夜と朝の狭間で

























「……っ!!!!!」



見開かれる瞳。

詰まった喉の奥で、何かが消えていく感覚―――


いつの間にか天井に伸ばした腕は、頭に残っている記憶の断片のものよりずっと太く、筋肉がついていた。

そこは夜明け色の独特な蒼に包まれた部屋。
静けさの中には、微かな鳥の鳴き声が嘲るように耳をくすぐっていた。


伸ばした手の先には、見覚えのない天井の染み。
そしてじんわりと冬の寒さが染み渡る剥き出しの素肌。





強張った全身が滑稽なほど似合わない、静寂の夜明け。






朧気に覚えている出来事は、今の自分で理解するには途方もなく難しく。
曖昧な出来事は次第に薄れていく。














息を詰めたオレはぎこちなく辺りを見渡し――ふと隣にいる存在に気付く。


青白いとさえ思える素肌を惜しげもなく晒し、ぴたりと寄り添うのは、小柄な女性。
栗色の髪が頬に掛かって、どことなく扇情的な寝顔。

そっと外気に触れる素肌を包む隠すように抱き締めると、小さく身じろぎして、再びすうすうと安らかな寝息を立てる。



「…リナ」


それは自分が覚えているよりも低い声。
包み込んだ少女は、より小さく感じる。


それでも。
彼女は昨日の彼女のままで、自分も昨日のまま。
なにも変わってはいない。


リナは自分と共に数年来、生き延びた相棒。
そして今となっては、二人の関係にほんの少し別の意味合いを持った。


オレは、自分が命を賭けて護り抜くと勝手に決めた女性を愛し、
彼女もまた、そんな自分を受け入れてくれた。



   愛し。

     愛される。



目が覚めて、再びその新鮮な幸せを噛み締めるひととき。
夢が醒めて、改めてその奇跡のような現実を実感する時。


「おかしな夢見たなぁ…」



独り愚痴ると、リナの柔らかな髪を梳きその感触を指に絡める。
そして起こさないようそっと、リナの細く小さな左手を取る。

そこには、美しい銀色の輝を放つリング。
自分の手にも同じ指輪が嵌っている。

それは彼女と、将来結ばれる誓いをした証。
確固たる誓い。


そして素肌を触れ合わせる自分たち。
分け合う熱は何より心地よくて、安らげるのに……


こんなに近いはずなのに、胸の奥深くから、オレたちの世界を隔てた隙間から、不安が津波のように押し寄せてくる。

夢から覚めたのか、それとも…夢を見続けているのか…




「う〜にゃ〜〜。がうり〜 しゃみゅい……」

間の抜けた声に我に返ると、
先ほどはだけたシーツから冷たい空気が肌に触れるのか、
むにゃむにゃと寝ぼけ眼を擦ってリナがオレに擦り寄ってくる。

「リナ」

「…ぅ…にゅ……?」

「リナ、オレのこと、好きか?」

「………う…みゅ〜…あったかいから、好きぃ〜〜」

いや。そうじゃなくてな。

「オレのこと、愛してるか?ちゃんとオレのことだけ想ってるか?」

「う〜〜りゅ〜〜……………………ないしょ〜………」

ガクッと項垂れる。
もう一度リナを見たときには、彼女は再び寝息をたてて、微かに幸せそうな笑みを浮かべていた。

いや……。
寝ぼけてまで恥ずかしがらなくてもいいだろーが…。

ちょっと物足りない寂しさ。
軽くリナの頬に口づけすると、うりゅうりゅと何かを呟いていた。
満ち足りた寝顔。

リナの寝顔。
リナの体温。
リナの…笑顔。

全て全て、オレだけに許された特権。
全身全霊で求めた女から愛された特権。
惚れた女を堂々と愛し、さらけ出せる特権。


今が現実であることを示すように、ほんの少しつよくリナの体を抱き締めた。

…もしこれが夢なら、夢でもいい。
少なくとも、オレの傍にオレだけのリナがいれば。
二度と覚めない夢でいい。

彼女に対してだけは貪欲な自分と、それに戸惑いながらも、手探りでその感情に応えてくれる彼女が居れば十分。


条件が満たされているのなら、何処でもいい。
だから、今は…


「……最高に…幸せ、だな…」


急速に抜け落ちていく記憶の中で。
一番大切なものが欠けていた世界の記憶。

そんなもの、オレはいらない。
そんな世界、オレは認めない。
そんなリナを、オレは許さない。

寒気がするほど排他的な考えであったとしても、これがオレという人間。
そんな執着と愛憎に暴走するオレを巧みに交わし、焦らす彼女。

全てが満たされてるはずなのに。

ここまで動揺する自分がどことなく情けなくて。
それでも、今この瞬間には漠然とした不安があって。



想いを形にして、
確実に所有して、
彼女にも気付かれないように、自分以外の者から周到に囲って、

完璧に手に入れたと思ったはずだったのに―――――





自分は確かに少女の婚約者で。
彼女は確かに自分の婚約者で。


今日もまた、いつもの朝が訪れようとしているのに――――







リナはオレと出会って、満足しているか?

リナは今幸せか?

………。






――――よし、決めた!

そうとなったら確証を抱くまで、しばし彼女に付き合って貰おう。
不安の芽は枯れるまで彼女に愛して貰おう。

いつも旅の主導権を握る彼女の承諾も得ずに、既に今日の旅は延長することを決め、オレは再び彼女の傍らで深い眠りに就いた―――
















邂逅するように駆け巡る記憶。

宛のない旅で。
ある日偶然であった二人。
気まぐれで一緒に行動して、生死を賭けた戦いに赴いた。

そして、今も生き延びている自分たち。

それが今の自分にある記憶だというのに。





混沌とした、夢と現実の狭間で。

オレはもう一つのリアルを体験した。










「旅をして、あの日リナに出会って。
 オレがお前より年上で、リナはまだ一人で、リナがオレ好みのイイ女で。
 とにかく、今があって良かったよ」






今こうしていることが出来る、世界の創造者に感謝を。

赤の龍神か、運命の女神か、あのパツキンねぇちゃんかは知らないが。

こうして二人で生きている事を。




なによりも、隣で眠る愛しい彼女に心から感謝を―――――




      ―――オレを愛してくれて、ありがとう。―――










朝と夜が交わって。

せめぎ合う刹那の蒼。

混じり合い、打ち消し合って。



そして、今日もまた光が世界に満ちる―――――










<終わり>


そして恒例のあとがき。

11111Hitリクエスト小説『少年ガウ&リナ入り』
…………出来上がってみれば、現代物パラレル(もどき)逆年齢差!?
はぅぅぅ………っっ何かが、…何かが激しく違う!?

しかも、夢オチ!?
―――――さくさくさくさくさく。―――――さくさくさくさくさく。―――――ぴょこん。――――――――かけかけかけかけかけかけかけ。。。。。

 (飛鳥、墓穴を掘って埋まります。探さないで下さい――― 終。)


…はぅ??(ポコ)

ああああ…例えるなら、砂糖の入ってないチョコレートに塩の入ったホイップクリームをたっぷりかけたチョコパフェのよーなガッカリ度!?(洒落にならぬ)

期待はずれにも甚だしい(というか、どうしてこんな話しになったんだ!?、自分)
ブツが仕上がりましたが、やっぱり最後はハッピー(?)です(をひっ)

全ては曖昧な夢の出来事。
タイトルも、風邪引きガウ君の時にも伏線が張ってあったのですっ!(←確信犯)
アレは、現実(最終話)のガウ君の夢心地の中でのセリフだったのです。
レム睡眠とノンレム睡眠の狭間。ぷらす、
タイトルは伊達じゃなぁ〜い!ここに来てようやくタイトルの意味が晴れて明かせるかと!
…とどのつまり、『夜と朝の狭間で(垣間見た夢のお話)』
ふ…相変わらず安直ですな。

なんかガウリイの知能がハイグレードですが、あくまでアレは夢♪
…かもしれませんし。
ホントにパラレル前世の記憶が舞い込んできたのかも知れません〜。
くぅ、これぞパラレル!(だからなんぢゃいっ)

というか、「少年時代のガウ」前半部分しかないし、すっごく急成長してる……(滝汗)
うううう、所詮、飛鳥でした。
お粗末様です〜〜〜(土下座)



それでも、たっぷりと愛は込めてあります!!!
…そりゃーもうvv
じっくりと寝かせて、芳醇な香りv間違いなしですわっ!(所要時間2年/爆死)

一風変わったブツに仕上がってしまいましたが、それでも読んで下さる方が少しでも楽しんで下さったのなら、嬉しさの極みです♪♪♪

最後になりましたが、
ここまでお付き合い下さいましたこと、心より篤く篤く御礼申し上げます。m(_ _)m