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「いー天気ねぇ」 「わぉん!(そーだなぁ)」 「ってあんたっ 一体何処まで付いてくる気なの?」 くるりっと振り向き 後ろを付いてくるオレに尋ねる。 「わん!(何処までも!)」 「あ・・・あんた、今『何処までも付いていく』みたいなこと言わなかった?」 おお!リナ、オレの言葉が分かるようになったのか? 以心伝心ってやつだな!ついに愛は種族を超えたのか!! オレはしっぽをぱたぱたさせながらリナに並ぶ。 「駄目よ。あんたなんかがくっついてきたら犬鍋にされちゃうわよ」 「わおーん…」 鍋にするのはリナの方が可能性高いんじゃないのか・・・? ポカ! 「きゃぃん!」 いきなりリナがオレの頭を殴る。 「あんた今あたしの悪口言ったでしょ。」 何故分かる・・・? そんなこんなで人間の時と大差ない漫才をしながらオレたちは町についた。 「君可愛いね。一緒にお茶でも・・・・」 「だぁぁぁやかましい!!ディル・ブランドォォォ!!」 辺りの砂塵を巻き上げ、盛大に吹っ飛ぶ男。 ひゅるるるる。。。と重力に逆らわず落ちてくる物体を避けながら、オレはリナにべったりと張り付いていた。 「ったく次から次へと・・・・もうっ鬱陶しいぃぃーーー!」 リナが頭を掻きむしっている。 もう何人目だろうか・・・・ リナとオレが町に入ってからというものリナ目当てのナンパが絶えない。 どこから湧いてくるのか不思議なくらい、ひっきりなしに声が掛けられる。 リナは内心どうあれ外見は華奢で愛らしい美少女。いくら武装していても、やはり華奢な体は隠せないし、顔つきだって幼くて愛くるしい。 声を掛けたくなる気は解らなくもないが、獣のままで隣にいるオレには面白いはずもなく、ふらふらと近寄ってきた男にぐるるる、と威嚇してみせる。 流石にオレ(人間バージョン)と一緒の時は近寄ろうとする男どもに睨みを効かせていたし、オレの前で誘おうなどどいう度胸がある奴はいなかったが…… 犬となった今では可愛い少女のオプションとして人目を引く存在になってしまっている。 ゼロスの奴・・・どうせ変えるなら豹とか虎にしろよ。 そうすりゃリナに近寄る男がいなくなっただろうに・・・ ああ・・・早く人間に戻りたい・・・そしたらあいつらに、「これはオレの(非公認)女だ。」って無言の圧力を掛けられるのにぃぃぃ・・・・ また一人、懲りもせずリナに近づいていく。 あ゛あ゛あ゛あ゛リナに近寄るなぁぁぁ!! 「う゛ーー!!!」 オレが牙を剥き出しにして唸り声を上げると軟弱男はたじろいでそそくさと去っていった。ふん・・・・・・当然の報いだ。 「宿は決まんないし、ヤローは寄ってくるし、もー最悪!!!」 辺りも暗くなって皆が家路につく頃、オレとリナは未だに宿が決まらずとぼとぼと通りを歩いていた。 食事はどうにか外で食べたのだが、今夜の寝床が決まらない。 まぁペットOKという宿はあまりないだろう。 「仕方ないわね。こうなったら最後の手段よ!『薄幸の美少女リナちゃんによる寒いのお願い一晩泊めて』作戦よ。という訳でその辺の男の一人住まいに・・・」 冗談じゃない!! 「わうわううんわぅぅうん!(ダメダメダメぜっったいダメだ!!)」 「ったく冗談に決まってるでしょ。」 でも目が据わってるぞ・・・ 「まぁ次行ってみましょ。それがダメなら平和的に『宿が瓦礫の山と化したくなかったら泊めてね。お願い』って誠意をもって交渉すればきっと快く泊めてくれるはずよ。」 「わうーん・・」 それって脅しって言うんじゃ・・・・ リナがニッコリと笑うが、目は笑ってなかったりする。 「ねぇ。犬ってさー肉食だからあんまり美味しくないかもしれないけど、食って食えないことはないと思うのよね。肉は鍋に出来るし、毛皮はコートに温かくて、とっっっても経済的かつ便利だと思わない?」 「わうーん、わん(何でもない。オレが悪かった)」 リナはもしかして犬語が分かるんじゃないのか? ったく伝わって欲しいことは何一つ伝わらないのに・・・・ 次の宿屋に向かって歩いていると突然、路地裏から手が伸びてリナを攫う。 「わん(リナ)!」 「ちょっ・・・なにすんのよあんたたちは!」 暗闇でもよく見えるオレの目が見た物はリナとそれを取り囲む5人男たちだった。 「可愛いお嬢ちゃん 番犬付きでお散歩かい?」 イヤらしい笑いを浮かべながら男の目がリナを嘗め回す。 そう言っているうちに2人が入り口を塞ぐ。 随分手慣れているな クズどもが・・・ 「放しなさいよ!」 気の強いセリフを言い放ち蹴りを叩き込む。 が、残りがリナを抑え込む。 「いっ・・・まぁいい やれ。」 リナに蹴り飛ばされたリーダー格の男が命令すると、たちまち男たちがリナに襲いかかり覆い被さる。 「う゛ーわん!」 やめろ!! オレはリナを押さえ付けている一人に噛みつく。 「っい・・・そく!・・・」 「きぁぅん!」 いつの間にかそいつの手に握られていたナイフでオレの前足を斬りつけた。 鮮血が溢れ出し、前足の感覚が麻痺していく。 ちっ こんな時に・・・ 「ディム・ウぃ・・・んぐ!?」 リナが呪文を放とうとした時、一人がリナの口に何かを詰め込んだ。 「おいたはいけないなー・・・可愛い声が聞けなくて残念だけどオレたちも死にたくないんでね。終わるまで我慢して貰うぜ。」 くそ!!やめろ!リナに触るな!!! 2人がリナの両手足を押さえ付けて一人がリナの上に馬乗りする。 その手にはオレを斬りつけたナイフ。 あれはリナの服を切り刻むものだったのか! リナの目に怯えが奔る。 やめろやめろやめろやめろやめろ!!! やめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!!!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね。 「ぎゃぁぁぁぁぁ」 リナを馬乗りしている男の首から血が噴き出す。 男の動脈を噛み切ったオレの体が血で赤黒く染まる。 「こん・・・の!」 リナを押さえ付けていた奴が飛びかかってくる。 オ前モ、死ネ。 そいつの首筋に噛み付こうとした瞬間、脇腹に鈍い痛みが奔り、地面に倒れ込む。 そして痛みは焼け付くような痛みに変わる。 見れば脇腹に深々と突き刺さっているナイフ。 やったのは見張りの内の一人。 殺ス。 リナニ仇為スモノハ、オレガ殺ス。 立ち上がろうと四肢に力を入れるが、痙攣して弛緩していく体。 ちくしょうっちくしょう!!なんでオレはリナを守れない!? もう一人がオレに短剣を振り下ろそうとする刹那、 「ブラム・ブレイザー」 「ぐあぁぁ」 青い魔力光がオレにトドメを刺そうとしていた奴を吹っ飛ばす。 リナ、無事なのか、リナ!! 「消えなさい・・・それとも一人残らずこの世から消えてみる?」 静かに佇んでいるリナ。 足下には彼女の自由を奪っていた男が気絶して転がっている。 リナからは恐ろしいほどの殺気が放たれている。 「くそ・・・逃げるぞ!!」 プレッシャーに耐えられなくなった奴らは、けが人を担いでリナの前から姿を消した。 残ったのはもう立ち上がることも出来ないオレと無事だったリナだけ。 「犬 大丈夫!?」 殺気を消してリナが駆け寄ってくる。 「しっかりしなさい!」 血まみれのオレを自分の服が汚れるのも気にせず抱き上げる。 彼女はオレの容態をみて眉を顰め、脇腹に刺さったナイフに手を掛ける。 「我慢しなさい!」 一気に引き抜く。 「ぐぅ・・・・」 なんとか痛みには耐えたが、出血が多すぎる。 ・・・・きっと助からない・・・・ 「リカバリイ・・・」 いまだに血が溢れる傷口に手を当てて呪文をかける。 「犬!死んじゃだめよ」 必死にリナが励ます。 (そんな顔するなよ・・・) リナの目にうっすらと涙が滲んでいた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ごめん・・・あたしのせいであんたが・・・」 (お前が無事で良かったよ。) 「だめ!瞳閉じちゃ・・・死んじゃう!」 「・・・・・く・・・ん・・・・」 (ごめんな・・・ずっと一緒に居られなくなっちまって・・・・) 「や・・・だめ・・死なないでよ ガウリイもいなくなって・・・・あんたまで死んじゃったらあたしひとりぼっちになっちゃうじゃないの・・・責任とって最後まであたしのお供しなさいよ。」 「ねぇ・・・・」 白濁していく視界――――遠ざかっていく声―――― 「ねぇ・・・死なないてよぉ・・・」 リナは下唇を噛んで瞳を閉じる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あ……とう・・・・・ねぇ、聞こえてる?助けてくれて、ありがとう」 もう助からないと見て取ったのだろう・・・ 瞳を開いたリナは目にいっぱいの涙を溜めたまま無理に微笑んで言葉を換えた。 (オレ・・・少しでも役に立てたかな・・・) 「あんたのお陰で助かったわ。・・・ありがとう・・・」 (そうか。よか・っ・・た・・・・) 全てが混沌に沈んでいく。 ・・・これが・・・ 死――? |