女 神 降 臨
〜予言の成就〜

―――光と闇が終わりを迎える時、リナ=インバース・・・、
君は世界の敵になり、世界は君の敵になる――
これは予想でも、推測でもない。『歴史』だよ
―――




















「ねぇ・・・・ガウリイ?」

「んぁ?」

口いっぱいにナポリタンを詰め込んだガウリイが、顔は下に、目だけをあたしに向ける。

「・・・なんかコレ、味、薄くない?」

鶏肉の唐揚げをフォークでつつきながら尋ねる。

う〜〜ん・・・・薄い、というより、味がしない。

コレに限らず、あたしが口にするモノの全て。

食べても、食べたような気がしない。

しかも・・・・

フォークを置いて、ゴシゴシと目を擦ってみる。


・・・やっぱり治らない。

視界が霞がかっているような気がする。

湯気を立てているスープも、それを乗せているテーブルも、ウェイターも

・・・見えるモノ全てが。

あれ?

でも、ガウリイはハッキリと見える?

なんで・・・・


「どうした?やっぱりどっか悪いのか?」

またガウリイの過保護が始まるが、それどころではない。

過去を引き出して、頭を巡らせる。

が、思い当たることは何もない。


「大丈夫か?」


ん〜〜・・と、適当に生返事を返していると、ガウリイが食べ物を飲み込んで席を立ち、向かいに座るあたしの所に来る。

何?

視線だけでガウリイに問いかける。

それには答えず、ズイっと顔を近づけたかと思うと、あたしの前髪をサラリと掻きあげ、あたしの額にガウリイのそれをコツン。

「ちっ・・・ちょっとっ!!」


あたしの目の前には瞳を閉じたガウリイの端正な顔。

体温が急上昇していくのが自分でも分かる。


「・・・・熱はないな」


そのままの体制で蒼穹の瞳が開かれるのと同時に、あたしの頭が働きだして、力いっぱいにガウリイを押し返す。

「なっなにするのよっ!!」

心臓がバクバクいってる。

ええぃっ静まれ!

コイツの至近距離での声や瞳はホント、心臓に悪い。

対したガウリイはいつものクラゲぶりで、「別に、熱を計っただけだろ?」
と、デリカシーの欠片もない返事を返してくる。

「乙女の柔肌に気安く触るんじゃないのっ・・・って、それより、ガウリイ、

なんかヘンじゃない?」

強引に話題を逸らす。

「・・・何が?」

嘆息しながら、あたしの話に乗ってきてくれるガウリイ。

「何かって・・・・・・その・・・・」

言葉を濁してしまう。

ハッキリと言え、っていうのは難しい。

けど、違和感がある。

幻とか、蜃気楼の中にいる・・・・そんな感じがしっくりくるかもしれない。

霧が掛かってて、存在全てが曖昧になってるみたい。


あたしが返事に窮していると、ガウリイがため息を吐く。

そして、さっきより密着したかと思うと、いきなりの浮遊感――――

「うえ?うええええ????」


こ・・・この体制は・・・

「ちょっとぉぉぉぉぉ降ろせぇぇぇぇっっっ」

その場で軽々と抱き上げられてしまったあたしは、ガウリイの腕の中でめいっぱい暴れる。


「こら、暴れるな。今日の出発は延期だ。ゆっくり休め」

暴れても、大して苦もなく、二階の部屋へと歩き出す。

「平気よっ 一人で歩けるわ!」

ぐぐぐぐっっと両手で押し返すが、放してくれない。

心配してくれているんだろーけど、ここまでする必要が何処にあるのよ!!

なんで『お姫様だっこ』なんかするのよぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ


そんなあたし達のやりとりを眺めていたのだろう。周りの客の端々から、囁く声が聞こえてくる。

が、エルフ並のあたしの耳が完全傍受する。

「朝からお盛んなこと・・・・」

どーゆー意味よっ

「昔を思い出すのぉ〜〜〜」

勝手に思い出せっっ

「あの男の顔ならもっといい女を捕まえられるのにな」

ムカっっ

「蓼食う虫も好き好きっていうだろ?それに、あーゆーのが夜はスゴイんだぜ?」

好き勝手な事いってんじゃないわよ〜〜〜〜〜っっ

ふっふっふっふっふっふっ いー度胸じゃない・・・

「お、おい?リナ?」

ガウリイの耳にもそれが届いていたんだろう。恐る恐ると声を掛けてくる。

あたしは答えない。・・・呪文の詠唱中で答えられないのだ。

そして、あたしの呪文が完成。

くわっと顔を上げ、死の宣告を下す!


「ぜぇぇんぶまとめて消し炭にしてやるぅぅぅぅぅ!!!!!」

「をわっリナ!!早まるなっっ」

予備動作なしで火炎球を手に灯し、投げつけようとするあたしに寸での所で邪魔に入ってくるガウリイ。

「放せっ降ろせぇぇやらせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ」

「そこっ逃げるんじゃない!!逃げても追っかけてブチのめすわよぉぉっっ
 今ここで、死の恐怖を味わうのと、後で、味わうの、どっちがいい!!」

「どっちもいやだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

ええいっ贅沢モノめっっ


くすくす・・・

この緊迫した状況であたし達の後ろから、鈴の音のような微笑が漏れる。


「お二人とも、相変わらずですね。」

え?

取り敢えず、何処でもいいから投げ付けてやろうと思ったあたしは、聞き覚えのある声がして、抱き抱えられたままの体制で振り返る。

ガウリイの肩越しから見えるその人は・・・・・


「お久しぶりですね。リナさん。ガウリイさん。」

「え・・・あんた・・・フィリア・・・!?」

そう、それは、元火竜王の巫女、フィリアの姿だった―――











「で、一体どうしたって言うのよ」

フィリアが入れてくれた紅茶をこくり。

ん〜〜〜・・・いい香♪

ここは、町はずれの小高い丘にあった無人の小屋。

え?なんでこんなトコに居るのかって?

あの後、ちょっと暴れすぎて、町の役人が雪崩れ込んできちゃったもんだから、避難してきたのよ。

全く、あの程度の事で……

あたしの周りでは日常茶飯事よ?

ま、敢えて問題点を上げれば、あたしの日常と、世間一般の日常がほんのちょっぴりズレてるってことかな。

ともかく、んなゴタゴタに巻き込まれるのが嫌で、とっとと町を後にして、

ここに落ち着いたってわけよ。


「なぁ、リナ」

つんつん、とあたしのショルダーガードをつついてきたのは、移動中も珍しく思案気な顔をしていたガウリイ。

「何よ?」

なーんか、いや〜な予感・・・・

「あのねーちゃんって・・・」

彼が指を指したのは、勿論、あたし達の向かいで優雅に紅茶を飲んでいる美しい火竜王の巫女、フィリア。

い〜〜やな予感が的中しそうなので、ガウリイに言われる前に釘を刺す。

「知らない、とか、忘れた、とか言ったらぶっ飛ばぁす!」

つう・・・っと頬を流れていく一筋の汗。

やっぱそーゆーつもりだったんかい!ったくも〜〜〜っ

「フィリアよフィリア!忘れちゃったの!!」

「う〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・」

唸るガウリイ。ホントクラゲっっ

あたしは辛抱強く説明してやる。

「ほらっ事ある毎にバカでっかい棍棒振り回して、ゼロスにおちょくられた

挙げ句、毎度毎度破壊活動に勤しんでたバカでっかいトカゲよ!!」

「ををっ思い出したぞっあの尻尾のねーちゃんか!?」

やっと思い出したらしく、満面の笑みで、ぽんっと手を叩く。

「ちょっ、リナさんその身も蓋もない不愉快な説明、かつ、

あの生ゴミ魔族の名前を出さないでください〜〜〜っ

しかも、ガウリイさんも変な思い出し方しないで下さい!」

フィリアが抗議してくるが、無視。


う〜ん・・・我ながらいい自己紹介だと思ったんだけどな〜


また紅茶をこくりっと喉に流し込む。


「で、今や骨董屋さんの女主人があたしに何のよう?

あ、壺は間に合ってるわよ」


「・・・・・別に、押し売りに来た訳ではありません。…また世界が滅びの道を歩み出したのです。」

はぁ・・・・・

こっそりと溜息。

「アンタが来るくらいだもんね。んなことだろーと思ったわよ。
 また『滅びの神託〜』みたいなのが下ったワケ?」

「・・・・はい。今回の神託は明瞭簡単です。世界の消滅を告げる内容。そして――予言めいた謎の神託。ただ、それだけです」

なによその、ムッチャ気になるような言い方。

しかし、フィリアは内容を語る気はないようだ。

微笑んではいるが、その顔は青ざめ、諦めの色が濃い。

あたしはそのことを追求しようとはせず、別の疑問を投げかけることにした。

「ねぇ・・・フィリア?」

「はい」

「なんでそんなに冷静にしていられるの?」

当然の疑問。

どうしてそれを阻止しないの?

前は、何だかんだと言いながらあたし達を急き立てたのに。

言われたフィリアは複雑そうな表情を浮かべる。


「ねぇ、リナさん。今日は何の日か知っていますか?」


あたしの問いには答えず、話題転換をする。

それも、触れられたくはないって事?

仕方なしにため息を吐いて、知っている知識を吐き出す。

「・・・・・今日は108年に一度の皆既日食の日でしょ?」

そう。今日は太陽とあたし達が住んでいるこの星との周期道上に月が割り込んでくる現象が起こる日。

108年に一度の今日、月が太陽に取って代わる日なのだ。

普通の皆既日食は太陽が欠ける程度のモノがほとんどだけど、今回はトクベツ。

全てが覆い隠される・・・らしい。

一生に一度しか(魔族とか、神族とかは除くわよ)見られないモノだし、

かく言うあたしも、結構楽しみだったりする。


「で、それがどーしたって・・・・まさか・・・」

それがタイムリミットなんていうお約束なお話じゃ・・・・・・。

「神託では、太陽が地上から消えたとき―――それが滅びの時なのです。」


―――・・・・そーゆー話だった。

ったく、・・・前もって言っときなさいよ!

・・・・・・・・ってあれ? そーすると・・・・・

「じゃ、人とか町とかが薄れて見えるのはそのせい?もう滅びは始まっているの?」

最悪のスルドイ直感に答えたのは、青ざめたフィリアの驚愕だった。

「リナさんは・・・・・見えるのですか!?それが!?」

あまりの迫力に身を引きながらも、頷く。

「え・・・・う、うん。この蜃気楼の中に居るみたいな感じのことでしょ?」

「分かりません」

え?

「どーゆーこと?」

「それは、リナさんしか感じていないのでしょう。少なくとも、私は感じられません。ただ、アストラルサイドからの干渉力が削がれています。私が関知できるのは、その程度です。」

あたしだけ?

なんで?

どうして?

フィリアは踏ん切りがついたのか、あたしを真っ直ぐに見つめ返してきた。

「リナさん。貴方に神託の一部をお教えしましょう。

今回、唯一謎が残った予言の神託を――――



光と闇が終わりを迎えし時――


女神は世界の敵になり、世界は女神の敵になる・・・


これ即ち『歴史』なり―――・・・



故に、全ては女神の手中にある。


刹那にして永遠の契約の名の下に―――・・・・」




―――――!?

それって・・・・・・


「何か、思い当たる節はありませんか?何でもいいんです。
 こんな予言めいた神託は初めてのことなんです。
 何かあるなら・・・・お願いです。リナさん・・・助けてください・・・っ」

初めて焦りだした巫女。

彼女は、攻めるように、縋るようにあたしに尋ねる。

多分、それは希望が出てきたから。

でも、あたしは彼女の請う声は聞こえない。

あたしの心(なか)で響くのは、先ほど、淡々と神託を語った彼女の声と、今朝夢で聞いた混沌に沈みし冥王の声――




光と闇が終わりを迎える時、リナ=インバース・・・、


君は世界の敵になり、世界は君の敵になる――


これは予想でも、推測でもない。


『歴史』だよ―――





あたしが敵? それが宿命?

それが『歴史』――――?

ど・・・・ゆー・・こ・・・と?