DREAM 〜後編〜 |
『・・・・・・・・・・・夢?だよなぁ?』 俺は頭をポリポリと掻き、辺りを見回した。 懐かしい感覚、この感覚は『彼女』に会う時のもの。 『最後に『彼女』を見たのは何時だったけか?』 暫く考えてからフと思い出す。そう、あれは俺が15歳の時だった。 俺が光の剣を持って家出をした時だった。 『あん時・・・『彼女』と約束したんだっけ?絶対、あんたを見付けてみせるって。』 あれ以来『彼女』の夢は見ていなかった。 『初めてリナを見た時は驚いたなぁ、『彼女』より全然子供だったんだよなぁ。 でも、見付けたと思った。リナを見た瞬間、俺はもうリナ無しでは生きてゆけないと感じたんだ。』 思わず感傷深げに呟いていると、何か聞こえた気がして振り返った。 「・・・・!?」 『・・・・・・・・・・・・・・・・・り・・・リナ?』 一瞬、言葉を失った。目の前に立っているのは間違い無くリナだ! しかし、今のリナは魔道士スタイルじゃない。その・・・う・・っ純白のウエディングドレスを着てる。 リナ・・・俺がガキの頃から憧れてた『彼女』に瓜二つの少女。 そして、今は旅の連れであり・・・俺が愛してやまない女性。 『綺麗だよ、リナ。』 動揺しまくる俺の心とは裏腹に、俺自身はゆっくりとリナに手を差し伸べていた。 「・・・・・・・・・・・・・」 相変わらず何を言ってるのかは聞こえないが、唇は『あなたも素敵よ、ガウリイ』と動いている。気が付けば、俺の格好も白いタキシードに変わっていた。 『リナ・・・愛してるよ。』 「・・・・・・・・・」 体が勝手に動く。リナの可愛い顔を隠していたベールを優しく持ち上げ、ゆっくりと・・・・・俺の唇がリナの唇に近付いてゆく!! うわぁ!?これは夢だ!って、それは分かってる!?う・・嬉しいけど・・・本当に、き・・・キスしちまって良いのか? 思わずゴクリと喉が鳴る。すっげー緊張してるのが自分でも分かる。 実際は、三年も一緒に旅をしてるくせに・・・未だに告白出来ずにいる。 最初は『彼女』への憧れと錯覚してて、今はリナに嫌われるのが怖くて。 そんな心の格闘を他所に、俺の唇はゆっくりとリナに近付いていく。 もう少し・・・・・今まで何度も夢見ていたリナの唇に触れる!そう思った瞬間! 「うっきゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 俺は隣の部屋から聞こえる絶叫で目が覚めた。 「リナ!?」 パジャマのままブラストソードを手に、俺は急いでリナの部屋に向かった。 『夢・・・又・・・・・・・・・・か』 あたしは思わず小さく溜息を吐いた。正直、複雑な心境である。 今まで知らなかったガウリイを見れるのは嬉しい。だって、あいつは自分の過去を話してくれた事なんて一度も無いから。 でも・・・夢で会う『彼』は何時も泣いていた。その涙を見る度にあたしの心は凄く見てはいけない物を見てしまった罪悪感に苛まれちゃう。 今日もきっと『彼』、ガウリイと会うのだろう。 ガウリイの事をもっともっと知りたいと思うのは、あたしがガウリイを・・・・・好きだから。 何時から何て自分でも分かんない。でも・・・気付いたらガウリイを好きになってた。 ん?あ・・・・あれは!? 『ガウリイ!』 突然ガウリイの姿を見付け、あたしは思わずガウリイの名前を呼んでしまった。 そして、あたしは固まってしまった。ガウリイは純白のタキシードを着て、笑顔であたしを見詰めてる。そんでもって、気が付けばあたしの服装はウエディングドレスに変わってるぅ!? 「・・・・・・」 ガウリイが何かを言ってるけど、あたしには聞こえない。そっか、 今目の前に居るのは、ガウリイであり・・・同時に『彼』でもあるんだ。 『あなたも素敵よ、ガウリイ』 「・・・・・・・・・・」 『あたしも愛してるわ。』 え?えぇ?あ・・あたし、何?口が勝手に動いてる?って、ガウリイの手がゆっくり近付いて・・・あたしのベールを持ち上げた。 うわあぁぁぁぁ!!!!ガウリイの顔が、すぐ目の前にきてるじゃないのよぉ!? どうしよう、どうしよう?あぁぁぁ!!まだ心の準備が全然出来てないのに〜!!! 「うっきゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 ガウリイの唇が触れる瞬間、あたしは絶叫を上げて飛び起きた。 「リナ!!おいリナ、無事か?何があったんだ!?」 ガウリイは血相を変えてリナの部屋の扉を叩く。今にもぶち破りそうな勢いである。 「が・・・ガウリイ!?あぁぁぁ!?な・・何でもないわ!!」 リナは慌てて答えるが、先刻の夢の所為でどうしても動揺してしまう。 「何でもないって・・・何でもなくて悲鳴なんか上げる訳ないだろう!!っく、入るぞ!!」 言うが早いか、ガウリイはブラストソードで鍵だけを真っ二つに切ると勢い良くリナの部屋に飛び込んできた。 「っ!?」 思わずリナはシーツを頭から被ってガウリイから姿を隠したが、ガウリイは剣を構えたままゆっくりとリナに近付いてゆく。 「リナ、大丈夫か?」 ガウリイは辺りを見回し、敵がいない事を確認してからブラストソードを鞘に戻す。 「あ・・・大丈夫・・・・ちょっと、・・・驚いただけ・・」 「は?何に?」 「・・・・・・・・あ、えっと・・・あの・・・」 歯切れの悪いリナにガウリイは優しく微笑むと、ベッドに腰を降ろしてシーツ越しにリナを抱き締めた。 「え・・・あ!?うっ・・ちょ・・・!?」 恥かしさの余りガウリイの腕の中で暴れるリナだったが、諦めたのか少ししてから大人しくなる。 「少しは落ち着いたか?」 「・・・・・・・・・・・・・ん」 「で?何に驚いたんだ?」 茶化したりせず優しく問い掛けるガウリイに、リナは無意識の内に本当の事を口にしていた。 「・・・・・夢で・・・ガウリイが・・・・」 「え?」 ガウリイも思わず先刻の夢を思い出し、顔が赤くなる。 「・・・・・・・・・あたしに・・・・」 それ以上は恥かしくて言えないリナに、ガウリイは思わず口を手で押さえた。 (ちょ・・ちょっと待て!?うわっ!!リナ、色っぽ過ぎる!!) 上目遣いに、何時もは強い意志を映し出す赤い瞳がユラユラと揺れているリナの姿に、ガウリイは理性の限界を超えてしまった。 「・・・・・・・・・・・・・・んっ!?」 リナは行き成りシーツを引き剥がされると、ガウリイに腕を捕まれて力強いキスをされていた。 「っ!ちょ・・ちょっとガウリイ!!行き成り何て事してくれちゃうのよぉ!!」 「行き成りって・・・リナが悪いんだぞ!・・・・・・・・そんな可愛い顔するから・・・我慢出来なくなっちまったんだよ。」 瞳に涙を一杯溜め、リナはムッとした表情を浮かべて怒鳴り散らした。 「何よ!?あんたが欲情するのが、あたしの所為だって言う訳!? この変態!エロクラゲ!!・・・・・女なら誰でも良いんでしょうが、あんたなんか・・・・・・最低」 最後の方は必死で涙を堪えているのか、リナの声は掠れ小さくなっていた。 ガウリイはリナを優しく抱き締めると、自分の胸にリナの顔を埋め見えないようにする。 そして、ゆっくりとした口調でガウリイが口を開く。 「・・・確かに、俺はエロクラゲかもしれない。でもな、女なら誰でも言い訳じゃない。リナだから・・・・・・」 「・・・・え?」 ガウリイの言葉に、リナは耳を疑った。しかし、ガウリイの胸から聞こえてくる早鐘のように鳴り響く心臓の鼓動が、今の言葉に嘘が無い事を証明していた。 「・・・・・・・・・リナ、俺・・・お前が居ないと生きて行けない。ずっと・・・好きだった。お前さんを愛してるんだ。」 今にも泣きそうなガウリイの声、リナはこれも夢なのかと一瞬思うが、体全体から伝わるガウリイの温もりが、これは本当の事だと告げてくれる。 「・・・・・・・・ずっとあんた、あたしの・・・保護者だって言ってたじゃない?」 リナはキュッとガウリイのシャツを掴むと、今まで聞きたかった事問い掛ける。 「誰にも取られたくなかった。保護者って鎖でお前さんを縛り付けて・・・俺以外の男をリナの傍に近付けたくなかった。それに・・・リナは、俺が死んでからも守り抜きたい大切な保護する者だから・・・・・・」 ガウリイの体が小さく震えているのがリナの体に伝わってくる。 リナは、ガウリイが泣いてると何故か思った。 「・・・・・バカね。あたしは嫌よ・・・幽霊のあんたに守られるなんて。それに、あたしは守られる程弱くないわ。」 リナの言葉にガウリイはビクリと体を大きく震わせ、ゆっくりとリナの体を解放する。 「・・・・・・・そうだよな。お前さんは最初から守る必要が無い位強かったもんな。済まん・・・今のは忘れてくれ。これからも・・・・・ん!?」 一緒に旅をさせてくれ。そう続く筈だったガウリイの言葉はリナの唇によって遮られてしまった。 「・・・もう、だからあんたはクラゲだってゆーのよ。人の話は最後まで聞きなさいって何時も言ってるでしょ!あたしがあんたを死なせない。」 「・・・・・リナ?」 ガウリイは呆然と己の唇を手で押さえながら、目の前の愛しい人を見詰める。 「忘れない、あたしは今の事絶対忘れない。だって・・・嬉しかったから。」 顔を真っ赤にして言うリナを、ガウリイは気付いたら力一杯抱き締めていた。そしてリナの耳元でそっと囁いた。 「それは、俺を好きだって意味に取ってもいいのか?」 「っ!?んな事わざわざ聞くんじゃない!!・・・お好きな意味でどうぞ。」 恥かしがり屋なリナからの精一杯の告白。 「・・・・・じゃあ、お言葉に甘えるとするよ。」 そう言って、ガウリイは先刻の夢の様にゆっくりとリナに顔を近付けてゆく。 ギュッと目を瞑り緊張の余りガチガチになっているリナ。そしておでこに感じる温もり。 「・・・・・あ?」 「ヘヘ、先刻はお前さんのファーストキス、無理矢理奪っちまったからなぁ〜。セカンドキスはお前さんからもらえたし、サードキスは大切にとっとくよ。ベッドの上でタップリ堪能する為に、な。」 「へ?・・・・・・・・な!?こ・・このエロバカクラゲ!!出てけぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 最初は何を言っているか分からなかったリナだったが、ガウリイのニヤニヤとイヤラシイ笑みを見た瞬間、言葉の意味を理解した。 そしてガウリイに向かって枕を思い切り投げ付けるが、あっさりとキャッチしてガウリイは優しく枕を投げ返すと笑いながら部屋を出て行った。 あの夢が正夢になるのは、もう少し先の話。 終 |