現代スレイヤーズ 第七話 追う者たちの語らい |
「で…?結局、麗しの姫君は見つかったのか?」 溜息を吐き、首を横に振る。 「いっこうに……………。手がかりさえも見つからない」 悩ましげな表情にすれ違う女たちがことごとく足を止め、顔を赤らめる。 「おい、歩きながらフェロモン撒き散らすな」 「なんだそれは……」 まったく自覚のない台詞。 コートのポケットの手を入れ、町の至る所に飾られイルミネーションを見やる。 「なぁ、ルーク。なんで町がこんなに賑やかなんだ?」 あまりにボケた問いかけにひくひくとこめかみを引きつらせる。 「とうとう季節感もなくなったか…重傷だな…」 「ほっとけ。あいつに会うまではオレの時間は止まったままだ」 ぶっきらぼうに、特に深い意味はないのだが、以前の彼とは到底想像できない言葉 をぬけぬけと言い放つ。 自覚がないというのは、ある意味恐ろしい。 「名言だねぇ…」 しみじみと相棒の顔を見て、頷く。 「で、これはなんなんだ?」 浮き立つ町をあごでしゃくり、もう一度訊く。 「何って……クリスマスに決まってるだろ?恋人たちの一大イベントだぜ〜」 「…ああ、だからか」 「ん?」 思案気なガウリイに、今度はルークが尋ねる。 「適当に相手してた女どもが群がってその日を指定してきやがる」 「……刺されるぞ。いつか」 ルークの冷たい視線にガウリイは事も無げに答えてみせる。 「最近襲われたばかりだ」 「そりゃーよかった」 嫌みに言うが、露骨に嫌な顔をする。 「お前、まだ女と手を切ってないのか?」 「手を切る?」 オウム替えしに尋ねると、ルークは頷き、 「お前、その『嬢ちゃん』に会いたいんだろ? それなのに、他の女を抱いてていいのか?」 「なんでオレが彼女に会いたいと思うなら、他は駄目なんだ?」 「当然だろ…」 疲れた声を滲ませて、顔を手で覆う。 「よくわからんが……」 ガウリイは、戸惑いながら続ける。 「他の女より、あいつに会いたい。 クリスマスも、正月も、あいつとなら過ごしても言い」 「だったら、なんで住所も電話番号も聞かなかった?…いや、何で探らなかった?」 彼の特異能力を知る数少ない友人の言葉に、一瞬躊躇し、ややあって。 「相手の奥底まで触ると、その時の思った事だけじゃなく、感情まで入ってくる」 「つまり?」 「あいつがオレの事をどう思ってるか…その時の気分じゃな評価が解っちまう」 「…いいだろーが。別に…」 「怖いじゃないか」 ケロっとした表情で情けない言葉を吐かれ、思わず脱力する。 「来る者拒まず、去る者追わずだったお前の言葉とは到底思えん」 「それについてはオレも同感だ」 肩をすくめ、自分の不可解な行動に疑問を持っている。 が、その衝動的な想いに付ける言葉がないのだ。 少なくとも、今の自分には。 「ったく…なんだってそんなに小生意気なガキに執着するんだか…」 ルークを睨み付ける。 確かにそうなのだが、どうも他人に言われると腹が立つ。 「可愛かったぞ。目を奪われるほど鮮やかな瞳と強い心がある」 「そっか。そいつなら……」 「ん?何か言ったか?」 「いや、何でもねぇ」 苦笑を浮かべ、いつの間にか下を向いていた顔を上げる。 「ま、必死に駆けずり回れ。この世のどっかにはいるはずだからな オレは…んっふっふ。ミリーナに猛烈アタックでイブの予約をもぎ取るぜ!」 猛然と走りはじめるが、一度ガウリイを振り返り、 「ふっ これでオレは失礼するぜ!待っててくれよっ ミリーナ〜〜〜!!!」 人混みを蹴散らしながらルークは駅に駆け込んでいった。 苦笑しながら見送ると、止めていた足を再び動かす。 さて、今日は何処を探そうか―――― 背の高い男が人混みに紛れてゆく様を見送るルークの姿があった。 消えてゆく彼の背中を追う瞳は真摯で、穏やかな瞳。 「あいつも…早く出会えるといいな。 自分を闇から救ってくれる、唯一無二の光を―――」 かつて自分がそうだったように。 人と同じナリをして、人として平凡に生きる人は出来なかった。 疎外感と孤独――― 不必要なものばかり見せつけられ、必要なものは見えない、彼の特異能力を持つ人間 以前の死んだ魚のような瞳とは違う。 解らないなりに、悩み、足掻いている。 生きている――― その分、傷を負ったときのリスクは計り知れないが。 自分を化け物と呼ぶくせに、人から化け物と呼ばれることを何より恐れている。 誰よりも臆病で、人間好きの彼。 ルークはやぶにらみの目つきを優しげに伏せ、今度こそホームへ…… 『 人身事故の為、ただいま運休しております。誠に申し訳―――』 無情にも流れていく伝言掲示板はなんども同じ言葉をリピートしている。 「うおおおぉぉぉぉおミリーナぁぁぁぁぁぁああ!!!!! 俺、挫けないからなっ 俺が行くまでちゃんと待っててくれよーーーっ!!!!」 「どやかましい!!こちとらイライラしてんのに叫かないでよ!!!」 見知らぬ栗髪の少女にどつかれつつ、ルークは泣きに泣いていた。 40分遅れで運転は再開したものの、バイト先の喫茶店は闇に包まれていたのだ。 入り口の立て札が哀愁を誘う。 『本日は定休日です』 「ミリィィィィィナァァァァァァァァァァア〜〜〜〜〜」 空回りの男の断末魔が冬の夜空に吸い込まれていた。 追う者たちの語らい・終 |