― プロポーズの行方 ― |
4 ――― パパ。ママ居るでしか?――― 複雑だった。数日前まであんなに呼んで貰いたかったに・・・ リナが居なくなった途端、それが寂しく感じる。 今は・・・リナによく似たそれで『パパ』と呼んで欲しくなかった。 「ウナ・・・ガウリイだろ?」 我ながら余裕がなくて笑える。 「がうり?」 ウナの声。今はリナのそれに聞こえる。 「そうだぞぉ〜?ガウリイだ」 ――― 俺は・・何をしてるんだろう ――― 不甲斐無かった。 其処に小さな我が子に救いを求める自分が居た。 ここにリナが居てくれたら・・・そう思う自分に苦笑した。 何が保護者だ!これじゃあ、逆に護られてるじゃないか・・・ ウナを抱き上げる。 「ウナ、部屋に行こっか?」 「うん」 その時、俺はまったく余裕を持って居なかった。 その為にいつもの野生の勘も働いていなかった。 もし、それが働いていたなら、リナを取り逃がすことなどなかっただろう。 「おばちゃん、スープありがと」 皿をさげに来たあたしは偶然、目にしたその姿を見て信じられず、固まる。 「あら、さげなくても良かったんだよぉ・・・」 女主人がトレイを受け取る。 「おばちゃん・・・」 あたしは階段の方を見詰めたまま、呟く。 「キッチン・・・貸してくれる?」 「何すんだい?別に構わないけど・・・寝てなくて、平気なのかい?」 「うん」 あたしはキッチンであるものを作りに掛かる。 それはウナが知っている母親の味がするおやつだった。 今夜中にここを発たないといけなかった。 せめて、明日の朝、ウナに自分の作ったものを食べさせてやりたいと思った。 「朝食の仕込みかい?」 「ええ・・・小さい子居たみたいだし・・・ 甘いもの用意した方がいいかなって 思ったから・・・」 女主人が感心したように唸った。 「其処まで気がつかなかったよ。若いのにあんた、偉いねぇ」 ウナが傍に居る。ガウリイが同じ屋根の下で眠っている。 そう思うと胸が熱くなる。 そして、女主人はあたしが作ったものの量を見て、 「こんなには要らないだろ・・・」 目を丸くし、張り切りすぎたねと笑った。 ――― 残ったら、昼食にでも出そうかね ―――と・・・ でも、あたしはこの料理が、余ることがないのを承知していた。 多分、明日の朝、この女主人は驚くことだろう。 これを物凄い勢いで平らげていくその姿を見て・・・・ 一つだけ、寂しいことは自分がそれを、見ることはないということ。 その夜、置手紙を一つしてあたしはまだ、微熱の残る体で宿を後にした。 このところ食欲のなかったウナは三度もおかわりをし 宿の主人を驚かせた。俺はそれをただ、見ていた。 リナが居た頃はあんなに、楽しかった食事も今は ただの命つなぎでしかない。 不意に目に付いたウナの口元についたソース、 それを何気に指で取り除き、舐めた。 「―――・・・」 瞬間、懐かしさが込み上げてくる。 慌てて、チキンに手を伸ばす。 ――― この味は・・・ ――― それからは飢えた子供のように料理を口に運んだ。 リナの味に似ていた・・・・ 親子で夢中になって食べた。 「完食したのかい?あの量を!」 「美味かったもんで」 本心だった。 「それは良かったよ。あの子も喜ぶってもんだ」 女主人は嬉しそうに笑う。 「おい、お前・・・それは?」 盆に乗った軽食を指差す。 「ああ・・・これかい?あの子のだよ。やっぱ、無理したのかねぇ? まだ、起きてこないんだよ」 俺は頭上で飛び交う会話を気にもとめていなかった。 「まったく、気を使いすぎだよあの子は」 と、女主人は溜息を落とし、 「昨夜もね。お客さん。その子の為に料理を仕込んだりしてたんだ。 寝込んでたのに・・・・」 と、ウナの頭を撫でる。 「え・・・わざわざか?」 よもや、その人がリナだとは思いもせずに・・・・ 「おかわりでしぃぃ!!」 皿の中を空にしたウナが顔をあげた。 「えっ!まだ、食べるのかい?」 目を丸くする女主人。 「食べゆでし!りにゃのご飯〜・・・食べゆの!」 瞬間、頭の中が真っ白になった。 リナの味に似ているじゃない! これはリナが作ったんだ!! 「リナは何処ですか?」 訊ねると驚きながら女主人が言った。 ――― リナちゃんの知り合いかい? ――― リナの姿は既に其処に居なかった。 俺はウナを宿に置いてリナを追う。 まだ、近くに居る筈のリナを必ず見付け出す! そして―――・・・ 続くの。 |