NEXT TO ME |
〜第二話〜
それは確かにオレの字だった。 ――が、オレはこんな手紙を書いた覚えなどない。 こんな悪趣味なことをするのはあいつだけだ。 くそ!!ゼロスめ!! オレはゼロスへの憎しみを込めて、口と前足で紙を破り捨てる。 冗談じゃない・・・リナ!! リナを追って宿屋の一階の食堂に降りるが、そこには既にリナの姿はなかった。 もう出ていっちまったのか・・・ 今すぐ探さないと・・・ 見つけださないと・・・ ここままじゃ二度とリナに会えなくなっちまう! ドアに向かおうとするオレの前に障害物が現れる。 「何だこのでっかい犬は・・・一体誰が連れ込みやがった。」 見上げれば、宿屋の主人が掃除をしていたモップを手に入り口の前に立ち塞がっている。 邪魔だ・・どけ!! 「う゛ーーーっ」 オレは唸り声を上げ、相手が怯んだ隙に外に飛び出す。 「待てぇーー!」 主人が入り口のドアで叫んでいる。 誰が待つか・・・オレは今 他の人間にかまっている暇はないんだ。 犬となったオレは人混みを颯爽と駆け抜けていきながらリナを探す・・・が何処にもその姿が見当たらない。 次第に焦りが出てくる。 くそ・・・どこにいっちまったんだリナ! すると、オレの鼻に慣れ親しんだ香りが届く。 これは・・リナの! 微かな匂いだけど、間違いなくリナのものだ。 慌てて辺りを見渡すが、何処にもそれらしい姿はない。 何処だ、何処だ、何処にいるんだ! 匂いだけはするのに・・・・・・・・・・・匂い!? そうか! 犬となったオレの嗅覚は人間だったときよりも、何十倍も優れていて当然だ。 リナが通った後ならその匂いを嗅ぎ分けられる筈。 例えどんなに離れてたって・・・ 早速 オレはそれを手がかりにリナを追い始めた。 どのくらい走っただろうか リナの匂いを追い続けて町を出て街道をひた走っていると、遙か先に栗色の髪をした少女がいた。 それはまさしく、オレが何年も見守り続けてきた大切な少女の後ろ姿だった。 ・・・見つけた!! オレはリナ目掛けて全力で走る。 流石に犬のスピードは人間より断然速い。 景色がみるみるうちに流れていく。 「わん!」 リナとの距離が大分縮まったところで一吠えする。 リナにもそれが届いたようで立ち止まり こちらを振り向く。 その瞳にはもう涙はなかったが、代わりに暗い影が差していた。 オレは速度をゆるめ、リナの前で立ち止まる。 リナは無理に微笑んで俺の前に座って視線を合わせる。 リナの淋しい笑みがオレの胸を締め付ける・・・・ 「どうしたのあんた・・・ついてきちゃったの?飼い主の所に戻りなさい。」 リナはオレの頭を撫でながら言う。 (オレの飼い主は・・・) 瞳で訴えるがリナに伝わるはずもない。 「・・・それとも 捨てられちゃったの?・・・そしたらあたしと同じね。 ・・・相棒に置いてかれちゃった・・・ううん見捨てられちゃったのかな・・・」 (オレはお前を見捨ててなんかない! 頼む気付いてくれ・・・) 「早く戻りなさい・・・あたしなんかと一緒にいるとロクなことないよ・・・」 リナは立ち上がってオレに背を向け歩き出す。 オレを振り切るように・・・ (嫌だ!離れたくないんだ!) 「ワン ワン ワン!」 何度吠えてもリナは振り返ろうとしない。 「・・・・ついて来ちゃだめ。」 前を向いたまま抑揚のない声で言う。 オレは構わずリナの後をついていく。 てくてくてく。 「・・・・・ついて来ちゃだめ。」 てくてくてく。 「・・・・・ついて来ないで。」 てくてくてく。 「ついて来ないでって言ってるでしょ!?」 オレに背を向けたままリナが怒鳴る。 それでもリナの後をついていく。 リナは走り出さない。 犬が走れば追いかけてくることを知っているからだろう。ただそれに近いほど歩くスピードが速い。完全なオーバーペースで歩き続けている。 「お願いだから一人にして・・・」 (嫌だ!) がし オレはリナのマントをくわえる。 さすがに歩みを止めざるを得なくなったリナ。 「っ・・・・放しなさい。」 少し弾んだ息を整えながらつんけどんに言ってくる。 (どうして分かってくれない・・・オレはお前の側を離れたくないんだ。) 「・・・・・・・・・・・・」 放そうとしないオレ。 しばしの睨み合いとも言える視線でお互いを見つめる。 「・・・あんたこれ気に入ったの? そうね、餞別代わりに上げるわ。」 そんなことをオレが望んでないのを知りながら一方的に言い放つ。 カチ マントの留め金を外す音がして、いきなりオレの視界が真っ暗になる。 「レイ・ウィング」 !!? 慌ててマントから抜け出すが、その時にはもうリナは飛び立って飛翔している。 オレはリナのマントをくわえて後を追う。 こちらが追っていることに気づき、リナは進路を変えて森にはいっていく。 空には障害物がないが地上を行くオレにとっては障害物だらけなのと、 木でリナの姿を下から追跡出来ないようにするためだろう。 流石に今回ばかりはオレの嗅覚もあてにならない。 オレは木の隙間から途切れ途切れ見えるリナを絶対に見失わないようにしながら、必死に追いかけていった。 つづく |