女 神 降 臨
I am waiting for you until you come back to me・・・
・・・Whenever・・・ Wherever・・・ and forever――











時は来た

いざや滅びを迎えん――・・・・


真紅の女神は希望を掲げ

光を取り戻さんが、その為に混沌の歌を紡ぎ出す。


隠されし真実が女神を苛むとも知らず・・・

購いの如く立ち向かわんとす。


しかし未来は無限なるとも、女神の運命は変わらぬ――・・

気高く、誇り高いが故に、混沌にその身を投じ、

優しき女神は大いなる悲しみを背負うであろう・・・


永劫忘れられぬ、血塗られし己が罪を――・・・












「どうしてよ――・・」

あたしの呟きに、ガウリイが眉を顰める。

「どうして――だと?お前だって・・・・いや、お前が一番良く知ってるはずだろ?アレが人間に扱えないことぐらい。暴走は――止められない」

「暴走なんてしないわ。制御する気がないからね。だから、暴走する事はあり得ない。ただ、混沌にあるがまま身を任せるだけ―――」

「ならなおのことダメだ!!」

あたしは、怒気を孕むガウリイに正面切って対峙する。

ここで彼に負ける訳にはいかない。

納得して貰わなければ意味がないから・・・・

あたしは辛抱強く、説得を試みた。


「でも、ダメだろうと良かろうと、後はないのよ?

いいじゃない。失敗したとしても、ほんの少し滅びが早まるだけよ」


「他に―――まだ何か他に方法があるかもしれないだろ?」


怒気は四散し、瞳を不安に揺らめかせながら、訴える。

けれど、あたしはガウリイの願いをあっさりと聞き下げた。


「他の方法を探している暇はないわ。」


ガウリイがあたしを心配してくれるのは分かる。

何度も命を落としかけている禁呪だから、当然よね。

それを目の前で唱えらるのは、きっと彼にとって辛いだろう。

でも、これはあたしじゃないとダメなのよ。お願い、やらせて―――・・・


「リナ・・・・・」

「ガウリイさん・・・・あなたは・・・何を恐れているのですか?」

「―――…」

な・・に? 一瞬――・・・ガウリイの肩が震えた?

フィリアの言葉で、ガウリイの動きが止まる。

「ガウリイさん・・・・貴方は・・・・」

「フィリア!!」

鋭い声がフィリアの声を遮る。

その声は、あたしがガウリイと今まで旅をしてきて、殆ど聞いたことがないような、鋭くて、固い声。

何?

どういう事?


ガウリイとフィリア、双方の蒼い瞳が絡み合う。

怒気。畏怖。悲哀。・・・・・絶望の色。

あたしには読みとれない複雑な感情。

なんか・・・・・蚊帳の外?


「と、とにかく!あたしはやるわよ。最後まで望みを捨てないタチなの。

助かる可能性が1%でもあるなら――やってみる価値はある。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

あたしは、睨み合ったまま動かない2人に、自分の意志を率直に伝え、マントを翻した――・・・・









少女の小さな背中が消え、暫くしたとき。

不意に片方が視線を外した。

それは、男の方。

嘆息するかのように、疲れた声を絞り出す。

「2度目だ。あいつがあの言葉を言ったのは・・・」

「ガウリイさん・・・・」

「ああなっちまったら、もう誰にも止められないんだ。」

「ガウリイさん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガウリイは口を閉ざし、フィリアに視線を戻す。

それを正面から受け止めながら、フィリアが続ける。


「貴方は・・・・世界が滅びることを恐れていませんね。

寧ろ・・・それを望んでいるのですか?」

「死にたいヤツはいないだろ?オレは生きたいよ。」

虚空を見つめ、ぼんやりと言う。


「条件付きで・・・ですか?」

「ど〜ゆ〜意味だ?オレはリナの言うところ、クラゲだそうだからな」

今は空々しく聞こえる。

そんな事を頭の隅で考えながら、フィリアは苦笑を漏らす。

「では、言い方を変えましょう。

『あなたとリナさん同時に』・・・・違いますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

彼は何も言わない。

けれど、その瞳が物語っている。『そうだ』と。

少女の前では決して晒す事のない彼の一面に怯えながらも、フィリアは続ける。

「貴方が恐れているのは、・・・・・・残されること。

 リナさんが再びご自分の命と引き替えに。あの呪文で消えてしまう事―・

 独りだけで。全てを背負ったまま。貴方を残して―――・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・。

知っているのか?リナが『あれ』を唱えて、どうなったのか・・・・・・・・・」

「報告、だけですが・・・・」

「・・・そうか・・・・・」

口の端に笑みを浮かべる。

とても弱々しい笑みで。やるせない、といった表情で。

その表情まま、彼は言葉を紡ぐ。

「アイツは、とんでもないお人好しなんだ。普段はメチャメチャなヤツなんだけどな。肝心な所は・・・・・・・甘いんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

今度はフィリアが口を閉ざす番だった。

ガウリイの独白とも、愚痴ともとれる言葉の羅列が続く。

「まったく・・・・ホント我が儘なんだ・・・・守る方の身にもなれよな・・・・

 前ばかり見て・・・・振り返ることすらしないで走り続けて・・・・・・」

「リナさんを止める気ですか?」

手を固く握り締める。

彼の想いに流され、頷いてしまわないように。と――・・・

しかし、予想に反して彼は優しく微笑んだ。

それでも―――上辺を取り繕っても、心の鏡である瞳は忠実に心情を物語っている。

彼はそれでもなお――自分の意志を殺してもなお、彼は自由な少女の意志を

尊重した。



「言っただろ?あーなっちまったら、誰にも止められないんだ。

 オレだって、例外じゃない」


言い終わると同時に、腰を上げ、フィリアに背を向け歩き出す。

「ガウリイさん?」


彼の背中に訪ねる――と、

「行こう。フィリア・・・・リナが待ってる。

 オレだって―――オレにだって見届ける事は出来るだろ?」

足を止めることも、振り返ることもなく、ガウリイが答えを返した。

「――・・・・はい。」


自分は間違ってはいないはずだ。正しいことをしている。

その筈なのに・・・・・胸が・・・・・・苦しかった。

苦しくて、やるせなくて、そして・・・・切なかった――――・・・・













髪を揺らすのは、滅びの風。

忍び寄る闇は滅びの色。

光が・・・・それと共に、存在全てが、地上から消え失せようとしている。

誰も知らない静かな滅び。

あたしは、静かに滅びを待つ世界に、一人佇んでいた。



「静かね。・・・・・・当たり前だけど。

 けど、寂しすぎる。この世界には合わない・・・」


呟いた言葉ですら、滅んでいく。
軽い気怠さを覚えながら、瞳を閉じる。


思い出した・・・・引き合い、そして消滅――これは相殺に似ている。

いや、現象そのものがそれと全く同じだ。

相殺するには、対極の力を――・・・

この世界と同等にして、対極の『何か』とあたしは今から対峙する・・・・

静かに瞳を開く――そこには、見覚えのある美少年。



「冥王・・・」



『やっぱりね・・・この道を選んだんだ。

リナ=インバース・・・いや、選ばれし希望の女神?』



「歴史なんでしょ?」



『そうだともいえる。けど、違うともいえる。

どちらにしろ君はこの道を選んだ・・・・それは既に歴史だ。』



「違いないわ」



『ねぇ、君は何の為に戦うの?今回は多くの血が流れるよ。』




「あたしにケンカ売った奴らは全員不幸になって貰うわ」



『そうだね。それが最善の割り切り方だ。

ああ・・・・時は満ちた。君は精々足掻いて世界を救うといいよ』




「ホントに嫌味なヤツね。ま、善意に受け取っておくわ」



『そう――・・・じゃぁ、混沌で再び――・・・・』




「―――・・・ええ。」



ドアの開く音がする。

冥王が消えるのを待っていたかのように、彼らが姿を現した。

これも歴史なの?

答えのでない問いを胸中で呟き、振り返る。

そこには、普段のガウリイと、少し遅れてフィリア。

彼女は微笑んでいるけれど、表情はどこかぎこちなく、沈んでいた。

2人の間で何があった事は確かだろう。

けど・・・・・・


「やっと出てきたわね」


何も聞かない。


「ああ。遅くなってスマン」

ガウリイが、いつものように優しく微笑む。


「別に・・・・いいわよ。」


あたしは何も聞かない。


彼が何も言わないなら―――ガウリイがいつも通りに振る舞うなら―――あたしが詮索することじゃない。

あたしだって冥王との会話を言うつもりがないから、お互い様なんだろう。



ガウリイが歩み寄り、あたしを正面から見据える。

「リナ。オレはここにいてもいいだろ?」

彼なりの戦い―――それは見届けること。

辛いわよ。それは。けど――――・・・・

「まぁ。見物料は取らないわ」

なんとなく彼がそう言うのを分かっていたから、悪態を吐きながら承諾した。

「サンキュ。」

彼もあたしの答えをある程度予想していたのか、あたしの髪をくしゃっと撫で微笑む。



ホントは――・・・出来ることなら。逃げて・・・・全て放棄したいほど怖かった。

だからその分、彼の申し出は有り難かった。

気丈に振る舞っていても、取り繕えない部分もある。

そんな部分に彼は誰よりも敏感だった。

―――・・・感謝してるわ。





ガウリイの背に隠れていたフィリアが、一歩前に出る。

「リナさん・・・・・我々神族が不甲斐ないばかりに、またあなたを巻き込んでしまって・・・・本当に申し訳ありません。」

深々と頭を下げる。その義理堅い巫女を励ますように、あたしはわざと軽い口調で言った。

「ま、他人事じゃないしね。
 神族の奴らも今頃東奔西走してる頃じゃない?」

「ええ・・・けれど・・・・・・」

歯切れ悪く言葉を切り、太陽を仰ぐ。

あたしもつられて見上げる―――と、その姿はもう殆ど月に覆い隠され、僅かな光を放つだけになっていた。

月は音もなく太陽を蝕んでいる―――確実に。

もう、残された時間はない。


「間に合わないでしょう――・・・」


「そう―――ね。
 じゃ、いっちょやってみようか。久々の解禁、完全版重破斬を――・・・」







「リナ」

「ん?なによガウリイ。そんな深刻そうな表情(かお)して。」

「帰って・・・・・・・・帰ってくるんだろ?」

「勿論よ。この天才美少女魔道士に不可能はないって。」

「ああ。そうだな。オレはここで待ってるよ」

「仕方ないから、待たせてあげるわ」

「絶対だ。だから、帰ってこい・・・・」

「うん。」

あたしはフィリアに向き直る。彼女は、なんだか、泣きそうな顔をしていた。

「何よ、フィリア。今生の別れみたいな見送り方して・・・」

「すみません・・・リナさん。
 混沌に捕らわれないで。絶対帰ってきて下さい。」

「うん・・・じゃぁ・・・・・行ってくるね」





2人が見守る中、あたしは天に手を伸ばし、混沌の言葉を紡ぎ始めた。










闇よりもなお昏きもの――夜よりもなお深きもの――


混沌の海よ。たゆたいし存在。金色なりし闇の王―――





「リナ・・・・待ってるから――・・・」





我ここに汝に願う。我ここに汝に誓う。


我らが前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに、





「待ってるから――――・・・・絶対。」





我と汝が力もて、


等しく――滅びを与えんことを――――・・・・









無が・・・・混沌が生まれた。

これは人の力によっては決して理解できぬもの。

決して制御できぬもの。

あたしの魂(こころ)に広がる闇をあたしは自らの力で誘(いざな)う

混沌に堕ちて―――



そこからあたしの戦いが始まる――・・・・







「リナ、帰ってこい。ずっと・・・・待ってるから――・・・」