片 翼 の 天 使


双翼の天使・・・永遠に・・・
〜最終章〜


















「んっ・・・」



少し窮屈な感じを覚えて身じろぎする。
と、すぐに引き戻されて心地よい、温かな熱を感じる。


・・・・・・トクンッ・・・・・トクンッ・・・・・

あたしの耳に届く規則正しい鼓動。
自分のモノとは別の、誰かのモノ。
優しく包み込まれているような気がして、すごく安心する。
ここまで気を許せるのは、アイツと別れた日以来のこと。


アイツ・・・どうしてるかな・・・。

会いたくて会いたくて狂いそうだったのに・・・
なんだか・・・今は全てが満たされてる気がする。
まるでアイツがあたしの傍にいるみたい・・・・。

自分の全てを委ねて微睡む。

全て霞がかった過去・・・今さえあればいい、そんなことさえ思い起こさせる。
でも、囚われてはいけない。
あたしはただの脆い女じゃない。リナ=インバースなのだから。

だから・・・・
そろそろ・・・起きなきゃ・・・ね。

十分に満喫してから、ゆっくりと瞳を開く。

そこには・・・・・・・
安らかに眠る彼の・・・アイツの・・・・ガウリイの顔。

幸せそうな寝顔ですぴょすぴょと寝息を立てている。
手も足も、長い金髪さえもあたしに絡みついて束縛を施している。
緩く優しく包み込んでくれる。

・・・・温かくて気持ちいい・・・・・・いや、観点はそこじゃないわね。

なんで?どーして??
一体全体どうして・・・ガウリイが隣で眠ってるのぉ???
ぼーーーーっとした頭で考えを巡らす。


・・あ・・・・・・・・そっか。

漸く合点がいく。
昨日、ガウリイにとっ捕まって・・・・それで・・・その・・・キ・・キス・・むにゃむにゃ
う゛う゛・・・思い出しちゃった。
端から見たら、かなり挙動不審な行動をとってる自分に気付き、慌てて咳払いで誤魔化す。
ちょっぴり顔が火照ったままだけどさ・・・・・・

そっか・・・・・あのまま、眠っちゃったんだっけ。

温かい。
ガウリイの熱があたしに注ぎ込まれてくる。

うみゅ・・・・ほんとにあったかい。

けど・・・・・・・・・・・・・・この上なく恥ずかしいっ(////////)
起こすのは・・・ガウリイに悪いわよね。

そっと・・・そっと・・・・ね。

「んっしょ。重いわねぇ」

それでもどうにかガウリイの腕を解いて、起き上がろうと藻掻く。
なんとか退かして、さぁ、起きよう!と思った矢先、もの凄い力で元の居場所、ガウリイの腕の中に引き戻される。

いたた・・・・・もうっ なんなのよ!

勿論、誰がやったのかは分かる。
ガウリイしかいない。
ここにはあたしとガウリイしかいないんだからそれは当然。
非難がましい視線をガウリイに向ければ、彼は険しい表情で、眉間にしわを寄せ、

「ぃくな・・・い・・・かな・・・い・・でくれ・・っ」

ぎゅぅぅぅぅぅっと抱き締めてくる。
ぐ・・・・ぐるじぃ・・・・

「こっこらぁぁっガウリイっあたしを殺す気・・・・・・・・・・・・・・って・・・アレ?」

寝・・・てる?
起きてない・・・・・・・・・・・・わよね・・・コレ・・・。
ってことは・・今の行動は無意識?
あの時と同じように?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そっか。
また約束破っちゃうトコロだったね。

起きるまでここにいて。
起きたら、アンタに『おはよう』って挨拶しなくちゃね。

もう二度と、アンタを追いつめたりしないように・・
もう二度と、アンタから安らぎを奪わないように・・
もう二度と・・・あんな絶望の瞳をさせないように・・
あたしはここに居なきゃね。

動ける範囲で体制を楽にして、夢見心地で聞いていた彼の鼓動に耳を澄ます。
あたしは・・いつか・・そう遠くない未来にこの鼓動を止めてしまうかもしれない。
けど、今を失いたくない。未来を失いたくない。
そして・・・・自分を失いたくない。

それが彼も同じ思いなら・・・・
何もかも、一切合切全部ひっくるめて諦めたくない。

あたしの想いも、コイツの命も。
誰にも渡さないんだから。
アンタこそ覚悟しときなさいよ?
一生離れないで、苦労させてやるんだから。

いつの間にか安らかな寝顔に戻っている彼の整った鼻をつんつんとつつく。
あたしのお供はアンタしかいないんだからね。ガウリイ・・・・・




やがて、ゆっくりと彼の蒼い瞳が開かれる。
優しく包み込むようで・・・・・・それでいて、あたしの体を熱くさせる瞳。


「おはよう。リナ。」

「おはよう。ガウリイ。」






そして、あたし達の朝の始まりは、慣れた挨拶と慣れないキスから始まった・・・















「ほぇ〜・・賑やかな町ねぇ」

あたし達は今、目的地だった国境の町にいる。
あの後、直ぐに山を越えて昼前にここに着いたのだ。

どうやらこの町は商業が盛んなようで、今日は運良く市が開かれる日らしく、その活気に輪を掛けているようだった。
あたし達もそのお祭り騒ぎに乗じようと、あたしとガウリイはぶらぶらと露店を冷やかしながら歩いている。


「あ! ・・・リナ。ちょっとここで待っててくれるか?」

先程から忙しくきょろきょろと辺りを見回す素振りを見せていたガウリイは、お眼鏡のものが見つかったのか、唐突に足を止め、あたしにそう問いかけてきた。
今の今まであたしの隣にベッタリだったガウリイのイキナリの別行動に少々訝しがりながらも頷く。

「別に、いいけど・・?」

なにか欲しいものでも?・・・と続けて理由を問おうとする前に、ガウリイがあたしの頭をわしわしと撫でて、にっこり。

「じゃ、直ぐに戻ってくるから・・・・・・どっかいったりするなよ」

耳にタコができそうなそのセリフを聞いて、あたしは思わず理由を問いかける気力もなくなる。
はぁ・・・・・これで8回目よぉ・・。

「はいはい。わーってるっ」

投げやりにパタパタと手を振って返事を返す。
ったく・・・・・・ガウリイのヤツ、二度もあたしに逃げられたのが堪えたのか、
何をやるにしても、最後に『一人でどっか行くな』『いなくなるな』が付いてくる。
これからもずっとこの調子だったりしないでしょうね・・・

先に一抹の不安を抱えながらも・・・・・・・・・ちょこーっとだけ嬉しかったりする。
あたしも、相当重傷よね。
それもこれもガウリイのせい。・・・・・・責任、取りなさいよ?


器用に人混みを掻き分け、あたしの視界から消えていく、その背中を呆れ顔で見送りながらこっそり溜息を吐く。
理由は簡単。
視界から消えるまでにガウリイが数歩進むそのたびに、あたしを振り返って、存在を確かめていったからだ。

まったく・・・どっちが保護者か分かったもんじゃ・・・・・・・







「おーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっ」



ぴき。



・・・・・・・・い、今の高笑いは・・・・・・

頬をぴくぴくと引きつらせ、ゆっくりと後ろを振り返れば・・・・・・・・。

思わず現実逃避的にソラを見上げる。

ああ・・・・いい天気・・・空はこんなに澄んでいるのに・・・・
あたしの周りは集中豪雨、時々雷雨&雹って感じだわ。

勇気を振り絞って視線を戻す。
その周辺だけが人が退いてる。
当然だろう。人間、厄介なモノには関わらない方が長生きできるというものだ。

あたしだって出来ることならそーしたい。
けれど、あたしの願いも虚しく、それは迷わずびしっっとあたしを指さした。

一般ピープルがそれに合わせて、避けていく。


そう。それは言わずと知れた・・・・・・・
自爆してブッ飛んでった筈の白蛇のナーガ・・・

「なにやってんのよ・・・・アンタ・・・・」

額に手を当てて、嫌悪感を滲ませた声を響かせる。
それとは対照的にナーガは、必要以上にデカイ胸を張り、あたしを指差した手を腰に当てて高笑いを響かせながら不敵な笑みを浮かべる。

「ふっ、愚問ねっリナ!あの暴風で吹っ飛ばされてこの町の風見鶏に偶然引っかかった所を町の子供に発見されたのよ!!」

「・・・・・・・そ。・・・良かったじゃない・・・・」

「ふふんっおまけに投石の手厚い歓迎まで受けちゃったわ。これもあたしの人徳ね。」

それって、ナーガをカラスかなんかと勘違いして、追い払おうとしたんじゃ・・・

「さ、リナ!いろいろなプロセスを経て、無事こーして町に着いたことだし、わたしに宿泊まり放題&飲食し放題を10年ほど提供して貰うわよ!」

しかもなんか・・・脚色されてるし・・・・
だぁぁぁっっ付き合いきれるか!!・・・・・こーなったらっ
『ぶっ飛ばして有耶無耶にしちゃうよ作戦』を実行するまで!!

「ををををををっっ何あれ!?ナーガ!!上よ上!!!!」
「ふっ何をするかと思えば・・・・・そんな子供だましに・・・」
「ををををぉぉっっナーガ!見て!!空から金貨が降ってくるわよ!!」
「え!ホント!?」

をぃ・・・2秒前のセリフは一体何処に行った・・・・・。

今時、5歳の子供でもかかんないようなウソに見事に引っかかったナーガは頻りに上を見上げ、目を凝らす。
ナーガ・・・・・そこまで堕ちた・・・・いや、分かってたけどさ。

「ちょっと・・・・なんにもないんじゃ・・」
「もっと上の方よ。見てきてね♪ボム・ディ・ウィン!!!」

流石に不審に思ったのか、あたしにそう問いかけてきたナーガだったが、時既に遅し。
呪文は既に完成し、発動している。
ぁぁ・・・グッドラック!疫病神ナーガ!こんにちは。あたしの幸せv


どしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!!!!

お〜〜いい舞い上がり方だわ。
あたしは手で日差しを作りながら、昼のお星様と化しつつあるナーガを見送る。

「っきゃぁぁぁぁぁあああっっっリナぁぁぁぁぁっっ奢り!!!
次の機会に持ち越させてあげるわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
「ちっ しぶといわね。」

舌打ちして毒づくあたし。
やっぱラグナブレードあたりで無に返すべきだったかな?
いや・・・・もし、平然と復活されたら、今度こそ自信喪失するからやめとこ。

「リナ!」

また後ろからの声に反応して、振り返れば、人垣を掻き分け走り寄る彼の姿。

「や、ガウリイ。早かったわね。」

何事もなかったかのように微笑んでみる。

「・・なぁ?リナ?なんか・・・・今、人が空飛んでなかったか?」
「気のせいよ」

きっぱりと言い切る。
あれが人間なんて、ゼロスが生の賛歌を謳歌するのと同じくらい違和感がある。

「そうかぁ?」

釈然としないのか、首を傾げながらあたしを見るガウリイ。

「で、何やってるの?」

あたしは、もうその話はお終いとばかりに話題を切り替える。

「あ、これ買ってきたんだ。」

ガウリイもどうでも良かったのか、そちらの方が大切だったのか、あっさりと切り替えて、彼が手に持っていた小箱をあたしに渡す。


ナニコレ?

受け取って、蓋を開ければ・・・・・・蒼い宝石が付いた指輪が一つ。
一目で分かる。かなりの。値段も張るだろう。
控えめに輝くのは、悪趣味じゃないほどのキャラットに蒼玉。
それは、あたしがいつも見ているガウリイの瞳を彷彿とさせる。
これって・・・・・・・・
あたしは指輪から同じ輝きを宿した彼の瞳に視線を戻すと、真剣な瞳でこちらを見ていた。

「プレゼント。オレとリナとの再会の記念。そして、リナがもうオレから離れていかないように・・・・・・・約束の指輪。」

・・・・・・ぼぼっっ

「おっ真っ赤♪可愛いなぁリナは。」

な・・なななななななななに・・・・あたしの頭の中には、見事に『な』で埋め尽くされていた。

「貰ってくれるか?」

そ・・・・そりゃー・・・貰えるものは・・・・・・・・うぁ・・・なんかずっごい嬉しい。
頬の筋肉が緩むのを我慢して、テレ隠しに緩んだ顔を苦笑に換える。

「アンタ、良くこんな高価なもの買うお金があったわね。」
「あ、それ、リナが置いてった金で買った。」

あっさりと白状する。

「あのねぇ・・・それじゃぁプレゼントにならないでしょ?」
「あ・・・・そっか」

ガウリイがしょぼくれる。あたしに断られたとでも思っているのだろう。
それが子供っぽくて無性に可愛かった。
ばぁか。断るワケないじゃない。

「でも、一応貰ってあげる。アンタからの初めての贈り物だもんね。」

その言葉でガウリイの顔がぱぁっと輝く。満面の笑みで。
少し緊張して指輪を取り出し、左手の・・・・・中指にはめた。
ちょっとキツイけど、なんとか嵌ってくれた。

「ありがとね。似合う?」

はめた手をガウリイに見えるように、掲げる。

「違うだろ。リナ」
「え?」
「はめる指が違うよ。手、貸して。」

言われるままに手を差し出すと、ガウリイは、はめたばかりの指輪を中指から外し、隣の薬指にはめた。
それは吸い込まれるほどぴったりのサイズで。

・・・・・・・・!?
あたしはゆっくりと顔を上げる。
そこには、子供の表情でも、保護者の表情でもなく、男の・・・真剣な表情だった。

「言っただろ?もう二度と離れない約束の指輪だって。似合ってるよ。リナ」

ガウリイがそのまま手を取って、指輪に口づける。

「ガウリイ・・・・」

ひ、卑怯よ。今まで油断させておいて、イキナリ・・・なんて・・・・
顔を紅潮させ、何も言えないあたしにガウリイの瞳が絡む。

「リナ・・・ずっと一緒にいような。」
「ガ・・ウリ・・イ・・・」

青い呪縛からは逃げる事なんてできやしない。
あたしは、素直にうなず・・・・・・

おおっっ!!

パチパチパチ・・・・

ん?
何故、辺りから拍手喝采が・・・・

げっっ

その拍手喝采はあたし達の周りを取り囲む野次馬からのもの。
そう、ここは人がいっぱい屯う町の中だった・・・・

っかぁぁぁぁ!!!!!!
タコが熱湯で茹で上がるより速い速度であたしの顔が紅潮する。
ガウリイの行為もだけど、周りの歓声に耐えられなくなったあたしの顔ぶしゅーと湯気を噴く。

「可愛いなーお前さん。ほら、行こうぜ」


ガウリイは周りの人など目に入っていないかのように、あたしだけを見つめ、微笑みながら手を引いて歩き出す。
もう二度と離れぬよう、手をしっかりと握ったままで・・・・・・



止まっていた人々は再び流れ始め、各々の道を進み始める。
その中に栗色の髪の少女と金髪の髪の青年消えていく。

彼らもまた、岐路から再び出会い、一つの道となった彼らだけの道を歩むために。




そこから先のお話は・・・・・
新しき恋人達と、彼女の手に輝く蒼玉だけが知ることとなる。

運命の女神ですら、二人の破天荒な旅の結末は知り得ない。
誰も知らない明日を彼らは共に歩んでいく。


これからも、ずっと・・・・・・・・









天使は、新しき翼を掲げ大空へと羽ばたく―――

願わくは、自由な天使に幸せを・・・・






「ガウリイ・・・ずっと一緒にいようね。」

「ん〜〜?なんか言ったかぁ?」

「な〜んにも。さ、さっさと行くわよ!」

「おっおい!待てよリナ!オレを置いていくなぁ〜〜っ」





永久への願いをその蒼き契約の石に宿して――

不器用な恋人達にが永遠に共にあらんことを、切に願わん―――






「次は何処に行く?」

「そうね・・・・取り敢えず、歩きながら考えましょ。」





二人が共に歩まんことを、切に願わん――・・・・

















〜fin〜








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