女 神 降 臨 |
黄昏よりも昏き世界よ・・・暁よりも目映き世界よ・・・ 闇と光、相殺と増幅を繰り返し、血塗られし過去を持つ各々が世界よ。 全て、消え去るのだ。 光(希望)が地上から消え去る、その時に。 全て・・・混沌へと還るのだ・・・・ 「あたしは・・・・」 沈黙を破り、ぽつりと呟く。 「あたしには・・・・分からない。」 「そんな!・・・でもっ・・・」 「ごめん――・・・」 フィリアの言葉を遮って、二の句を継げさせずに話を切る。 あたしの頑なな態度に、フィリアは言いかけた言葉を飲み込み、力なく項垂れた。 ―――誰だって掴みかかった望みを失う事は辛い。 神を崇め、生を望む神族なら、尚のこと・・・。 あたしだってそうだ。死にたくない。 でも・・あたしに出来る事など――・・・ 『リナ=インバース・・・君は世界の敵になり、世界は君の敵になる・・・』 ? なに? 今、何か引っかかった・・・・ なに? なんなの!? あたしに出来ること・・・・いや、あたしに"しか"出来ないこと――・・・ 糸口を探るあたしの考えを遮るように、俯いたまま、フィリアがこぼす。 「すいません。取り乱してしまって・・・・。 私たちには、選択の余地など残されていないのかもしれませんね。 無駄な足掻きをしているだけ・・・・。そう、運命に逆らって。 本当は・・・本来ならば、ダーク・スターに飲み込まれて、 或いは、ジャブラニグドゥの降臨で滅ぶべきだったのかもしれません。 滅ぶ機会はいくらでもあったのです・・。 今こうして私たちが存在していることの方が奇跡かのように・・・・。 けれど、運命に逆らったまま生き延びることは不可能。 すべて、あの御方の手中で踊る――・・・。」 独り言なのか、あたしに言ったつもりだったのか、はたまた、彼女自身に言い聞かせたつもりだったのか、それだけを言うと押し黙ってしまった。 あたしは顔を跳ね上げ、俯いたフィリアを見つめる。 な・・・に? 今の・・・・・・・言葉に予言が重なった・・・・? なに? この解けない蟠りは・・・・。 あたしには分かっている理(ことわり)がある――・・・・そんな気がする。 それぞれが沈黙。 重い重い空気の重圧がのしかかり、息苦しいとさえ感じる。 空間に広がるものは―――・・・・安らかな寝息・・・・・・って――・・・・?! 「寝るなぁぁぁぁぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっっ!!!!」 お約束の絶叫とともに、スリッパを一閃。 その相手―――ガウリイは。といえば、そりゃ〜もう危機感も焦燥心もないような安らかな寝顔で、すぴょすぴょと気持ちよさそ〜な寝息を立てている。 あたしはそんなガウリイのどたまに、誠心誠意、渾身の力を込めた一撃をお見舞いしてやったのだ。 「・・んぁ?もう終わったのかぁ〜?」 間延びした声と間抜けな声。 あまつさえ、欠伸などしながら、ガウリイが寝惚け眼を擦る。 お・・・おにょれっっ許すまじっっ ぎぅぅぅぅぅっっっと首を絞め、ガウリイの絞殺をまぢで目論む。 ふっふっふっ世界が滅びる前に、コイツだけはあたしの手で滅ぼすぅぅぅ 「こぉんのぉクラゲぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇっっ!! あんたのせいで『超ドシリアス〜』な雰囲気がぶち壊しじゃない!!!」 「い・・・いぇ、シリアス〜とかそ〜ゆ〜問題では・・・」 フィリアが申し訳なさそうに言ってくるが、無論。無視。 「いやぁ〜オレは頭脳労働人数外だからなぁ。 ムズカシイ話になると・・・つい♪」 「『つい』なんですか?『つい』!?」 フィリアの抗議はまたもや無視。 「首を絞められつつも、爽やかな笑顔で言うなっつーの!! んなこと分かり切ってるんだから!!! せめて聞いてるフリして静かに寝てなさい!」 「ををっその手があったか!」 「い、いえ、それもかなり問題が・・・」 これまた無視。 あたしのひ弱な力で首を絞めても全く堪える様子がないのを見て、力を緩め、解く。 ったく、この体力バカのノーミソタルタルソ〜スは・・・・。 「あ、あのっ この一大事にそもそも寝るとか、雰囲気とか・・・・・・。 いえ、あなた方らしいです。少し、悲観的になりすぎでした。 まだ世界は滅びてませんね。兆候は現れても・・・。 まだこの世界があるんですよね」 弱々しいものであったけれど、確かな光を宿してフィリアが微笑む。 あたしは彼女に向き合い、笑い返しながらちょっとした疑問を投げかけた。 「それなんだけどね。確かに皆、存在が曖昧になってる。 けど、あたしとガウリイ、フィリアだけは普通に存在しているのよ。 兆候の影響は受けてるはずでしょ?どうして?」 それを聞いていた2人・・・・ってガウリイはあたしに耳順って考えるフリをしているだけなんだろう。 ・・・多分。 いくらなんでも悲しすぎるぞ。それは。 突っ込みたい衝動を堪えつつ、あたしは辛抱強くフィリアの答えを待った。 「これは推測でしかないのですが、アストラルサイドとも関連付けると・・こうは考えられませんか?私たちはそもそも竜族です。 あなた方も普通の人間より、はるかに強い意志がありますね。 ですから、自己を支える自我が強いせいで、アストラルサイドと切り離される事を免れている為、滅びの兆候は出にくく存在し続けています。 でも、自己の力が働かない・・・そうですね。例えば寝ている時などは、我々にもその影響が強く現れるのではないのでしょうか?」 思い当たる節は・・・・・・・あった。 そっか。 だから今朝、ガウリイが寝ていたあたしに消えそう云々って言ってたんだ。 でも、今寝ていたガウリイはハッキリと見えてたわよね? それって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、やめた。 考えると、猜疑的になる自分がアホっぽい。 何となく答えが出なくて徒労で終わりそうだし。 問題を戻して・・・・と。それで、何であたしだけなんだろう? 竜の巫女でもなく、他の誰でもなく・・・・・このあたし? 世界に反しているのはあたしだけ? 見えるから敵なの? いや、それをひっくり返せるだけの力があるから敵なんだ。 フィリアは黙りこくったあたしに、青ざめた表情で言い放った。 「ですが、その力によって、あなた方も、世界の終末を見せつけられる事になるかもしれませんよ。人が・・・文明が――・・・そして世界そのものが滅びる様を――・・・」 「上等じゃない。望む所よ。」 強張った表情のフィリアに、胸を張って答えると、彼女もつられるように表情を和らげる。 「強い人ですね・・・・・・あなたは。私なんかよりずっと・・・・」 強い?このあたしが? あたしは強くなんかない。 あたしは決して強い人間じゃない。 『あの時』だって世界を天秤にかけ、たった一人の相棒を選ん――・・・? 『君は世界の敵になる』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・! 答えは・・・・これ、か。 世界を相手に出来るってことは、世界に干渉できる―――外から仕掛ける・・・・・そうか。 あたしは一度この世界から一度離れた。 外と『あれ』と接触したのは、神でも魔王でもない。あたしだけ・・・・・ 『あれ』に触れたあたしだからこそ、全てが見える。全てを委ねられた。 だから―――・・・敵となる。 あの禁呪で。 けどあの禁呪は・・・・・ いや、攻撃手段として制御するんじゃなくて、「あれ」そのものに語りかけるとしたら? 力づくじゃなくて、あるがままに――・・・・ そうか・・・・・。答えは・・・・・出た。 しっかし・・・・・ あたしの人生ってホント、デンジャラスよね。 世界が何回滅びかかった事か・・・・・ ま、もう一回付き合って貰うことにしますか。 「なぁ、フィリア?」 何度目にかなる沈黙を破り、口を開いたのは以外にもガウリイだった。 ここで大ボケな発言しないでよ。今、いいトコなんだから。 あたしの念が伝わったと言うこともないんたろうけど、ガウリイがフィリアに問いかけたものは深い意味を持っていた。 「お前さん。どうしてここに来た?」 「―――・・・・・っ」 コイツ・・・スルドイ所を・・・。 思わず苦笑が漏れる。 「どうしてだ?」 ガウリイが言及すると、フィリアは明らかに狼狽え、こちらを伺う。 何も言わないのは、答えを知っているから。 「それは・・・その・・・・・・・・」 フィリアは決まり悪く言葉を濁すだけ。 あんまり虐めると可哀想かな? 嘆息すると、あたしがフィリアの言葉を受け継いだ。 「それは、予言の女神があたしだと思ったから、でしょ?」 「!――・・リナさん。……―――そうです。ですから、ここに来ました。 しかし、これは私の一存です。女神の称号を有する方――おそらく、 スィーフィードの力を宿した『赤竜の騎士』つまり、リナさんの姉、 ルナ=インバース様が最有力候補です。けれど・・・・・何かが違う。 そんな気がしたんです。」 「巫女の直感?」 「・・・・・・分かりません。」 そうね。今回は姉ちゃんでも・・・・・・ダメ。 スィフィードの力はこの世界内に限る。 外からの干渉に内からでは対応できない。 だから、姉ちゃんでも無理。 外との接点を持つ者以外は・・・あたし以外は・・・。 勘であれなんであれ、フィリアの選択は正しい。 知らされなかったら、あたしはただの目の錯覚と勘違いしたまま、世界は滅んでた。けど、根本的な理由が分からない。どうして世界が突然滅びるの? 最も―――今のあたしじゃ、答えなんて出ない――か。 禁呪を唱える為の理由はいらない。 躊躇っている時間的余裕も、ない。 だから、唱えてから・・・・・決める。 滅びに従うか、闘うかを―――・・・ 「なぁリナ。お前はどうするつもりだ?」 さっすがガウリイ。分かってるじゃない。 あたしは視線をガウリイとフィリアに交互に向ける。 「このまま行けば、必ず、滅びるわ。だったら、ダメで元々、 試してみる価値がある最後の手段ってヤツがあるじゃない?」 「っ――――!? ダメだ!!」 あたしのカルイ口調にガウリイの固い口調が続く。 思わず、あたしとフィリアが息を飲み、ガウリイにそれぞれ目を向ける。 彼の表情は固く強張り、あまつさえ、あたしを睨むように凝視していた。 その態度を維持し、ガウリイはあたしにキッパリと言い放った。 「『あれ』だけは・・・・・だめだ!」 頑なな拒絶で頭越しに否定する。 「ガウリイ・・・・・」 「ガウリイさん・・・・・」 あたしとフィリアの呟きなど無視するかのように、ガウリイは同じ言葉を重複した。 「『あれ』だけは・・・・絶対にダメだ―――・・・」 |