寄り道

あなたの欲しいモノは何ですか？

～中編～

さて、リナにお使いを頼まれたガウリイは、まだ日が高くないせいか、人が疎らな大通りをテコテコと歩いていきます。口を噤んで歩くその姿は凛々しく、誰もが心を奪われるような整った容姿なのですが、彼の頭は見事なくらいリナで占められていて、他の女性が送る熱望の眼差しなどまったく気づきません。と、ガウリイはイキナリ足を止めてしまいます。目的地の薬局はまだまだ先なのに―――というか、彼は薬局が何処にあるのか知っているんでしょうか？それ以前に、止めてしまった足が動こうとしません。彼が見つめるのは、ショーウィンドの中に飾られている一着の服。これ･･･リナが着たらきっとすっごく似合うだろうなぁ常々、魔道士ルックに身を包んだリナが違う格好をしたら、どんなに似合うだろうと思っていたガウリイはショーケースに飾られた服を着たリナを想像します。可愛いっっっ可愛すぎる！！！こーなっては止まりません。妄想の世界にどっっぷり首まで漬かっているガウリイ君。 ――――３０分経過――― それに･･･この服、脱がせ易そうだしなぁ～～･････････何故か考えはそんな所にまでぶっ飛んでいるようですが、彼にとっては重要なようで、放っておきます。 ――――５０分経過――― 「あの～」リナはああ見えてかなり華奢だからな～でも、ちょっと力を入れると折れちまいそうってのがまたそそるんだよなぁ。もう全く見当はずれな事を考えているガウリイに横やりを入れるように声を掛けますが、妄想の世界にいる彼に届く筈もなく、無視されてしまいます。「あの～～～っっ」苛立だった声でもう一度辛抱強く呼びかけます。「･･･なんだ？」と、ようやく戻ってきた彼の第一声は不機嫌極まりない声。自分の妄想を邪魔された相手に報復とばかりに氷のような冷たい視線を送りつけます。しかし、相手も怯まず睨み返してくるではありませんか。なかなか根性が座った人ですね。「すいませんけど、あなた･･その服買うんですか？」「それをお前に言う必要があるのか？」「大ありですよ！そんな所にどーーん構えて居られちゃ営業妨害なんですっ！買うんですか？買わないんですか？」どうやら店員さんのようです。ガウリイが何時までも店の前に立っているのに業を煮やし、催促に来たようです。それまで買う気などさらさらなかったガウリイでしたが、そう言われると心が揺らぎます。う～～～～ん･･･リナに似合うだろうなぁ･･･けど、着てくれるかなぁ？でも、もしかしたら･･･ダメでモトモト。う゛～～～～～～んでもなぁ･･･ ――――５５分経過―――― 「あの～･･･もうお安くしますから･･･いえ、買っても買わなくても結構ですから立ち退いて下さい～～～～～」予想以上に考え込んで立ち退く様子がないガウリイに泣きながら訴える店員さん。結局、その五分後、ガウリイはリナへのプレゼントを買うことになりました。よくそんなお金を持っていたような気がしますが、店員さんがほとんど捨て値で売ってくれたのが功を奏したようです。
テコテコテコ。宿を出てからはや一時間。ガウリイは、人通りが増えてきた通りを歩いていきます。勿論、リナへのプレゼントを大事そうに抱えたままで。「そう言えば･･･」と、呟いたのは、それから暫く後のこと。「薬局って････何処だ？」今更ながらそのことを思い出したガウリイは唸ります。　　　　　　・　　　　　　・　　　　　　・「まっ、いっか。テキトーに入れば薬局に着くだろ」ものすごくアバウトな発言をしますが、彼は至ってホンキ。すぐさま手短にあった店に入ります。「え～～っと、ここは薬局か？」「いえ、当店は武器を･･･」「おしいな（何処が？）」ばたん。てこてこてこ。「ここは、（以下略）」「ここは、産婦人科です～♪おめでたですか？」「う～～ん･･今のところ必要ない」ぱたん。「「いらっしゃ～い。あら～カッコイイお兄さん～。あたしとイイコト････」「リナ以外はいらない」ばたんっ「くっくっくっ･･･あなたが呪い殺したいのはどなたですか･･くっくっくっ･･･」「････････。ええっと……機会があったらな」ぱたん･･「はい。弁護士事務所（あんのか･･この世界に･･･）相談ですか？訴訟手続きですか？」「そのうち、婚姻届をだす（予定）」ぱたん。「では、御領主様、この黄金色に輝く饅頭を･･･」「のぉ、越後屋、お主も悪よのぉ～･･･くっくっくっ･･」「･･･良く分からん。」ぱたん。「くそ～～～～っ殺してやる～～！！！」「きゃああぁぁっっ人殺しーー！！！！！！」（殺人。只今実演中）「･･･頑張ってくれ･･･」（いいのか･･？）ぱたん。･･･ｅｔｃ･･ｅｔｃ･･･　　　　　・　　　　　・　　　　　・「おっかしいな～ないぞ～～～」トテトテトテ。行き当たりばったりな探し方をして、かれこれ三時間･･･もうすでにリナが予想した以上の時間を掛けつつも、まだ目的地にすら到着しておりません。シクシクシク･･･いつまでナビを続ければいいのやら･･･「リナ、心配してるかな～」いえ、怒っているか、呆れているか、どちらかでしょう。「ここはどーかな？」と、またなんの脈絡もなく決めた所に入って行きます。ぴょこっと顔を出せば、何やら取り込み中。真っ暗な室内に陰湿にひしめき合う十数人の黒ずくめ。漆黒が躍る中に、蝋燭の微弱な炎が揺れて異様な空間を演出しています。と、やおら、先頭の黒ずくめが仰々しく魔王（想像）像を仰ぎ、叫び始めたではありませんか･･･（ちなみに、どことなくその像がリナに似ているような･･･ＢＹウィレーネ作。）「魔王に闇の栄光と無の混沌あれ！赤の竜神に破滅と救いなき絶望あれ！」後に続き、後ろに控える者達も復唱します。･･･これはどうやら･･･サタニストの集いのようです。「う～～ん･･･多分、違うよなぁ～」思いっきり違います。扉を閉めて、また歩きだ･･･って、もーいいです！！このままぢゃ年が明けちゃって初日の出が拝めちゃいますからっガウリイさん！私に付いてきてください！！「あ～悪いなぁ～」ナビ（外道）に導かれ、歩くこと数分。ようやく『薬局』とデカデカと掲げられた看板の前まで来ました。
「ここかぁ～ありがとな♪」いえ･･もう何でもいいですから、用件を済ませて下さい～～「････････････････････････何買うんだっけ･･･？」埋まれ～～～～～っ埋まってしまえぇぇ～～～～～っっ！！「じょ、冗談だってっっ、覚えてるっ覚えてるからっっ」っハァ････ハァ･･ハァ。あなたの場合は冗談に聞こえないんですよ！！「まぁまぁ」朗らかな笑みを浮かべながら、店内に入って行くガウリイ。ほんとーーーに何を買うか覚えているんでしょうねっ「いらっしゃいませ！何をお買い求めですか？」カウンターにいる愛想のいい店員がガウリイに気付き、営業スマイルで声を掛けてきます。

「え～～～っと････元気になる薬をくれないか？」･･･当たらずしも、遠からず。ガウリイにしては上出来。及第点を差し上げましょう。しかし、それを聞いた店員は困った顔をします。「元気になる薬と言われましても･･･」確かに、薬局にはそういう薬を売っている場所なのだからあるにはある･･･けれど、ありすぎて限定が出来ないのも当然です。「でも、リナがそーいったんだけど･･･」ガウリイが何とはなしにリナの名前を出すと、店員がその言葉に反応します。「その方は貴方の恋人ですか？」「リナのことか？」「ええ」ここで当の本人がいたら、真っ先に否定するのでしょうが、ここにはガウリイ君ただ一人。満面の笑みをして答えちゃいます。「ああ、そうだよ（だといいなぁ）」緩みまくった表情で答えるガウリイ君。「そうですか。それならば話は別です！」店員は満足そうに頷くと、屈み込んでなにやらゴソゴソと漁り始めました。「あ、ありましたよ！これはどーですか？」店員が取り出したのは茶色の小瓶。････ちなみに、ラベルには『精力剤』と書かれていたりします。「これを飲めば、夜に必ず貴方の恋人は元気になります！」薬品を掲げて、誇らし気にポーズをとる店員。しかし、ガウリイは、「いまいち」と言った表情。「夜･･じゃダメだと思う。もっと早く効くヤツないかな？」真面目に答える健気なガウリイ。「ををっそーですか！？ではこれではどーーです！」今度取り出したもの凄まじく怪しいピンクの小瓶。「当店自慢の一品！！どんな強情な女でもたちどころに☆ 即効性でしかも、持続性アリ！！これでオールオッケェイな筈です！！！」とんでもない薬局です。どうしてこれが自慢の一品なのでしょう。ちなみに今度のラベルには、『超ウルトラ強力催淫薬』と書かれていたりします。知ってか、知らずか、ガウリイはそれを聞くと、満足気に頷いたではありませんか。「うん。じゃぁ、それをくれないか？」「はい！お買いあげありがとうございます！！」･････････。･････････。･････････。･･･分かっているでしょうか･･･この時点で帰ったガウリイに待つものは『死』のみだということが･････。「よし、買い物も終わったし、帰ろう」さて、リナの注文と懸け離れたモノを買いつつも、なんとか買い物を終えたガウリイは、リナが待っている宿に戻っていきます。流石、ガウリイ。飼い主の所に戻るのには、最短距離の通路を通り、間違えることはありません。ををっ宿屋が見えてきました。と、そこには―――･･･「―――･･･なっっ！！」ガウリイは、目の前で展開されている由々しき事態に目を見開きます。終着点の宿屋が見えたガウリイが見てしまったモノとは！？とぅーびぃーこんてぃにゅう☆