I 妹 な関係










(7)


「ガウリィ、用事って何だ?」
「あ〜、うん。ちょっとな。」

・・・しゅる、ぎち。

「何だよ。人を呼び出しといて、その曖昧な態度は。」

ゆらり、にまり。

「・・・先に謝っとくわ。悪いな、ゼル。」
「・・・・・・・?!!」

どご、べきぐしゃ!しゅるしゅる、ぎゅ〜〜〜っ!!

「・・・ふっ、ゼル捕獲成功ね!」
「おまい・・・段々ルナに似て来たぞ・・・(汗)」

ガウリィの一言は取り合えず無視して、私達は簀巻き状態のゼルを引きずり、とある
場所へと向かった。

アメリアの、お見合い場所へ。


結果がどうあれ、取り合えず一度は逢っておく様にとのお達しを受け、アメリアは
父親に指定されたホテルへと赴いた。
・・・・結局、言えなかったな・・ゼルガディスさんには。


「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あの・・・お客様。」
「あ、気にしないで下さいね。彼、ちょっとした発作持ちなモンでして。」
「いえ、あの・・・。」
「こうしておけば、他人には危害をくわえませんから?」
「・・・・そういう問題ではなくて・・。」
「リナ!アメリア目標と接触!」
「よっしゃあ!さ、行くわよゼル!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

この日、永年フロアーチーフをやっていた男は、『つくづく変わった世の中になった』
と、一つ、常識を改めたのは、言うまでも無い事実だった。


「さぁて・・・そろそろ出番ですよ〜ゼルちゃあん。」
「・・・・ぶはっ!!いきなり人を簀巻きにしたかと思うと、こんな処に引きずって
来て何ナンだ一体!!」
「あ〜・・・だから先に謝っただろ?」
「答えになってないわぁ!!」
「しっ、黙って!アメリア達に見つかっちゃう。」
「・・・・アメリア?」

向こう側のテーブルに、正装して座るアメリアを見つけ、ようやくゼルの怒りは
納まって来た様だった。
「おい・・・これは一体・・?」
「アメリアねぇ、これからお見合いなのよ。」
「お・・・見合い?」

ゼルの表情が、一瞬強張る。
・・・よっしゃ、いい反応だわ。

「受験に失敗したら、大人しく父親の取引先の人と結婚する様にって・・。
今の処は未定の事だけど・・・解るでしょ?」
「・・・アメリアは・・・何も言ってなかったぞ?」
「言えなかったのよ、あのコ。ゼルの反応が怖くて。」
「・・・・・?」

浮かない表情を浮かべながらも、無理して笑顔を繕うアメリア。

「アメリアにそう言われて、あんたちゃんと『断れ』って言ってあげられた?」
「そ・・・・それは。」
「ね?・・・アメリアも、そんな困った顔のゼルを見たく無かったから、
言えなかったのよ。」

ゼルがぎゅっ、と拳を握りしめる。

「俺達がお膳立てしてやれるのは、ここまでだ。あとは、お前次第。・・・どうする?」


いい人、だとは思う。
誠実そうだし、優しそうだし。
でも・・・。
いくら父さんの頼みだからって、やっぱり、逢わなけりゃ良かったかも。
どんどん流されそうな自分が、凄く・・・惨めだ。


「アメリア、帰るぞ。」

・・・・え?この声って・・・。

いきなり腕を捕まれ、引き寄せられる。
・・・・ゼルガディスさん?

「何だね君は?いきなり現れてその様な態度は、随分と失礼ではないか?」
「失礼なのは、貴方達だと思うがな。」
「何だと?」


「・・・リナ、そのビデオは何処から?」
「えへへ、実は用意してたんだな、これが。」
「一応聞くけど・・・何の為にだ?」
「決まってるじゃない。これで姑くはあの二人をおちょくれるから?」
「・・・・やっぱり、ルナに似て来たぞ・・・。」


「あの、ゼルガディスさん。」
「こいつに結婚する意志はありません。だから、連れて帰ります。」
な・・・・何言ってるんですか?ゼルガディスさん。
「君、随分とウチの娘と親しい様だが・・・誰かね?」
「ゼルガディス=グレイワーズと言います。アメリアさんとは・・・おつき合いさせて
もらってる者です。」

・・・・嘘、ゼルガディスさんが・・・?

「おつき合いって・・・フィルさん、これは一体どう言う事ですか?」
「いや、儂も初耳で・・・アメリア!」

父さんの声に竦む私を、ゼルガディスさんは優しく抱きとめてくれてる。
あぁ・・・夢なら醒めないで!

「兎に角、アメリアに結婚の意志が無い以上、いくら父親といえども、強制する事は
好い事とは思えません。それに・・・・。」
「それに・・・?」

すでに、脂汗だくだくのおやぢに向け、ゼルは意を決した様に、こう宣言した。

「アメリアさんは、すでに俺が貰い受けています。他人の入る余地などありません。」


うひゃああああ!!やっるぅ!!

そ、それに・・・・すっげ〜事聞いちゃったぞゼルちゃん?

今の一言は、流石のアメリアにも痛恨の一撃だったらしく、ゼル以外の人が石化した中、真っ赤な顔をしたゼルが、アメリアを引きずってロビーへと向かって行く。

後に残されたのは、砂となって風に散って行く、二人のおやぢ達の残骸だった・・・。


「ゼルガディスさん・・・。」
「・・・どうして俺に相談しなかった?」
「だって・・・。」
「いや・・・悪いのは俺だな。お前を不安にさせた。・・・済まなかったな。」
「・・・・・ゼルガディスさぁあああん!」

「は〜い、続きは人の見て無いトコでしましょうねぇ?」
「いよっ、格好いいぞゼル!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リナさん、それわ?」
私の持っているビデオを指差し、青を通り越して紫の顔をしたゼルに、私はにっこり
微笑みを返し。
「うっふっふ〜。ゼルちゃん主演のとびっきりドラマ。永久保存版よん♪」
「リ・・・リナっ!!」
「アメリア〜、後でちゃんとダビングしてあげるから、期待して待っててね。」
「えぇ!!いいの?」
「あ〜め〜り〜あぁああああああ!!」



散々からかわれながらも、アメリアの手を愛おし気に握るゼル。
真っ赤な顔をしながら、本当に幸せそうに微笑むアメリア。
自分のコトの様に喜ぶ、ガウリィの顔。


帰り道に、さり気なく肩に廻されたガウリィの腕の温もりが、何故だかとても愛おしく。


私は、静かにガウリィに身を寄せてみた。


・・・・あ、そっか。


案外、簡単な事だったのかも知れないね。