片 翼 の 天 使



〜夢幻の章〜 ガウリイside
(本編はリナsideですのでタイトルのおまけなようなお話。)









罪の烙印よ、我が躰に刻み込め

罪の烙印よ、我に生きる意味を与えよ―――



誇り高く気高き女帝よ

慈悲深く心優しき女神よ

闇に委ねる我を照らす光の希望よ


そなたの光りで再び我を導きたまえ―――













なんの前触れもなく忽然と消えた少女。
それは、初めて自分が執着した人間だった。
己の全てを賭けて守りたいと、自分の欲望や彼女を傷つけるもの全てから護りたいと願った女だった。

それが・・・消えてしまったんだ・・・





見慣れた内装の部屋。
傍に付き添ってくれている彼女と話そうと目覚めたのに・・・その姿は何処にも見当たらなかった。
そんな事は今までも何度かあった。
けれど今回は言いようのない胸騒ぎに襲われ、掠れた声で少女の名を呼ぶ。


「リナ・・・?」

呼んでも・・・返してくれる彼女の声はなかった。

もう一度呼んでも、何度も何度も声が枯れるまで呼び続けても、オレがどんなに願っても・・・少女がオレの前に現れることはなかった。


なんでだ・・・。どうしてだ?
あいつがいないんだ……・・ずっと傍にいてくれたじゃないか!

傍にいてくれるように、失ってしまわないように、必死に手を伸ばしたのに!
どうしてっっどうしてオレの傍にいないんだ!!
リナ!!!

誰に言われなくても、全てを理解した。
彼女がもう自分の傍にいないことを―――
彼女にもうオレの声が届いていないことを―――


それは、オレに意味を失わせた・・・生きる意味を。
笑顔を失わせた・・・あいつを安心させて、和ませる今の自分に出来る最後の手段を―――

残り香さえ残さず消えた少女。
全てが幻だったように、夢幻であったとさえ思えた。


残されたのは・・
意味のない黄金の冷たい物質・・・そして、少女を失った哀れな抜け殻・・・。



それでもなお、立ち上がった。
自分に都合のいい現実を選んで。
そうでなければとても正気の沙汰ではいられなかった。
リナはオレと別れたくて別かれたんじゃないんだ、と。
そう自分に言い聞かせなければ、自分の自我を保てなくさえなった。

だから一生懸命考えた。
他人に言わせれば、くだらないかもしれない。けど、オレにとってはなにより大切なものだった。だから、彼女がいない理由を必死に考えたんだ。

たとえば、何か事件に巻き込まれたのかもしれない。足手まといになるかもしれないから1人で行ったんだと。

だから・・・・追いかけるんだ。と――
オレはまだ、少女から直に別れを告げられてはいないから。と・・・。

あいつの口からそれを聞くまでは・・・決して納得しない。
納得など出来るものか。

それだけが今自分を動かす全て。
いや、十分だ。
今の自分にとっては・・・・それが生命力を生み出し、オレを彼女の下へと導く。例え、彼女の目の前で命の炎が消えても。……もう一度だけ、逢いたいんだ。





立ち上がって、剣を取る。
医者に止められ、命の保証はしないと告げられてもオレは立ち止まらなかった。
オレはあいつと再会して、姿をくらました理由を聞くまでは決して死なないと誓ったのだから―――








追う者と追われし者

断ち切られた絆・・・・断ち切れぬ想い

何を願い少女は旅立ち、

何を願い青年は少女を渇望するのか・・・



願いは力となり意味を成す。

想いは糧となり再び運命の輪を引き戻す。

絶望は希望を背負い歩き出す。

願いを・・想いを 背負った絶望が・・・

己を照らす光とまみえんとするただ、そのために―――










「・・・っはぁ・・・はぁ」

いきなり降り出した激しい雨がオレから体力を奪っていく。
このままじゃヤバイな・・・

あいつを見つけるまでは死ねない―…死ねないんだ。死んでたまるかよ!



霞む視界に黒い人工物。…アレは…小屋?
ああ、あそこで雨宿りしよう。
雨が上がったらすぐにアイツを追いかけられるように。

誘われるままに偶然見つけた小屋に入る。



・・・・・!

その中は―――温かくて・・・アイツがいた。
こちらを見上げながら愛らしく頬を膨らませながら―――。

「ガウリイ!遅いよっ何やってたの?」
『・・リナ?』

声にならない言葉。リナはとてとてと近寄ってくる。

「なによ、幽霊でも見るような顔して?」
『・・・・・。
 いいや。何でもない。何でもなかったんだ。長い夢を見てたみたいだ』



      ―――違ウ!! コレハ・・・・・・ジャナイ!―――



「あんた、歩きながら居眠りしてたの?」

暖炉の炎に照らされ、リナの紅い瞳が・・・栗色の髪が・・・鮮やかに映える。

・・・・いいよ。それでも。

―――――なら。


『かもな。嫌な夢だったよ。お前がオレの前から消えちまう夢だった――』

「ばかね。あたしは何処にも行かないわよ。あんたの傍にいるでしょ?」

『そうだ・・よ・・な。』


猛烈な眠気が襲ってくる。

『疲れた・・・少し眠るよ。』
「ええ。お休みなさい。ガウリイ」
『お休み。リナ……もう、何処にも行く、な…よ…?』

吸い込まれるように、意識が闇に沈んでいく。

あいつの、リナの気配がする。
リナの匂いがする。
リナがオレを抱き締めてくれる。

それだけで何もいらない―――





―――ガウリイ!―――


遠くでリナの声が聞こえる。


なんでだ?
リナはここにいるのに。
温かい・・・苦しくない・・・

やっと全ての苦痛から解き放たれたんだ。
オレはずっとここにいるから。



『…リ…ナ』

「なに?」

すぐに答えてくれる。
霞がかった笑顔。

あの強い意志を秘めた紅い瞳も、刃物のような鋭さも、危うさすらも失った彼女。



         違ウ!コンナノ彼女ジャナイ!!



いいよ―――リナが傍にいてくれるなら。




―――ガウリイっっ―――




またどこからか声が聞こえてくる。
嫌だ!
その声でオレを呼ぶなっ
オレはここにいるんだ。もうあの孤独には耐えられない・・・。

あいつのいない世界なら・・・もう・・・いらない―――





―――ガウリイ・・・死なないで―――




死ぬ?
何言っているんだ?オレは死なないよ。
何時までもお前の傍にいるんだ。

温かい・・・・人の―――リナの温かさだ。





        !?



消える!?
温かさが・・・・リナが!?


『リナ!』

オレを抱き締める彼女が・・・・消えていく?
また消えていくのか?オレの手の届かない所に行ってしまうのか?

嫌だ・・・っ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

もうお前を失いたくないっっ
オレはリナを強く・・強く強く抱き締める。
消えていかないように―――
もう二度と、失ってしまわないように―――


「リナ!!何処にも行くな!リナっ…リナ!!!」




ふっと・・・・

オレの腕から・・・・リナが消えた・・・。


また?
またオレはお前を失ったのか・・・?

これが現実じゃないことは―――オレがここにいてはいけないことは知っていた。でもお前がいるなら・・・何処だって良かった。
リナさえ傍に居てくれれば―――

でも、夢ですら、幻影ですらリナはオレから逃げていくのか?

なら・・・







なら、現実のリナを捕まえるまでだ。

そして・・・オレから決して離れられないようにしてやる。
言えず仕舞いだったオレの想いをぶちまけて―――
あいつが困っても、嫌がっても、捕まえて・・・オレの全てをうち明けよう。







再び瞳を開く。
冷たい、今は無意味な現実を見つめる。
―――いや、オレにとっては無意味じゃない。あいつを見つけるという目的がある。

開いていたはずの傷が塞がり、・・・痛みが引いている。
誰がこれをしたのか分かる。
リナだ。
あの温かさは彼女のものだ。

運はまだ尽きてない。
あいつのぬくもりが残っている。あいつがまだ近くにいる。


待ってろ。すぐに抱き締めに行くから―――

そして・・・もう放さないから・・・


リナがオレから消えることはもう二度と許さない。
あったとしたら、その時は・・・・・・だから。


再び立ち上がって歩き出す。
この世界にただ1人の少女を求めて―――










全てが偶然ではなく、必然の未来において、

我は一つの予言を告げよう・・・。




自由の風を纏いし光の女神、

彼の地において、再び闇と交わりし時、

闇は光に導かれれ、

永久(とわ)の誓いを果たすだろう――


再び共に歩む、そのために――――






双翼の天使に続く。