あなたの欲しいモノは何ですか? |
「――なっ!!」 信じたくない…けれど、目の前で起こっている事は紛れもない事実。 リナが・・可愛い可愛いオレのリナがぁぁぁぁ〜〜〜っっ (こらこらっ何時アンタのモノになった!?) そう。 ゴールで待っていてくれたのはリナ。 ただし、隣には男の影―・・しかも軽薄で軟派そうな面構え。 リナはその男に熱心に話しかけられています。 とどのつまり、ナンパですね。 「クソ!オレのリナがいくら可愛いからって!それはオレんだ!」 思わず声を上げ、周囲の関心を惹きます。 しかし当の本人はそんな人々に目もくれず、目指す者は彼に気付かない栗色の髪をした少女一人だけ。 嫉妬の炎をメラメラと燃やしていると、リナの肩がその男に抱かれ、引き寄せられるではありませんか。 ガウリイは慌てて早歩き程度の速度から慌てて加速。 リナと男の密着度が上がるたびに、相乗加速していきます。 「あ゛あ゛あ゛あ゛リナぁぁ〜〜!!んな男に隙を見せるんじゃない〜〜〜!!!!早くいつものように呪文で吹き飛ばせーー!」 リナへと続く道を塞ぐモノは容赦なく踏みつけ、驀進していくガウリイ。と、寸での所で轢殺されるのを免れた通行人Aが罵声を浴びせます。 「アブねーだろーが!!ぶっ殺すぞ!!!!」 「ダメだ!リナが未亡人になっちまうだろーがっっ!!」 「・・・す、すいませんでした。」 間一髪入れず、鋭い眼光で一瞥され、すごすごと謝る通行人A。 ・・・いわゆる一つの、『人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死んじめぇ』改め、『オレの恋路を邪魔するヤツはオレに踏まれて死しんじめぇ』ってトコロですかね。 全ての五感・・・いえ、シックスセンスまでも駆使し、リナ達の行動を逐一読みとります。 「リナに何かしてみろ・・・・一族全員闇討ちにしてやる・・っ」 憎々しげに吐き捨てるガウリイの耳に、罵声や悲鳴と共に、リナ達の会話が届いてきます。 (・・・宿屋まであと200mほどあるんですがねぇ) 「な、いいだろ?退屈はさせないから」 「五月蠅いわねっ あたしは人を待ってるの!さっきから言ってるでしょ?! もう消えなさいよ!」 (そうだ!リナはオレを待って手くれてるんだ!お前なんかお呼びじゃない!) ガウリイは自分が遅くなった事を後悔しながら、リナのもとへと向かいます。 「でも、もう一時間以上待ってても来ないんだろ?忘れられちゃったんだよ。な、だから、俺等も楽しもうぜ〜」 「そりゃ・・・そーだけど・・・・」 「君みたいなタイプはほっとけないんだよ。その華奢な体がそそる・・ぢゃなかった、繊細で守ってやりたくなるんだ」 下心丸出しのセリフを聞いて、ガウリイの瞳が剣呑に細められます。 (オレも、思ってるコトはアイツと同じなんだよな・・・) 自分のやっている事と、自分の秘めた想いはあの男と同じだ・・・と吐き気すら覚えますが、この想いは決して生半可なモノではない。あんな男など問題にならないほどリナを想っていると断言できる自信もありました。 とにかく、ガウリイはリナのもとへ全力で向かい続けます。 あと100m。 「ほら、付き合えよ」 「でも・・・・・」 (リナ!そんな男の風上にも置けないゲス野郎の誘いなんか今すぐ断れ!・・・・いや、殺せ。原形も留めないほど切り刻むんだ!!オレが責任持って肉屋に売ってやるっ!!) ・・・・・・思考回路が完全にダークになっています。 ヤバイですねぇ・・・・瞳に邪光が・・・ しかし、言われたリナは口説かれて悪い気はしないのか、男の言葉に頬が薄く色づきます。 そのウブな反応は男を調子づけ、ガウリイの嫉妬に拍車を掛けました。 あと、50m。 (待ってろ、今助けてやるから・・・) 「そ〜だなぁ、夜景の綺麗なレストランでディナーでもどうだ?勿論、オレが奢るぜ。」 なんと、リナの一番弱いトコロを一突き。 「え?ホント!?」 あっさりと罠にかかって、あろう事かリナがその一言で目を輝かせ、無防備な笑顔を晒します。 ・・・・ぷっつん・・・・・ キレました・・・キレちゃいましたね・・・・ガウリイが・・・・ もう一押しで落ちると確信して、リナに顔を近づけていく男の姿。 リナまであと20m。・・・・もう間に合いません。 このままでは、ガウリイの、『オレはリナのハジメテを全て奪うぜ幸せプラン』に支障が出ます。 ブレーキを掛けつつ、ガウリイは右手の荷物を左手に持ち替えて、不運にもそこに店を開いていた果物屋から、季節はずれで高価なスイカを一掴み。 「な、なにする・・・」 売り子が言いかけますが、ガウリイは言い終わる前に分からせてやりました。 一球入魂。 男の顔面めがけてスイカを投げ付けます。 「ぐぺっっ」 狙い違わず、男の顔面に命中。 哀れなスイカはリナの一滴も飛び散ることなく、男の顔面で粉々に砕け散ります。 「え?ぇ?何?なんなの?????」 イキナリの事に目を白黒させていたリナでしたが、見知った気配が近づいてきたのを知り、そちらを向きます。 「ガ、ガウリイ!?」 「リナ、無事だったか?」 ギリギリセーフ。リナの純潔は守り抜きました。 (んな大げさな・・・・。) リナは何がなんだか分からない様子で、目をぱちくり、と愛らしく瞬きしながら、どこからともなく湧いてきたガウリイを見上げています。 (う・・・むっちゃ可愛い!!オレ以外にこんな顔晒しちゃ駄目だろ) きょとん、とした無防備な表情。 ガウリイは男を知らない少女を全ての外敵から守るように、自らの腕の中に抱き寄せます。 役得ですねぇ。 「ほえ?ちょっ、なっなにしてんのよぉぉぉぉぉっっっ」 リナにとってはガウリイこそが一番の外敵だと思うんですがね。 めいっぱいガウリイの腕の中で暴れだします。 轢殺されかけた人々は彼らを取り囲み、人垣となって、 『あれか・・・アレのせいでオレ達が・・・』などと端々からツブヤキが零れます。 ガウリイはちっちゃなリナを押さえ込んで、見物人全員に見せつけるように、ガウリイはリナに頬ずりします。 「うみゅぅぅぅぅぅっっ」 一気に完熟トマトな顔。 分かっていながら、ガウリイはそのまま話しかけます。 「リナ、オレのこと待っててくれてサンキューな」 「そ、そうよ!遅すぎる!!このあたしが折角ゴハン待っててあげたのに!!!」 (くぅ〜可愛い!!照れ隠しに怒るのがまた可愛すぎるぞ!!) 「こらこらこらっっそこ!勝手に二人の世界、作ってんじゃねぇ!!それは俺が見つけた獲物だぞ!」 スイカ風味の男が憤怒の形相で怒鳴ります。 ガウリイはリナ専用の太陽の笑みを消して、リナにたかる外敵専用の絶対零度(−273.155度)の氷瞳をして、氷の刃の如く冷声と冷笑を浴びせます。 「・・・消えろ。これはオレの女だ(きっぱり)」 あまりの迫力に一歩、二歩と後ずさり、小さく悲鳴をあげ、逃げていきます。 良かった・・・・ 『恐怖!人間の細切れ』実演を見ることがなくて。 「行った行った・・・まったく・・・・」 既にいつものガウリイ君に戻っています。 人間ってここまで変われるモノなんでしょうか・・・・・ 「ちょっと!!そんなことよりもういいでしょ!? 放しなさいよ〜〜〜っっ」 必死に暴れ続けているリナでしたが、体格も力の差も歴然。 逃げ出すのは無理です。 ガウリイは腕の中の少女に笑いかけ、宥めます。 「はいはい。じゃ、宿に戻ろうな」 「はいはい。ぢゃない〜〜〜〜〜放せぇぇぇぇぇっ」 暴れる少女を抱き締められたまま、宿に入っていく男を眺め終えた野次馬達は、再び人の流れに戻っていきます。 残された者は果物の残骸を泣きながら見つめる哀れな売り子さんだけでした―――・・・・・。 「べんしょーしてくだざい゛い゛ぃぃぃぃ・・・」 |