現代スレイヤーズ 第六話 回り始めた歯車 |
「妙な女に会った」 頬杖をつきながらカウンターに陣取ったガウリイが、隣に座る男に言った。 「へぇ〜」 特に興味なさそうに聞き流し、黒髪のその男はやぶにらみの双眸を眠たげに細めた。 「なぁ………。ルーク…?」 「後始末は御免だぞ?」 面倒くさそうに手を振ってみせるが、金髪の男は苦笑して否定した。 「いや違う。自分でもわけが解らない。けど…」 「あ?…ンだよ…珍しいこともあンな?」 「憎まれ口たたいて帰られたのに、また会いたくなる感情って知ってるか?」 「はぁ?」 思わず目を見開いてルークと呼ばれた男はガウリイを見る。 彼は至って本気のようだ。 寝惚けているわけでも、イカレたわけでも、まして誰かと入れ替わったわけでもない。 ルークから見たガウリイという男。 彼は他人には淡泊を通り越して、無関心だった。 そして他人に執着など彼と知り合ったここ数年、全く、一度も、欠片もなかった。 女はそれこそ来る者拒まず去る者追わず。 そんな男が……… しかも、女に興味関心を抱いた? 「をい……それって……」 「もう一度、あいつに会いたいんだ」 トドメの一撃。 ルークは眉を顰めて初めて隣に座るガウリイを見た。 「本気なのか?」 「ああ」 あっさり頷いてみせた。 ガウリイの意外すぎる発言に戸惑うルークは彼の蒼い瞳を凝視する。 精巧に作られたガラス玉のように感情の片鱗などみえない―――はずだった。 が、彼の予想を裏切って、その蒼い瞳はほんの少しの戸惑いと、熱。 正直、驚いた。 この無情・無欲・無感動・無反応……ないない揃いで固まった男を溶かす事が出来る人間がいたなどと…… 「ガウリイ、そいつと出会った経由とか、話したことととか…。 いいか、覚えていること全て話せ。まずはそれからだ」 ルークの顔に人の悪い笑みが走った。 ちょうど今、彼には娯楽に飢えていたのだ。 つまりは――他人から見れば、今のルークの顔は子供が新しいおもちゃを見つけたかのような、そんな表情をしていた。 残念なことに、白羽の矢を立てられたガウリイの脳裏には、あの栗色の髪の少女がこびり付いているせいか、ルークの顔色など伺い知ることはなかった。 そして、しばしの追想の後、 「ま、探すっきゃねーだろうなぁ〜」 頭の後ろに手を組んで茶店の天井を見上げる。 「オレがか?」 ガウリイの言葉に思わずルークがそのまま突っ伏し、勢いよく起こす。 「他に誰がいるってんだ!?ああっ?」 「…それもそうだな」 あっさりと認め、ルークは渋々話しを続ける。 「……いいけどな。まずは自分で行動を起こすことが必要だ。もしかしたら……」 「もしかしたら?」 「……いや。なんでもねぇ」 続きを言いかけて、止めた。 それはまだ、わからない。 この男が変化を求めているのかどうかも計り知れないのだから、下手に口を出すよりは黙って見ていた方がいい。 …そっちの方が、傍観者は面白いしな。 人の悪い笑みを浮かべ、ルークはこっそりと胸中でそう呟いた。 「ま、いいか。とにかく会いたいな。一日でも早く」 「へーへーご馳走さん。 ま、聞いた限りじゃ、その女はそんなに遠くには住んでないはずだからな。 気合い入れれば見つかるかもしれねぇな」 さり気なく惚気ている男は果たして自覚があるのか…。 深くは追求しないようにとぱたぱたと手を振ってルークは立ち上がる。 「じゃ、オレは行くぜ」 「ああ、ミリーナに宜しくな」 「ふっ オレとミリーナの愛はれじぇんどになるぜぇぇぇぇ〜〜〜!!!!」 はた迷惑もなんのその。 熱く瞳を輝かせてルークは絶叫と爆風と共に走り去った。 「さぁて……オレも行くか。あいつにまた会うために―――…」 そして、運命の歯車は回り始めた―――― |