双翼の天使




















「ガウリイ・・・・傷・・・・残っちゃったでしょ?」
「んぁ?」

いつもの、のほほ〜んとした声があたしに返される。
普段なら「人が真面目な話をしてるのに!」と鉄槌を下すところだけど・・・・・今はそうしてくれた方が気が楽になる。

「だから、傷痕・・・・」
「あぁ。ま〜な」

言葉を濁すあたしに対して、ガウリイはあっけらかんと言う。

「その・・・・・・・ゴメン・・ね」
「リナが素直に謝るなんて珍しいな?・・・あ!盗賊いびりには行かせないぞ。」
「ちゃう!その・・・・ちゃんと言ってなかったから・・・・・・・・・・・も、いい!」

恥ずかしくなって席を立とうとすると、ガウリイがあたしの腕を掴んでそれを阻止する。
あたしは視線だけで『放して』と訴えるが、ガウリイは微笑んだまま口を開いた。

「オレに責任なんか感じなくていい。自分の意志でやったんだから・・・」

ガウリイの瞳は優しかった。
・・・・けど、いつもの『のほほん』とは違う輝きで。
ありがと・・ね。けど、それじゃあたしの気が済まない。

「でも、あたしが油断しなければ・・・・・」

グイッと腕が引っ張られ、気が付いたときにはガウリイの瞳が目前に迫っていた。

「・・・・んっ」

ガウリイの強引なキスであたしの弱音がキスに吸い込まれる。
唇が割られ、彼の舌が入り込んであたしを巧みに翻弄し、甘く痺れさせる。

「んん…ぁ……ふ……んっ」

まだ慣れないあたしに優しく愛撫を施して歯列を舐め、舌を蹂躙する。
こうやってガウリイに触れられる度、徐々に頭に霧がかかって恍惚とする自分が居る。

唇を放されても何も言えない。
ただガウリイの広い胸に縋り付く。
ガウリイはあたしの躰を慈しむように抱擁して、あたしの頭の上から言葉を降らせた。

「リナ、悪いと思っているならそんな瞳をしないでくれ。
 惚れた女の弱みを見せつけられたら、そこに付け入りたくなるだろ?」
「…ばか」

そんな事、する気ないくせに。
あたしが仰ぎ見ると彼は小さく笑って不器用なウインク一つ。

「ま、そんなことしなくてもリナはオレのものだし。付け入る隙なんかないけどな」
「ぶぁあかっ」

照れ隠しに思いっきり語気を強くする。
低い声でくっくっくっと喉の奥で笑うガウリイ。

「そうそう。それでこそリナだ」
「何よぉ〜可愛げないって事?」
「い〜や、その反対。可愛くて可愛くて仕方ないのさ。
 このまま誰の目にも届かない秘密の塔にでも連れ去りたいくらいに。」

このクラゲ、いつの間にこんなに口が上手くなったの?
あたしを口説くマネするなんて・・・・。
お手つきはするし、善人そうなツラしてやること抜け目がないわ。

「このあたしにそんなコトできると思ってるの?」
「さぁな。オレにならって少しは自信あるぜ?」
「自信過剰〜」

二人で顔を見合わせて笑い合う。
こんなやり取りも結構いいかもね。

「ああ、でも責任はちゃんと取って貰うからな」

にこにこしながらガウリイが言う。
その微笑みが怖いと思うのはあたしだけ?・・・じゃないわよね。

「で・・でも・・・さっきは・・・・・」
「アレは傷の件。今のはオレから逃げて心配させたこと。」
「そんなっっ」
「すっげぇ寂しかったなぁ〜〜・・」

あたしが抗議の声を上げるが、無視されてしまう。
ちょっと待ちなさいよぉ〜〜〜っっ

「だって挙げたらキリないぜぇ〜。怪我人ほったらかして消えちまうし。」
「う゛・・・・」
「逃げて逃げて逃げまくるし。」
「う゛う・・・・」
「追ってきたのを知ったと思ったら、また逃げるし。」
「う゛う゛う゛・・・」
「見つけたと思ったら、さらにまた逃げるし。」
「う゛う゛う゛う゛・・・」
「トドメは『邪魔だから消えろ!!』だもんなぁ・・・傷ついたぜぇアレは・・・」
「あううぅぅぅ・・・」

やり込められ、耳を塞いでイヤイヤをする。
そんなあたしに、ガウリイはと言えば、身を乗り出してあたしの耳元で囁き続ける。

なによなによなによなによっっ過去を穿る男はモテないよっ

負けじと睨み返すあたし。

けれどガウリイは何処吹く風であたしの視線を受け流す。

「責任は・・・・・大切だよな」

笑みを浮かべながらそっと繰り返した。

「分かってるわよ・・・・」

ガウリイはあたしを放すとスタスタと歩いてベットに腰掛け、こちらに手を広げた。


「おいで・・・・リナ」



はぁ・・・・・明日は朝寝坊決定ね・・・・・・。

あたしは誘われるように近寄り、ゆっくりと・・・ガウリイの腕に絡め取られていった。










「二度と・・オレから逃げられるなんて思うなよ・・・・」

「・・んっ・・!」













〜END〜