片 翼 の 天 使



双翼の天使・・・永遠に・・・
〜中編〜



















「ガウリイ・・・あの・・・・・・あたし、服着たいんだけど・・・」


そう、冷静に考えてみれば、今のあたしは素肌にマントを巻き付けただけのかなり恥ずかしい格好だった。
しかも、ガウリイと一悶着あったせいで乱れてしまい、かなり際どい部分まで露出している。
さっさと服着たいのだが・・・とてもじゃないけど、上に乗っかってあたしを抱きしめている大男を退かせる力はない。

うう・・重い。
もぞもぞと動いてみるけど、やっぱりガウリイの意志がなければ無理そうだ。


「あ、・・・すまん」

そう謝って、あたしの体を強く抱きしめていた力を緩め、束縛を・・・・解かない。

「ガウリイ?」
「・・・すまん。けど、もう少しだけ・・・」
「もう・・・・・服着たらいくらでもやらせてあげるわよ」
「本当か?」

って・・・・・・・え?
い、今・・何口走ったの!?『いくらでもやらせて・あ・げ・る』!?
なに口走ってるかなぁ!!

「リナ・・・?」

だらだらだら・・・

自分の爆弾発言に冷や汗が流れる。
あたしってばなに言っちゃってんのよぉぉっ!!!
う゛う゛…ここでやっぱ駄目って言ったら・・・きっと放してくれない・・よね?

「本当か?」

しつこくもう一度問いかけてくる。
しゃーない・・

「・・うん」

ガウリイのことだし、忘れてくれるかもしれないし・・・いや、流石に無理かな・・・

「分かった」

胸中で葛藤しつつも、こくりと頷くと、ガウリイはようやくあたしの体を解放してくれた。温かい体温が消えてしまって、少し寂しい気がするけど、今はそれよりも恥ずかしさが上回ってる。

それに、またどうせ抱きしめてくれるって言ってるし・・・・って!!!
だからっっどーーしてそーゆー考えがぽこぽこ浮かぶのよっっ


「はい!起きたら回れ右してとっとと向こうに行く!」

恥ずかしさを紛らわせようと、必要以上に声量を出す。

「・・・何処にも行かない?」

まだあたしから瞳を逸らそうとしないガウリイに駄目押しをする。

「行かないわよっ」

もうっ心配性なんだから。

「・・・・・わかった」

いや、そんな捨てられた子犬みたいな目をしなくても・・・
渋々とった表情でガウリイの姿が木の陰に隠れるのと同時に、素早く立ち上がって、服を着込む。

「リナ・・・」

もう少しでお終い、といったところで、ガウリイが木の裏側から声を掛けてきた。

「あによ・・」

ぶっきらぼうに返事を返すあたし。
文句だったら聞かないわよ。
女性の着替えと買い物は長いって相場が決まってるんだからね。

「良かった・・・ちゃんといるな」


う〜〜〜ん・・違ったか・・うみゅ〜〜・・

・ぽりぽり・・・

ガウリイのヤツ、あたしがトンズラしちゃったこと、結構、トラウマになってるのかなぁ・・。やっぱ、目が覚めたらドロンっていうのは堪えるわよねぇ・・・

ほんの少し罪悪感に苛まれながらも着替えをし終え、ガウリイの気配がある木の裏側を覗き込む。
と、木に寄りかかったガウリイがいる。
すぐにあたしに気付いたのか、こちらを見て安堵したように笑みを広げる。


「ゴメン・・・ね」

気が付くと、自然と謝罪の言葉が口から出ていた。
あたしの姿を確認した時のガウリイの表情が、あまりにも心細そうで・・・・
彼にどれだけの心労をかけていたか分かったから。
彼はこんなに弱いヤツじゃなかったばすだ。・・・あたしだって。

きっと・・あたしたちは、人の強さと弱さをいっぺんに体験しちゃったんだ。
同じ空の下にいるから――なんて綺麗な言葉じゃ割り切れないほどの、相手に対する執着心を・・・・


「がう・・っへっ・・・くしゅんっ」

うにゃ〜〜
キマんないわねぇ〜ここでしっとりとした語らいが入るはずだったのにぃ・・いや、ま、別にいーんだけどね。

「冷えたのか?」
「ん〜〜・・・」
「じゃ、暖まろう」

そう言うと、ガウリイは、あたしの手を取って歩き出す。

「何処行くの?」
「あったまれる所」

振り向いて、にっこりと笑う。
何でもいいけどさ、なんで手、繋ぐの?

あたしの胸中の問いに答えるはずもなく、ずんずんと前を歩いていくガウリイ。
いいけどね。嫌な気分じゃないし。
素直に言えば、気持ちいいんだけど、"この"あたしが、そんな事言える分けないじゃない!…って、胸張って威張れるようなことじゃないけどさ。

ガウリイは、あたしの歩調に合わせながらも、少し急ぐように手を引いていく。

手から伝わるのは心地良い彼の熱。
温かい・・・・。
あたしの手をスッポリと覆ってしまうおっきくて温かいガウリイの手。
自然と力を込めると、ガウリイも優しく、けど強く握り返してくれる。

『ありがとね。』

そっと、呟く。

『どういたしまして。』

と聞こえたのはあたしの気のせい?・・・・よね?


ん?
アレ???もしかして・・・・

げっ

ガウリイに導かれるまま付いていくと・・・、
木の陰から現れたのはなんとっガウリイを置き去りにしてきたあの小屋!!


「うそっ!こんなに近かったの!?」

・・・どーやら、あたしは、無茶苦茶に走ったため、辺りをぐるりと一周して、すぐ近くの泉に戻って来てしまったみたい。

「うわ〜〜なんかマヌケぇ〜」

思わず笑ってしまう。なんだかなぁ・・・
すると、それを聞いていたガウリイが、あたしを振り返って、会心の笑みを浮かべながら、器用に片目を閉じる。

「でも、そのお陰でリナに会えた。ま、見つからなくたって、見つかるまで探すつもりだったけど、手間が省けた」

随分と気楽に言っているように聞こえる。
けど、あたしを見つめるその瞳には、堅い意志が込められていた。


小屋の中に入っても、何が変わったというワケではないんだけど・・・暖かかった。
体は冷え切っているのに・・・失ったはずのヒトがあたしの傍にいてくれるから、暖かいと感じられた。




「リナ、そんな所で何やってるんだ?風邪引くぞ?こっちこいよ」

何時の間にやら、火を熾して、暖炉の前で手招きをしているガウリイ。


あのときと同じ?

ううん。違う。
瞳を閉じて、またゆっくりと開く。


ほら・・・・消えない。優しく笑ってあたしが来るのを待っててくれる。

あたしは、ちょこちょこっと走り寄って、はにかみながらガウリイの隣に座る。

「えへへ」

以前は当たり前だったのに、今はすごく新鮮で懐かしくて、愛しい。

ガウリイは横に座ったあたしにまだ手招きをする。
なんで?

「リナはこっちのトクベツ席」

ひょいっと、半死人とはとても思えない力であたしを抱き上げ、自分の膝の上に降ろして、後ろからあたしを抱き締めてくる。
う゛う゛やっぱり忘れなかったのねぇ・・・
くそ〜〜っやらせるといった手前、今更ダメとは言えないし・・・

「リナ、ありがとな。」

唐突にガウリイが礼を言ってくる。

「ほえ?あたし、なんかしたっけ?」
「怪我・・・」
「え?分かったの?あれ、あたしが治療したって・・・」

おかしいなぁ・・・痕跡は残さなかったはずなのに。
首を傾げていると、ガウリイが耳元で囁いてくる。

「すぐに分かったぞ。目が覚めたらリナの残り香があって・・・リナの温もりが残ってて・・・でも、その分、リナが居なかったのが堪えたけどな」


う゛っっ・・・イヤ・・・だって、あの時は捕まるワケにはいかなかったし・・・

「リナ、分かってるのか?オレがどんな思いをしてきたか」


耳元で聞こえる拗ねた声も低くて心地いい。

「だっだからっ、さっき謝ったじゃないっ」

こんなに近くでガウリイの声を聞いたのは初めてかもしれない。
彼の吐息がくすぐったくて、すっごく恥ずかしかった。


「謝ったってそう簡単に許さないからな。もう、絶対に放さないから」

あたしを抱き締める腕に力が籠もる。

「お前の居る場所はここだ。オレの居る場所もお前の傍なんだよ。」
「・・・うん(赤面)」

なんか・・・初めて聞く言葉なのに、懐かしいような気がする・・・。

「もう、置いていくなよ。ま、どうせ逃げたって、また捕まえてやるけどな」
「・・・とんでもないヤツに捕まっちゃったのね」

もうこの根性と執念にはため息をついて降参するしかない。

「お前さんに付き合っていけるのはオレくらいなもんだからな」
「あんたは、ノーミソくらげだからね」

肩を竦めながら苦笑する。
あたしに考える作業を全部回すからノーミソ退化しちゃって、脊椎反射だけで動いて、あんな無茶な・・・捨て身の行動なんかとるのよ。

「でもな、オレ、頭は良くないけど・・・」
「良くないんじゃなくて、絶滅してるわよ」

きっぱりと言い切るあたし。あ、ガウリイがいじけてるし。

「・・・・・・・・・・・・。ま、それはいいとして。オレは、お前のことだったらちゃんと分かるぞ」
「ほほ〜〜」

それはそれは・・・・

「じゃあさ、ガウリイは何であたしが逃げた理由が分からなかったの?」

そう・・・。
自分の命と引き替えに、あたしが心を失ってしまうかも知れなかったのに・・・
あたしは、庇ってくれてこれっぽっちも嬉しくなかった。
なのに・・・ガウリイは庇った。そして、死にかけた。

だから、ガウリイの前から消えた。

でも、ガウリイは追ってきてあたしを捕まえた。
もう逃げられることが出来ないほどの心の束縛をあたしに施して・・・

だから、あたしには全てを聞く権利がある。
あたしは静かに、ガウリイの言葉に耳を傾けた。

「リナ。オレはお前が他人に庇われる事を望んでいなかったのは知ってたさ。
ただ・・・・」
「ただ?」

ガウリイの熱を後ろから感じながら、暖炉の炎を映して先を促す。

ぱちんと、乾いた薪の弾ける音が響く。

「ただ、体が勝手に動いちまったんだ。オレだって、たまには自分の願いを最優先に持ってくることもあるんだよ。正直、それでリナがオレの前から消えるなんて思ってもみなかった。怒って・・・オレらしい、って呆れて言ってくれると思ったんだ」

目覚めた時には、自分の甘い考えが裏切られた・・・?
なによ、そんな事くらい。あんたが目を覚まさなくて、あのまま死ぬんじゃないかって、一睡もしないでガウリイの鼓動を確かめいてたあの日々に比べれば・・・

「あんたの願望とやらで自分が死にかけても?
 あたしが・・・残された者はどうなるのかも考えずに、楽して死ぬとしても?
 それでもあんたは自分の願いを最優先に持ってくるの?」

「・・・・・・・・・・・」

自分でも、厳しい問いだと思う。
でも・・・あたしは、その問いに対する答えが欲しかった。
あたしでは導き出せない答えを。本人の口から、どうしても聞きたかった。
だから、あたしは、ガウリイがあたしの言及で口を閉ざしても、長い沈黙の中、薪が弾ける音しか耳に届かなくても、ガウリイが再び答えを紡ぐ時を待ち続けた。


「・・・・・・・そうだ」

迷い無く断言したガウリイの声には、不可視の力があった。
あたしをたった一言で納得させてしまうだけの絶大な力が。
そっか・・・

ガウリイは続ける。

「オレにも譲れないモノはある。自分の命なんかと天秤に掛けられない大切なモノがな。けど、どうして、オレがお前を残して楽に死ねると思うんだ?」

「それは・・・」

二の句を告げられないあたしに、ガウリイが続ける。

「お前みたいなメチャなヤツ残したら、死んでも死にきれないだろ?」
「なによ、背後霊にでもなる気?」

考えてみれば、今までもそんな感じだったけどね。
ふと気が付くと、後ろを守ってくれる。
寄りかかりたいと思った時にそこにいてくれる。だから、あたしは今まで戦えた。
あたしが考えに浸っていると、ガウリイが苦笑の声を漏らす。


「背後霊ってのは酷いな。せめて守護霊と言ってくれよ」

と、あまり変わらない事を訂正をしてくる。

「いやよ、あんたは背後霊で十分。それに、あたしは死んでからもあんたに付きまとわれちゃたまんないわ。即、お祓いね。あたしは死んでからのことなんて事は考えたくない。ハッキリ言って、生きてなんぼのモノよ。だから、あたしは他のモノを犠牲にしても走り続ける。勿論、誰の束縛も受けない。」

多分、それがあんたを意識する前のあたしの言葉。
今は・・・ううん。一回前に言ったような気がするからもう言わないっ(////)


と、ガウリイがあたしを後ろ向きに・・・ガウリイの正面に向き合わせる。
蒼い瞳で真っ直ぐにあたしを射抜くように見つめてくるガウリイの表情は、柔らかく・・・そして強さを秘めた表情だった。

「んなこと言ったって仕方ないだろ?もう、死んだって離れたくない奴に会っちまったんだからな。うん。これはリナにも責任あるんだぞ。と、言うことで責任分担な」

こらこらこらこらこらっっっ変な理論展開しないでよっ

「リナはオレを側に置いて、一生オレを所有してくれること。
その代わり、オレは絶対に生きて、ずっとお前の傍にいるから。」
「生きて?」
「そう。生きて、だ。どうだ?これでもまだダメか?」



・・・・・・・・・・・・。うん。いいかもね。

あたしにとって、あんたはどんな宝石よりも輝いていて、どんなアイテムより希少価値が高いモノだから。

今の言葉を信じてみよう。
他ならぬガウリイ自身の言葉なんだから。
だから―――信じてみよう。

「いいわよ。・・・ただし、死んだら承知しないかんねっ」


「ああ。約束する」

あたしを見つめ返し、優しく―――けれど、意志を込めて答える。


それは、何気なく交わされた永遠の約束。

誓いの証に、と顔を近づけてくるガウリイに一瞬戸惑ったものの、ぎゅと目を閉じて、重なる彼の誓いを静かに受け入れた――














とまぁ、ココでお開き、また明日。
ってはずなんだけど・・・・、
ガウリイがあたしを抱き締めたまま、放そうとも寝ようともしない。

「ねぇ、ガウリイ?あんた・・・今日はもう休んだら?傷に障るわよ」

なんとか寝かせようとするあたし。
これはガウリイの過剰な束縛から逃げるためでもあるけど、ガウリイの体を気遣ってのことでもある。
でも、あたしの殊勝な気配りが分かんないのか、ガウリイがあっさりと交わしてくる。

「ああ、そーだな。けど・・・オレは大丈夫だから。リナも休め。お前さん、相当疲れてるだろ?」

さっきからずっとあたしを抱き締めていたガウリイが、片方の手で以前みたいに、くしゃっと頭を撫でてきた。
もうっまた子供扱いしてっ

「あたしは平気よっ あんた、さっきだって死にかけてたんだからねっ!あんたこそ寝なさいよっ」

「・・・・ごめんな。リナ、心配かけちまって・・・けど・・・オレ・・・」
言いずらそうにモゴモゴと口の中で呟く。

「?なによ?」

ため息をついて、ぽりぽりと頬を掻きながら白状してくる。

「ちょっと、眠れなくなっちまってな。」

「なにそれ?もしかして、怪我の後遺症とか?」

ガウリイが首を横に振りながら苦笑する。

「違うよ。怪我をした後、目覚めた時・・・の後遺症だよ。情けないけどな」

それって・・・・・あたしの?
あたしが消えていたから?
だから・・・寝てないの?眠れないの?

ずっと?
あたしがいなくなってからずっと?

「ごめん・・」
「いや、いいんだもう。リナがいるからな。けど・・・・駄目なんだ。
 眠ろうとすると、目覚めたときの・・・・なんつーか、上手く言葉にならないけど、目覚めた時の感覚が駄目なんだ。眠っても急き立てられるようにすぐ起きちまうし。だからリナだけ寝てくれ。ただし、今日はオレの腕の中でな」

・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・。だめよ」
「すまん、でも…」
「うるさいわね。このあたしがダメだって言ってんの!!んなこと言ってたら、いつまで経っても、不眠症のまんまよ。意地でも寝なさい」

べしっとガウリイにタックルをかまして、後ろに倒す。

「〜〜〜〜〜〜〜っっ」

ガウリイが怪我の痛み(ゴメン)のせいで藻掻いている隙を見逃さず、さっきガウリイを暖めるために使った毛布を無理矢理被せる。

「〜〜っっリナぁ〜怪我人に乱暴するなよ。」

よほど効いたのか、涙目で訴えてくるガウリイ。
その姿はなかなか子供っぽくてカワイイ。

「はいはい。その怪我人は安静にして寝てるモノなの。さっ寝なさい」
「・・・・・・・・・・悪い。だけど、もう何回も試したんだ。でも・・・・ダメだった」

少し、強張った表情で頑なに拒絶する。
だからって、人間は寝なければそれだけで死に至るんだかんねっ
いくら体力バカのガウリイだって、それは避けられない。

何かいい方法・・・

う〜〜ん・・あたしがいなくなった時に感じた恐怖感かぁ・・・
・・消える?
・・・・それなら・・でもぉなぁ・・・・確証ないけど・・・う゛〜〜・・


「う゛〜〜〜〜〜〜っっしゃーないわねっ これならどーおっ」

するっとガウリイの横にあたしの体を滑り込ませる。
おまけにガウリイの腕を頭の位置に持ってきて、
こて、とその上に自分の頭を乗せる。
うん。ちょっと堅いけど、なかなかイイ枕ぢゃない。
あたしってつくづく献身的ねぇ。

「え?リナ???」
「あ、腕がしびれるのくらい我慢しなさいよ。これならあたしが傍にいるかどうか分かるでしょ?」

・・・・ちょっと・・・いや、かなーーり恥ずかしいけど、今日の所は超ウルトラ特別出血大サービス!!
普段だったら、当て身でも食らわせるか、呪文で眠らせるかなんだけど、
それでは根本的な解決にならない。
それに、今回のことにはあたしも非があるし。


「・・・・いいのか?」

戸惑いがちに、でも、期待したように尋ねてくるガウリイ。
その言葉にこくり、と頷いて、注意を一つ。

「ただし、今日だけね」
「毎日やって欲しいなぁ」
「何バカな事言ってにのよっ」

起き上がろうとするけれど、あたしが枕にしていた腕が頭を抱え込んで、もう一方の手はは、しっかりとあたしの腰に絡みつく。
トドメとばかりに足まで絡めてくる始末。
う゛う゛っ身動きがとれないぢゃないっっ

「ちょっとっガウリイ!あたしは抱き枕じゃないんだからねっ」
「うん。リナはリナ。暖かいし、ちっちゃいし、柔らかい。」

ぽふっと音を立てて、顔が上気する。
このクラゲは〜〜っ

「はいっ だったら、さっさと寝なさいよっ」
「そうだな。早く治して、リナとイロイロしたいし…」

イロイロって・・・・まさか・・・・・・・いや、ガウリイに限ってそんなことは・・・・

「治ったら、添い寝だけじゃ済まさないからな。覚悟しとけよ」

・・・・・・あった。
やっぱ、クラゲ男でも、ノーミソがクラゲ製造器でも、雄は雄・・・本能ってモノは健在みたい。
・・・もしかして、もしかしなくても、あたし、とんでもないヤツの開けてはイケナイ扉ってモノを開けちゃったんじゃあ・・・・・

やっぱ男ってのはそーゆーもの・・・って、あたしとガウリイの関係ってこれからはやっぱ別のモノになるのかな?
保護者と庇護者はキスなんてしないしねぇ。
それに、庇護者にあ・・愛してる(/////)・・・なんて言わないだろうし。
何よりあたしは、ガウリイのこと、もうずっと前から保護者だなんて思ってない。
あたしは・・・ちゃんと彼を男として見てきた。

だから、ガウリイがあたしにキスしてくれた時も拒まなかった。
いや、拒めなかったっていう方が正しい。
あの熱い蒼い瞳で見つめられ、抱きすくめられ、抵抗するという考えは、これっぽっちも浮かばなかった。
そりゃ、恥ずかしかったけどね。
乙女のファーストキスをガウリイなんかに奪わせてあげたんだから、その代償は高くつくんだからね。


「ねぇ、ガウリイはあたし達の関係、どう思・・・・」

ん?

て!ちょっとっ!!
もう寝てるんじゃないっっ!!!!!
見れば、既にスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てて熟睡している。

なっ・・何が不眠症よっ
随分静かだと思ったら・・・ま、疲れてるんだし、あたしの呪文で体力奪われてるから、仕方ないと言えばそうなのかもしれないけど・・・・
でも、眠れないんじゃなかったの!?
しかも、何であたしの体に絡みついたまま寝てるのよっ
ガウリイから体を離そうとすると、微かに眉を顰め、あたしの体を引き寄せる。
しかも、あたしが離れようとする素振りを見せるそのたびに。何度も。

コイツ・・・ホントに寝ているんでしよーねっ
もうっホントにどっから何処までがホントなの?
そりゃぁ、ガウリイがウソ吐くようなヤツじゃないって知ってるし、ガウリイにとっては、高等技術すぎるマネだろーから、きっと全部ホントのことなんだろーけど、ここまで効果抜群だと嬉しいより先に呆れてしまう。

ま、あたしも別れてから一人・・・・・いや、時々変な物体が居たような気がするけど、それはそれ。やっぱ、人肌が恋しかったりする。
あっ、別にヘンな意味じゃなくてよ!
だからいいんだけどね。って、あたしは誰に言い訳してるわけ!?

……ま。いいか。


ふぁ〜〜んっ
みゅ〜・・あたしも眠くなっちゃった。
コイツの嬉しそうな寝顔を見てるとさらにねぇ・・・

ふあ〜〜〜・・・ん〜〜
もう寝よ。


と、その前に、

ガウリイが寝ている事をちゃんと確認する。


・・・・・・・・・・・・・・・。

ちゅ。

彼の額に口づけをして、そっと彼の胸に寄り添う。

温かい・・・
もぞもぞと寝心地のいいポジションを確保して瞳を閉じ、心地よい睡魔に身を委ねる。

「やっぱ、夜更かしは美容の大敵だもんね。お休み。ガウリイ・・・」

あたしを包む変わらない温もりを感じながら、あたしはゆっくりと、意識を手放した・・・・。















こうして、あたし達の再会の夜は、薪の爆ぜる音が微かに響きながらゆっくりと更けていった――――








双翼の天使・後編に続く。