トラウマ











<6>












「いっ・・・・」


リナに投げられた消毒液をガーゼに染み込ませて猫に引っかかれた傷口に当てる。
痛いと言うほどではないが少しひりひりする。
リナは猫をなんども撫でてやると『ごはんだから、みんな呼んできてね?』と言う。
金色の猫はその言葉を理解したのかトコトコと俺の前を通り過ぎ部屋を出ていった。
通り過ぎる瞬間睨まれたような気がしたんだが・・・気のせいか?

猫の出ていった方を見ながらそう思っているとバンソウコウを持ったリナが近づいてきた。


「ばーか。」


一言そう言うと傷を確認しいささか乱暴にソレを貼った。


「痛っ・・・おいおい、もう少し丁寧に扱ってくれてもいいだろ〜?」
「何甘えたこと言ってるのよ、こんなの別に舐めとけば治るような傷なんだからここ
までやって上げただけでも有り難いと思いなさいよ!」
「ふ〜ん・・・」
「な、何?」
「じゃぁさ、リナ・・・」


俺はリナの腕を引くと膝の上に載せた。
顔が至近距離にある。
一瞬何が起きたのか解らず固まるリナに俺は言った。


「じゃぁさ、こんなの貼らなくてもいいから、舐めて治してくれよ♪」


そう告げる。
リナの顔が一気に真っ赤になったかと思うと、『な、な、な、な、な、・・・』と繰り返す。
そのとき、ふと沸き上がった殺気ともつかぬ何かにぞくりとした。
ついついリナを掴んでいた手から力が抜けそのすきを逃さずにリナは俺から離れた。


「なっ・・・何考えてるのよぉ!?この薄ら馬鹿クラゲ!!」


スリッパの攻撃を受けソファーから落ちる俺の目に映ったのは入り口近くで俺を睨み
まくっているあの猫。
尋常ではないモノを感じる。
まさかと思いつつもその金色の猫を見ていると、リナも気が付いたのかドアの方を見た。


「あら、アースみんな呼んできてくれた?いらっしゃい、すぐご飯にしてあげるからね♪」


さっきまでの俺への態度とは明らかに違う笑みを浮かべてリナはその猫を呼んだ。
その途端今まで俺にぶつけられていた殺気のようなそうでないようなモノは消えた。


「・・・・変な猫・・・って、なんだ!?うわっ!!」


トコトコリナについて行った猫を視線で追いながら呟いていると、いつの間にか別の猫が
二匹、床に転がったままの俺を見下ろしていた。
そして、栗色の仔猫が『みゃ〜う♪』と嬉しそうに鳴くとぺろぺろと顔を舐め始めた。
それも真似するように白い仔猫も俺の顔をなめ回す。
そんな視界の隅で銀色の猫が冷ややかに俺を見て興味なさそうにキッチンに入っていく。


「うわ、ちょ・・・コラ、おーいリナなんとかしてくれ〜〜」


なんとか身体を起こし、仔猫たちの舐め舐め攻撃から逃れたモノの・・・よじ登って
こようとする栗色の猫。
少しリナに似ていると思った。
その毛色もだが、透き通るような瞳の色が珍しい。
抱き上げ目の前に掲げてその目をのぞき込んでいると、少し不満そうに俺を呼ぶ声。
ふと下を見ると、もう一匹の仔猫がぢ〜〜っと俺を見つめていた。
どうやら、仲間はずれはイヤらしい。


「みゃ〜う♪」
「なー」


ひょいと腕に抱えると二匹とも大人しく収まった。
まだ俺の腕を舐めてはいるが。
そんな猫たちを連れてキッチンに入っていくとリナが振り向いた。


「サン、ヴィナ何時までもそんなののトコにいないで、ご飯食べなさい♪」


ニッコリ笑って床に猫用の食器を置くリナ。
しかし・・・”そんなの”って・・・。
少しうなだれていると、リナがパンッと手を叩き俺に言った。


「さて、今日はお休みだし喫茶店に朝ご飯食べに行きましょう。もちろんガウリイの奢りで♪」
「・・・・へ?今日もリナの手料理じゃないのか?」


キッチンを出て鼻歌混じりに二階へ昇っていくリナにそう聞くと、少し怒ったように振り向いた。


「あんたが昨日いっぱい食べるから、冷蔵庫空っぽなのよ!
ついでに買い物とかもするから、荷物持ちよろしく〜♪」


言うだけ言って今度こそ部屋に入っていったリナを見送る。
そして俺は、顎に手をあてつつ呟いた。


「なんか・・・デートみたいだなぁ・・・」


と。












to be continued ...