横 恋 慕 |
信じらんない信じらんない信じらんなーーーい!!!!!!! あたしは触れた唇をごしごしと擦りながら内心、絶叫していた。 あいつっっ!!なんにもしないとか言ってたくせに…っっ 最後の最後でなんつーことかましてくれるのよっ!!! …うぁ。///// 思い返すと、また顔が勝手に赤面してくる。 そりゃー、キスくらい、初めてってわけじゃないけど…… でもそんなにしたことないし、ましてや彼以外の男となんて… しょぉじき言って、初めてだったりする。 …………ふんっ 二度とあんな男と会うもんか。 ちょこっとでも、イイかなーなんて思った自分に腹が立つ。 大体、また会おう(逢おうじゃないわよ。そこんとこ重要)なんて、この大都会であいつと再会する確率は単純計算1000万分の1よ? あー…でも、あたしの住処まで知られちゃったのよねぇ…。 夜も遅いからと送ると言ってきかないあの男にぺらぺらと住所を教たあたしも迂闊だったのかもしれない。 でも、食事も美味しかったし、カクテルも絶品。夜景も素晴らしかった。 おまけに、お土産つきのぜぇぇんぶ奢り…。 ……………プラスマイナスで差し引くとそう悪い夜じゃなかった。 思いを改めると、あんな風に楽しんだのは久しぶりだった。 しかも、彼以外の男性となんて、これまた初めてで。 最後のアレがなければ最高の夜だったのに…… それもこれもぜぇぇぇぇぇんぶあの男が悪い!!!!!! 一人で百面相をしていると、ケータイバイブがかすかに鳴りだす。 慌てて着信相手を見ると―――― 「はい」 『あ、俺』 ……。うあ。この罪悪感はなんなのよ…。 ほっぽっといた彼も悪いんだかんね。 「何か用?」 『…おいおい〜。そんな怒った声出すなって。仕事なんだから仕方ないだろ?』 「ならもっと早く知らせてくれたっていいじゃない。 あたしがどれだけ待ちぼうけ食らったか、ちゃんと分かってんの?」 『いや、始めは行くつもりだったし。 でも、急に上司から呼び出されて仕事押し付けられちまってよ〜 しかも、退社間際にだぜ?ぜってぇ誰かの悪意だ』 「あによ。あんた、恨まれてるの?」 『ふっ まー俺っていわばエリートだし』 「エリートからはほど遠い端くれの出がらしの平社員でしょーが」 『リナちゃん、ひどい…っ』 「と・も・か・く………ま、今回のことはいいわ」 『うえ!?』 あっさりと引き下がったあたしに、受話器の向こうから驚愕の声が上がる。 そりゃーあたしだって、かなり腹立ったけど……。 今日の夜のことがあるから、あんまり強くも言えない。 『あのリナがそんなこと言うなんて…… ま、まさかお前……俺のこと社会的に抹殺する気が!? ちなみに、給料前で文無しだぞ!!』 「…ほほぅ。そんなに期待してくれてるんじゃあ、裏切るわけにはいかないかしら?」 あたしの剣呑な声に呻く彼。 『滅相もございません申し訳ありません頼むから俺を破産させないで下さい………でも、ほんとにほんとか?』 半信半疑の彼は恐る恐る尋ねてくる。 「―――ただし」 硬い声を響かせ、あたしは静かに続けた。 「もう2度目はないと思いなさい。即、別れてもらうからね?」 『……お、おう』 相手も気おされたように同意し、次回の空き日程を教えてくれた。 「じゃあ、土曜の7時に…」 『いつもの木の下でな』 「…え…っと……それは………ちょっと…」 またあの男に会ってしまうかもしれない。 生々しい感覚が残る唇が、蒼い瞳で射抜かれたあたしの瞳が、大きな手に添えられた皮膚が、どうしようもなく疼きだす。 『なんだ?何か不都合でもあるのか?』 「…や、もう寒いし、外は何かと危険かなぁ〜なんて」 『因縁つけてきた奴らを返り討ちにしたあげく、金品を根こそぎ巻き上げるお前さんがかぁ?』 「う、うるさいわね。じゃあ、いつもの木の下でいいわよ!」 『よし。決まりな』 「……………ちゃんと来なさいよ?」 『ああ。まかせとけ。今度こそ大丈夫だから』 電話を切って放り投げ、深くため息を吐く。 またあのセリフだ。 信憑性に欠けるったらありゃしない。 ぶつぶつ文句をたれて、疲れた体を引きずりながらシャワーを浴びると、髪を拭きつつ身の回りを整理すると、倒れ込むようにベッドに身を沈めた。 枕に顔を埋めて目を閉じると、邂逅するのは過去の出会い。 彼と出会ったのは、あたしがまだ高校生だった頃。 その時、彼は小遣い稼ぎの大学生で家庭教師をしていた。 のくせに、よくもまぁ、大学生になれたものだと関心したほど勉強はできなかった。 …まぁ、今この国では少子化で大学は定員割れを起こしている所もあるし、情報分析すればなんとかなる大学もあるだろうが、彼が在籍していた大学は今のところ中堅だったりする。 まさか裏口…?と勘ぐるあたしに『勘がいいんだ!』と豪語した彼は、それはそれはマークシートのみを得意としていて。 あたしが胡散臭げに出したマークシート式の試験を、問題数だけを確認し、内容に目を通さずしてとりかかった彼。 ものの数分で塗り終えたはずなのに、なぜか、その正解率は6割を超えていて。 思わず『詐欺だーっ』と叫びながら殴り飛ばしたのが、あたしたちの始まりだった。 ちなみに、その大学はマークシート形式の入学試験らしかった。 騙されてる…。絶対筆記にすべきだ。なんて思ったのはいうまでもない。 今思い起こしてみると…。 我ながら、情緒もへったくれもない出会いだったわね〜 もちろん無事進学できたあたしは、家庭教師を卒業しても外でよく会うようになった彼と時間を共にして。 よくよく考えてみれば、告白なんかもされてない。 なんとなく、なーなーで馴れ合って、そのままずるずる付き合ってる。 もちろん、気持ちはちゃんと伴ってるから、そんなこっ恥ずかしい行事なんて、ない方がありがたいんだけど。 思い返してみれば、今日出会ったあの男との方がそれなりの出会い方かもしれない。 昔は、彼以外の男なんて眼中になかった。 彼といられる時間が少なくなって。 彼と過ごせる余裕が取れなくなって。 あたしと彼の距離は徐々にではあるが確実に離れていった。 ―――少なくとも、他人が入り込める隙間が空くほどには。 ごろりと寝返りを打つと、最近やっと見慣れてきた一人暮らしの部屋の天井。 隅には冬に必須アイテムのコタツが置いてある。 その上には、あの男と一緒に買って、中身は冷蔵庫に入れてしまった空のお土産袋がいくつも折り重なっている。 出会ったばかりなのに。 なんでこんなに気になるんだろう。 忘れなきゃ、いけないのに。 少なくとも、彼との関係に何らかの収束をみせるまで。 …やっぱり、誕生日だとを思い出して貰えなかった昨日。 とっくに日付が変わってしまった目覚まし時計を恨めしげに眺める。 明日は1限からあるから…7時っと。 タイマーをセットして、電気を消すとベッドの中に潜り込む。 『また逢おうな♪』 ふん。金輪際会うもんか。 ――――――だから、早く諦めてよね? ■ 続く ■ |