現代スレイヤーズ
第二話

類は友を呼ぶ?
















立った青年はあまりに長身で、小柄なリナではほとんど支えることが出来ず、

結局彼は自力で歩くことになった。

連れ添うリナが出来る事といえば、止血代わりのハンカチを押さえ、脚がもつれそうになる彼を支えることだけだった。





外灯に照らされたその顔を見たとき、思わずリナは見とれる。


……悔しいかな、偏屈で凶暴でむかつく兄ちゃんは、結構なハンサム君だった。



「偏屈で凶暴でむかつく兄ちゃんで悪かったな」

むぅ……加えて面白い特技も持っていた。


「こっちはこれのせいで人生大損だ」

「いちいちあたしの心読まないでよ」


非難がましくリナが見上げると、蒼い瞳だった青年が迷惑そうに呻く。



「なら触るな」

「もしかして、自分でコントロールも出来ないの?」


ふふんっとあざ笑うリナに口を紡んだ彼。
どうやら図星らしい。


『「ミヂュクねぇ…」』


多重音声で聞こえてくるリナの声。


心の言葉そのまんま言いやがったな、こいつ。
毒づく彼はリナを見る。

彼も明るい所で見た彼女は初めてなのだが……なんとなく。納得してしまう容姿だった。

顔は可愛い部類に入るだろうが、決して一筋縄にはいかない強気の表情。

ずけずけと言う性格を象徴しているような紅蓮の大きな双眸。

髪も本人の破天荒な性格を表しているのか、所々元気よく跳ねていた。


……全て並べれば、天パーでどんぐり目のちびのガキだ。



「誰がどんぐり目のちびのガキですって?」

剣呑に声で言われ、慌てて小さな少女を見下げれば、こちらを凄絶な瞳で睨んでいた。
どうやらいつの間にか口に出していたらしい。

「ま、我ながら適切な表現だ」

軽く受け流し、道を曲がる。

どうやらこの怪我のせいで好奇の目を受けられるが、近寄ってこようとするものはいないらしい。

人通りのある街路でも誰も触れられないどころか、距離を取るように避けていった。



「…あんたの家、ここから遠い?」

彼女が突然問いかける。


「いいや。歩いて直ぐそこだが…」

「んじゃ、そこで手当しましょ」


あっさりとした物言いに、むしろ男の方が戸惑う。

年端もいかない少女を男の家に連れ込んたとすれば、外聞もよくない。

しかも、見たところ…いや感じたところ、なんの危機感も持ってはいない。

自分とて、こんな年端もいかない少女を襲う気は毛頭ない。

が、だからといって、そのまま聞き入れる訳にはいかなかった。


「いい。オレが自分でする。だから帰れって」

「どうせ病院なんて行く気はないんでしょ?
 あんた背中にも傷があるのにどうやって治療する気?」

…どうりで背中も引きつるような痛みがあるわけだ。
どうでもいいことに納得する。


「………いや、そうじゃなくて…」

ふと自分の言いたいことが相手にさっぱり伝わっていないことに気付く。

「おい、嬢ちゃん…」

「さっきから嬢ちゃん嬢ちゃん言わないでよ。あたしはリナ。
 とにかく、つべこべ言わずにあんたの家に行く、そんで治療する。
 それだけよ。別にお金をふんだくろうなんて思ってないわ」

「いや、だから…」

困ったように頭を掻……こうとしてバランスを崩したところでリナが慌てて支える。



『拾っちゃったものは…なんとなく、見捨てておけないのよ』


今までの憎まれ口がうそのように穏やかな声。

改めてそちらを見れば、ほんの少し頬を染め、慌てて目をそらす少女。
どうやら、照れているらしい。

気の強い少女の意外な一面に、青年の顔が僅かに緩んだ。



「そ、そーゆーことだから。ほら、信号青よ」


いつもなにかをしてもらうのは見返りが必要だった。


たとえば、物の対価には金が。
たとえば欲望のはけ口には女が。


無条件にそう言い切った少女に、彼は興味を持った。

少女の温かい手。
自分を平然と受け止める心の強さ。





―――気に入った。



「しゃーないな。我が家にご招待しますよ。お嬢様」


「うむ。良きに計らえ」


そんなやりとりをしながら、彼はリナを連れて自分のマンションに戻った。








髪の色も、瞳の色も、性別も。体の大きさも、何もかも。

全く類似性がない少女と青年。

共通点ほ探す方がムズカシイと思われた二人だったが。


まるで魂が引き寄せられるかのように。
まるで魂に刻み込まれた記憶が二人を操るように。


二人はお互いの何かに興味を持った。






そうそう、こういうのをなんて言うんだっけかな…?
男は普段使わない記憶の棚をひっくり返して思い出す。

…確か………


「類は……」

『友を呼ぶ…』


詰まった言葉に、続けられた言葉。

独り言で言ったはずなのに、彼女が心を読んだように言う。
しかも、胸中の中で。
驚いて自分を支える小さな彼女を見ると、


「なんとなく、ね」


真っ直ぐ前を見据えながら、ニヤリと不敵な笑みを漏らした。
しばし絶句していた男も、ゆっくりと、久方ぶりに心からの笑みを浮かべた。



「オレの専売特許、取るなよな?」










類は友を呼ぶ・終