現代スレイヤーズ
第五話

芽生えた気持ち





















「なぁ、オレのこと…気持ち悪いとか本当に思わないのか?」

「別に」


事も無げに返す少女。


「心が読めても?」

「そうよ」

「ふーーん」

「何にやにやしてるの?」


自然と顔が緩んでいたの指摘され、手で口元を覆う。


「ちょっとな」

リナは別にどうでもいいかというように、帰りしたくを始める。


「なぁ…」
「今度は何?」

こちらを見ようともせずに尋ねてくる。


「どうしてオレがああなったのか聞かないのか?」
「興味ないわ」


あっけないほど淡泊な答えに彼が少し、ムッとする。

自分がこんなにも彼女に興味を持っているのに、彼女はそうでない。


今まで女どもはオレの気を引こうと賢明にオレを探った。

顔の良さと淡泊な態度がさらなる災いをもたらすのだと、彼の悪友がいつだかそう評価していたが、彼自身では全く身に覚えがなかった。

ただ、無関心で他人も自分もどうでもよかっただけ。

それなのに。


―――気になる。

目の前の小生意気な少女のことが、知りたい。

初めて芽生えた感情は彼にとって信じがたいものでも、理性なんて問題にならない。
まるでガキが初めておもちゃに興味を示すように。
理屈なんてなかった。


それなのに、当の彼女はそういう気が全くない。

少しくらいあってもいいだろうに。




……いや、彼女は無関心ではないのだろう。

現にこうして手当をして、食事を作ってくれたのだから。
あまりにも自然で、だからこそ少し寂しい。

彼女にとっては彼という人間は彼が彼女を思うようには見られてないのだから。


考えを巡らせていると、彼女は何かを言っていた。


「……………から」
「…………」


「ちょっと、聞いてるの?」
「…へ?………何か言ったか?」


「帰るっていったのよ」

すっかり身支度を整えたリナは玄関に向かっていた。


「もうか?」
「もちろん。遅くなると電車なくなるから」


「そうか…」


出て行こうとする彼女をどうすることも出来ない。


考えあぐねいている彼を振り返った彼女は棚の上に乗せられた紙袋を指さし、

「それ、替えの包帯ね。それと、作りすぎた料理がまだ鍋の中に入ってるから。
 食べる時は適当に温めて食べて」

「あ、ああ…」

テキパキと指示をだす彼女に、なんとか相槌を打つと何かを言おうと口を開いたが…
結局、言葉にはならなかった。



「じゃ、お大事にね〜」



途端に、不安感に襲われる。

もしかしたら、彼女とはもう2度と……会えないかもしれない。

そんなのは…

そんなことは、………




―――なんとなく、嫌だ。


漠然とした不安の中で、彼の中に一つの感情が言葉と共に沸き上がった。


   ………で、くれ。



ごそごそと何かをする音。
そして、ドアの開く音。








  いかな、い、でくれ。







そして、

気配が途切れた――――





「いかないでくれ!!」



男は叫んだが、防音の部屋からでは外には聞こえない。
追いかけるにも、傷がどうしようもなく障る。

それでも、ドアの向こうに消えた少女を捜す為、駆け出した。




まだ礼もしてない。
自分の名前すら、教えてない。




マンションの最上階、なかなか来ないエレベータを待つのももどかしくて、
男は自力で階段を駆け降りる。



傷が酷く痛む。
しかも、焦燥感と共に動悸が激しくなる。


それでも、彼は止まらずマンションの外まで来た。






外灯が照らす夜道。





彼女の姿は、もう何処にもなかった。

まるで、彼だけが幻を見ていたように。














芽生えた気持ち・終