I 妹 な関係









(3)


「リナ、ガウリィ。ちょっとココに座りなさい。」
がたがたがたがた・・・。
「どうして私の言う事が聞けないのかしら?ねぇ?」
ぶるぶるぶるぶる・・・。
「・・・お仕置き、よね?」

あぁあああああ!!思い出しただけで冷や汗がぁあああ!!

あの・・・最強の姉ちゃんが・・・帰ってくるぅ?


「お出迎え御苦労さま、リナ。」
「姉ちゃん、久しぶり!」

怖いけど、やっぱり久し振りの家族との再会は嬉しいもので。
姉ちゃんに抱きついた私の頭を、優しく撫でてくれる。
「暫く逢わないうちに、すっかり綺麗になっちゃって。ちょっと淋しいわ。」
「姉ちゃん・・。」
「ガウリィ。」「は、はいっ!!」
「何そんなに緊張してんのよ。・・・リナが色々とお世話になってるみたいだけど、
大変でしょ?この娘の面倒みるのは。」
「い、いやぁ、そんな事ないですよ、はは。」

あ〜あ〜。
ガウリィったら、すっかり姉ちゃんに飲まれてるよ。
まぁ・・・無理もないか。

「こんな所で立ち話もなんだから、どっかで食事でもとらない?奢るわよ。」
「え、でも。」
「・・・奢るわよ、リナ、ガウリィ。」
「・・・はひ。」

有無を言わせぬ迫力に押され、私達は取り合えず空港を後にした。


「ところで姉ちゃん、今回はいきなりどうしたの?」

洒落たレストランで食事をしながら、私は思いきって姉ちゃんに問いかけた。
「あら、ただリナに逢いたいってだけじゃ、駄目かしら?」
「う、ううん、そんな事ないよ!ただ・・・急だったから。」
横目でガウリィを見ると・・・あんまし食事は進んで無い様だった。
「そうね、敢て言うなら、リナの今後の事を話し合う為・・・かしら。」
「私の・・・今後?」

食事の手を止めて、姉ちゃんが静かに私を見詰めてきた。

「リナ、あんた特にやりたい事がないんだったら・・・私と一緒に、あっちに行かない?」

・・・・・は?

「貴女、出来る娘だから、このまま日本で燻ってるの勿体無いと思うのよ。どうせ受験って言ったって、受ける所は・・・・でしょ?」
ちらり、とガウリィに視線を向ける。
・・・ばればれ、ですか。
「だから、特にやりたい事ってのが、まだ見つかって無いなら、私の仕事でも手伝って貰おうかしら、って思って。・・・悪い話じゃないでしょ?」

は・・・はっきし言ってびっくりだ!
そんな選択肢があったなんて・・・今まで全然気付かなかった・・・。

「ま、リナにだって色々都合があるだろうから、返事は今すぐじゃなくてもいいのよ。
私が帰るまでの1週間の間に決めてくれれば。」
「い、1週間でぇ?!」

がちゃん!
今まで黙っていた(って言うか、何も言えなかった)ガウリィが、いきなりテーブルを拳で叩き付けた。
「ガウリィ?」
「・・・・・いくら何でも、それは随分な押し付けじゃないか、ルナ。」
「あら、押し付けてなんかいないじゃない。私は、リナにちょっとした選択肢を与えてあげただけよ。」
「リナは・・・行かない。」
「そんなの、貴男の勝手な思い込みね。・・・決めるのはリナよ。口出し無用ね。」
「ルナ!」

あわわわわ・・・ど、どうしたんだガウリィ君?
よりにもよって、あの姉ちゃんに喰ってかかるとわ!

良く見ると、姉ちゃんは何故か・・・楽しそうに微笑んでいた。

「ま、その話は今度ゆっくりしましょ?取り合えず、私の奢った食事を残さず食べて欲しいもんだわね、ガウリィ?」

気まずい雰囲気の残る中。
私はひたすらに、『残さない様に』だけを心掛けて食事に専念した。
・・・飲み込むのは、結構辛かったけど。


「・・・・どうしちゃったのよガウリィ。いきなり怒り出したりして。」

勿論実家に泊まるだろうと思っていた姉ちゃんは、『仕事もあるから』と言って、ホテルに泊まる事にしたらしい。
でも、それって案外、私達に対するさり気ない『牽制』の様な気もするんだけど・・・。

家に帰ってからも、終止無言のガウリィ。
ひょっとして・・・まだ怒ってる?

「あ〜・・・今日の勉強は止めにしとこ?何だか・・頭に入らない感じするし・・・っ?!」

いきなり引き寄せられた反動で、思いっきり床に転がってしまう。
そんな私に、覆い被さる様に抱きついてくるガウリィ。

「こ、こら!いきなり何すんのよ!痛いじゃない・・・・?」
「・・・行かないよな?」

ぎゅうって。
息をするもの苦しいぐらい、力強く抱き締められる。

「が、がうり・・・?」
「何処にも、行かないよな?」


新しい選択肢。
ただ、何となく大学に進む事しか考えて無かった私に、姉ちゃんの一言は正直言って魅力だった。
やりたい事・・・そう、私は何がやりたいんだろうか?
ガウリィの側に居る事だけが・・・私のやりたい事だっただろうか?

「何処にも、行かないよな、リナ。」

真剣なガウリィの声。
私を必要としてくれる男。
私は・・・この人を振り切れる?


ただ、私はガウリィの小さく震える背中を、ぽんぽん叩いてあげる事しか出来なかった。

・・・はっきりと、『行かない』って・・・言ってあげられなかった。