ファミリー
― プロポーズの行方 ―








2



「頼むからいい加減認めてくれよぉぉぉ〜・・お前、母親なんだぞぉ?」
 隣りで眠る金色の熊の寝言であたしは目を覚ました。

「・・・・・」
 寝言でも言ってるわ・・・こいつ。

 
 あたしはベットから下りて、隣りのベットに眠るウナに毛布をかけ直してやる。
「あたしに似て可愛い寝顔」

 あたしが授かった大切な宝物にキスを送り、カーディガンを羽織る。
 カーテンを開けると見事な満月が顔を覗かせる。

 誰かのイメージと重なり、不愉快な気分になった。
「ばかくらげ・・・」


 ベットで眠るそいつに視線を送り、溜息を落とす。

 あたしは服を着替えてこっそり、散歩に出かけた。






 あたしとあいつ、ガウリイとの出会いは最初から変だった。
 頼みもしないのに勝手に助けに来て、頼みもしないのに勝手に着いて来て・・・
 勝手に保護者になんかなって・・・何度も危ないめにあって、なのにまだ隣に居る。
 いつの間にか隣に居るのが当たり前のようになって・・・・・

「偽善者!何が、保護者よ。ばか」
 足元の小石を蹴る。数メートルの樹にぶつかり、こんっという音を立てた。

 
 はぁーーーーっ


 何度、こんな夜を独り、過ごしただろう。

「散々、子供扱いしといて・・・何が母親よ」
 ばかにすんじゃないわよ!

 溢れそうになるそれを止めようと夜空を仰ぐ。
 けど、あたしに逃げ場はなかった。



「なんで・・・満月なのよぉぉ」
 蹲り、嗚咽を漏らす。



 ウナに『ママ』と呼んで貰いたかった。
 だけど、それは出来ないと思った。



 ――― 大っ嫌い! ―――



「二人目が出来ちゃう前に・・・消えなきゃね・・」
 夫婦でないのに夫婦のような生活をおくっていた。
 我が子を我が子と、抱き締めてやれないもどかしい日々。


 あたしは大切な存在が眠る宿を一度、振り返り・・・

「バイバイ・・・」
 と子供がするように手を振り、歩き出す。



 くすっ


 明日の朝、慌てるあいつの顔が目に浮かぶ。
 ウナは泣くだろうか?
 
 それを思うと胸が痛んだ。


「ごめんね・・・ウナ。連れてってあげたいけど・・・
 離れたくないけど・・・あいつ、独りに出来ないから。
 さよならだよ・・・あいつは能天気だからきっと、ウナが
 退屈することなんか・・・ない・・・はずよ・・・」
 涙が溢れて止まらない。
 視界がゼロになっていく・・・今が夜で良かった。
 こんな顔、誰にも見られたくないから・・・・・・
 


 ――― ごめんウナ・・・ ―――

 
 あたしは心の中で誓った。
 二度と子供は産まないと・・・それが唯一、残して行く
我が子への償いになると―――



 最初は本当にただの散歩のつもりで宿を出てきた。
 だけど、来たその道をあたしが戻ることはなかった―――










続くでし。