風の向こうに










 2.少女


 ベッドに横たわった小柄な少女。
 まだ毒が抜けきっていないのだろう。青ざめた顔で、苦しそうに荒い息をしている。
 額にのせた布を取り替える。

 少女の意識は、まだ戻らない。







 少女を見つけたのは、狩猟場としても使われている森の中だった。
 最近、貴族やら金持ち連中の間ではハーピィの羽が高値で取り引きされている。森の中で矢に射抜かれて落ちるハーピィを見たのは、その狩りの最中のことだった。
 すぐ近くに落ちた、という事もあり。なんの気無しに近づいた俺の目の前でそれは起きた。


 真紅の翼が不思議な色合いの衣に変わる。
 真紅の翼のハーピィは、小柄な一人の少女に変わっていた。


 呆然としていた俺を我に返らせたのは、近づいてくる沢山の足音だった。
 とっさに少女の近くに落ちていた衣と矢を隠す。

「おや、ガウリイ殿」
「やれやれ。またサボってたんだな」
「あぁ。俺は興味ないんでな」
 肩をすくめて言う。実際興味ないのだから、嘘じゃない。
「そういえば、この辺りに獲物が落ちてこなかったか?」
「そういえば、ふらふらと向こうの方に飛んでいったぞ」
「そうか。真紅の羽は珍しい。きっと高値がつくぞ」
「いや殿下に献上した方が……」

 それぞれが思惑を抱え、先を争うように森の中に入っていく。
 足下に倒れている少女になど目もくれない。
 ……最近、戦乱に巻き込まれ難民になった者達が、こうやって狩り場にまぎれ込み怪我を負うことが増えている。この少女もその一人だと考えたんだろう。
 ま、その方が好都合か。
「……やはりな」
 矢を調べる。思った通りそれの鏃には毒が塗られていた。
 青ざめた顔で荒い息をつく少女を抱き上げる。
 助ける気になったのは……あの光景を見たからか。
 まぁ、そんなことはどうでも良いことだ。

 そのまま、俺は森を後にした。







 少女の傍らに座り、手にした衣を眺める。
 見る角度によって色合いを変える不思議な衣。試しに袖を通してみたが、何も変化は起きなかった。つまり、この衣は少女がハーピィになるための物なんだろう。
 だが………

「人間とハーピィ……か。一体お前さんはどっちなんだ?」

 答えは、まだない。