・・・う〜ん・・・・・そー言われるとそーゆーコトになのかな?」 釈然としないモノを抱えながらも、リナは頷きました。 それを聞いてガウリイの目にキラ〜ンと妖しい邪光が・・・・ しかし直ぐさま、何もなかったかのように、いつもの優しい瞳に戻ります。 下心など微塵も感じさせない誠実さを売りに出した表情を破顔一笑させ、さらりと一言。 「じゃ、リナがオレの恋人になったら問題ないじゃないか♪」 「あ…アンタねぇぇっ!そんなに簡単に『ええ♪今からあたしたちはラブラブな恋人よ☆』なんて言えるワケないでしょぉぉお!!」 「え〜〜〜〜っっ駄目かぁ?」 お得意の『オレを捨てないで!』な瞳をして、リナの意志をぐらつかせます。 「好きだ。オレの恋人になってくれ。」 「じょ、・・・・ジョーダンじゃっっ」 慌ててガウリイを押し返せば、以外にあっさりとリナの束縛を解きます。が、体は自由になっても、ガウリイの視線に絡み取られ、動けなくなってしまいます。 「冗談なんかじゃない。好きだなんて冗談じゃ言わないだろ?」 「好きは好きでも保護愛じゃっ・・・・」 まだ想いが伝わりきれないリナに、ガウリイは困った様子で続けます。 「う〜〜ん・・・でも、好きなヤツは守りたいだろ?」 「それは・・・・・そ〜だけど・・・・」 口ごもるリナ。 今までの子供扱いを考えれば、素直に納得できないのです。 「まだ信じてくれないのか?じゃ、証拠もみたい?」 舌で唇を舐めながら、にんまりと微笑みます。 「・・・・・・・・・・・・・・・え、遠慮しときます」 原因不明の悪寒に身を震わせながら、リナがガウリイから離れようとしますが、そうはいきません。 折角のご馳走を頂かない手はない狼君。ズズィっと間を詰め、 ちゅ。 やぁらかいマシュマロのようなリナの唇に誓い(略奪)の口づけを落とします。 「○X★■△!?」 「リナ、愛してる」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ――――・・・・放心。 あまりの事に、ガウリイの顔が離れていっても、瞬きもせず、そのまま気絶してしまったかのように放心するリナ。 その事を知りつつも、ガウリイは、 「あれ?これじゃ足りないのか?次、行く?」 意地悪く、リナの頬を撫で妖しい笑みを浮かべます。 ぱちくり。 リナが瞬き一つ。そして――・・・・ ぼふんっっ リナの顔が膨張爆発して、顔から蒸気がもくもく・・・・ 「をわっ スゴイリアクションだなぁ。可愛い可愛い。」 もはや、リナの反応が人間の枠を越えても、ガウリイは驚き一つ見せず、頭を撫でます。恋は盲目・・・・なのでしょうか? どうやら、遠い世界にイッてたリナでしたが、次第に焦点があってきました。 「だぁぁぁぁぁぁぁっっっ乙女の唇を奪って、にこやかになでなでするなぁぁぁぁぁ!!!!」 「うんうん。で、リナ。返事は?」 ギクッ 今の元気はどこへやら。ガウリイの一言に身をすくませ、黙りこくってしまいます。 「・・・・・・・・・・・・・い、言うの?」 「食べ物に釣られて下心丸出しの野郎についていこうとしたリナを止めるのもタイヘンだからな。返事は欲しいな」 「う゛・・・・見てたの!?」 さらりと言われた一言に、まともに顔色が変わります。 「オレは人殺しはしたくないんだけどなぁ〜」 「なっ……物騒なこと言わないでよ!!」 「まぁ、リナ次第だけどなぁ。放し飼いは危険だろ〜なぁ〜」 リナはガウリイのいわんとすることを悟り、眉を顰めます。 「それって・・・婉曲な脅しよね」 「そうか?」 リナは、この時初めて、にんまりと微笑むガウリイが策略家だと感じました。 しかし、こうなっては、時既に遅し・・・・・・でしょうね。 もう完全にガウリイペースのままコトが進んでいきます。 「そだ、返事は行動でいいぞ♪」 「どーゆーこと?」 またまたいや〜な予感。きっと的中しているでしょう。 逃げようにも、ガウリイの腕がそうはさせません。 「オレ、今からリナにキスするから、良ければそのまま、駄目なら拒んでもいいぞ。」 「そんなっ……急に!!」 「じゃ、早速…」 屈んで、顔を寄せるガウリイにリナは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ぎゅ。 固く瞼を閉じて、そのまま留まりました。 触れ合う唇。 数秒は優しく。 そして、ガウリイがリナの腰をさらい、うなじに手を添えると、一転して激しいモノへと変貌させます。 あー・・・リナちゃんが毒牙に・・・・・。 ガウリイはこの上なく嬉しそうです。 束の間の触れ合いに酔いしれるガウリイでしたが、リナの方がバタバタと暴れ始めます。 どうやら、酸欠のようです。 「・・・・んんっっ・・・・・ぷはっ」 ぜぇぜぇ・・・・ 「大丈夫か?」 「大丈夫なワケあるか!!」 ディープなキスにあてられて、リナはヘロヘロと床にへたり込んでしまいます。 ガウリイはリナを優しく介抱しながら、満面の笑みでとどめの一言。 「これでオレたち恋人同士な♪」 「う゛・・・・・・・・・はぃ・・・」 「よしよし♪」 リナは自分でもなぁ〜んとなく後悔しながら、ガックリと頭を垂れます。 この先に巡りくる数々の試練を思い馳せ、手始めとばかりにイケナイ所にそぉ〜と忍び寄ろうとしていたガウリイの手を、ペチンと撃退しながらリナは溜息をつくのでした―――・・・・ |