夜と朝の狭間で


























――――小さな悲鳴、震え強張る体。



それでも、初めて触れる柔らかい肌をまさぐるのを止められないオレ。

リナに夢中になっていたオレが、いつの間にか後ろに居た人間に襟首を捕まれ引きはがされる。



「…っ!」

邪魔をした人物を確認するのと同時に、頬に硬い一撃。
一瞬視界が暗くなるが、床に叩きつけられると意識が覚醒する。


それが殴られたことだと理解するには、口の端が切れ、口内に鉄の味が広がってきてからだった。



リナを助け起こす人物は背の高い、金髪の男。


「クソ親父…っ」
「しゃ、社長!?」

「卒業祝だからと帰ってこいと言ったのは、リナ。お前だったが…。
 随分と豪勢な前祝いだな」

「ち、違います。これは不慮の事故で―――」

「ほう、事故で息子が義理の母親を強姦するのか?
 この出来損ないを上手くコントロールしてくれとは言ったが、リナよ。
 何も体を差し出してまで手懐けろとは言ってなかったはずだが?」

「うるせぇ、リナを侮辱するな!」

吠えて口の端に流れた血を拭い、立ち上がるオレに皮肉な視線を向ける男。
卑下する見方は昔のまま、反吐が出る。



「お前も死んだ母親に似てよほど人のモノを盗るのが好きなようだな?」


「…クソっ親父が…っ!リナから離れろ!!」


その言葉に何かを感じ取ったのか、親父はリナとオレを交互に目を走らせ、面白そうに揶揄する。


「リナよ、何も惚れられてやる必要までなかったのではないか?
 まぁ、息子の審美眼は悪くないがな」

「社長!! わたしはガウリイの母親です!!」

「そう――だったな。それで?
 母親代わりの人間に手を出す愚か者よ。お前の個人的な趣味については口を挟むつもりはないが、世間はそうもいかない。これは―――私の妻なのだよ」

みせつけるようにリナを抱き寄る。
―――リナも拒絶しない。


なんでだ?
なんで…オレじゃいけない?


「リナを使い捨ての道具としか思ってないヤツが……っ
 心にもないことを口にするなっ!!」

「ガウリイよ―――それは違う。これは私のモノだ。
 彼女ほど優秀で忠実な部下を見下して貰いたくないな」

「リナ、そんなヤツの下にいちゃいけない。分かるだろ!?来い、リナ!」

「駄目!駄目なのっ!!」

流されまいとするリナは頑なに首を横に振り続ける。

「あたしが居ちゃ、あんたの為にはならない」
「なる!今までだってリナの為に生きてきた。これからだって――」

「それじゃ駄目なの!!きっとあたしはガウリイを駄目にする」

「そうだ。先の見えない愚かな息子よ。たった一人の人間に人生を捧げ固執するのは、決して賢い生き方とは言えない」

「クソ親父は黙ってろ!!リナ、こっちに来い―――っ」


リナの瞳に、一瞬迷いが走った。
自分に伸ばされた手を凝視して、泣きそうな顔をする。
「がう…り……」

「ガウリイよ、これは私の女なのだよ。お前には、過ぎた女だ」

「黙れと言っただろうが!!!」







「あんたの…言うとおりだね…………」


「―――リナ…?」







「あたしたち……こんな風に出会わなければ良かった――――」


「リナ!?」

遠ざかるリナ。
追いかけようとしても、足が動かない。
親父が嘲笑うかのような目つきでオレを見ていた。



「リナーーーー!!!」



どんなに手を伸ばしても、決して届かない彼女。

何のためにオレたちは出会った?
どうしてオレはリナを守れない?


なんで……なんで!!なんでだーーーーーー!!!!!!!!!



喉が潰れたのかもしれない。
慟哭にも似た叫びは、声にならなかった。


それでも、オレは肺を突き破るぐらい激しく、叫び続けた―――――


















―――――なら、どうすればオレたち、幸せになれた?―――――















<続く>