I 妹(まい)な関係











(4)


眠たい・・・。

あの日以来、寝不足が続いてる。
原因は解ってる・・・あの人のせい。

ガウリィを信用してない訳じゃないの。
でも。
あの人の少し吊り上がった口元が、頭に焼き付いて離れない・・・。


「・・・リナ。最近ちゃんと寝てないんじゃないか?」
「んあ?」

いけない、ぼ〜っとしてたか。

「今日はここまでにしよう。・・・んで、何か俺に言う事はないか?」
「べ、別にないわよ。」

あう、ガウリィのじと目攻撃。
この目に見詰められて、ただで済んだ試しがない!
小さくため息をつく。
「本当に・・・何でもないったら。」
精一杯の微笑みを返す。私からのさり気ない『答える事への拒絶』。
そんな私を、ガウリィは優しく抱き締めてくれる。
「言いたくない?」
「・・・うん。」
私の髪を撫でる手が、ゆっくりと背中に廻り、軽くぽんぽんって叩く。
まるで、子供をあやす様に。
「でも、寝不足は美容の敵なんだろ。眠れないなら、俺が側に居てやるから、
兎に角休めよ。」
「・・・そっちの方が眠れないよ。」
お互いの顔を見合わせ、思わず吹き出してしまう。
「ちぇ、上手くいくと思ったのになぁ。」
「あはは、それは甘過ぎだよガウリィ。」

優しいガウリィ。
私のコトを一番に考えてくれてるんだな、って、本当に感じる事ができる。
・・・そぉね、少し甘えてみようかな。

「・・・着替えてくるから、その・・・側に居てくれる?」
「り・・・リナ?」
「あぁあああ!!あからさまに照れるなぁああ!!だ、だから、ちゃんと眠るまで
見ててよね!」
「お、おう!」
「変なコトしたら、即別れるからね!」
「おう!・・って、それって生殺しじゃね〜かよ。」
「何か言った?」
「いえいえ!そんじゃ待ってるから、早く着替えて来いよ。」

何だか、自分でも凄いコト言ってしまった気がするけど、まぁ、いいか。
・・・恋すると、我侭になるって本当なんだな。
私、自分がこんなに独占欲強いって思わなかった。

ガウリィの事、本当は独り占めしたい、って、言えたらいいのに。


「・・・気持ち悪いから、その顔はやめろ!」
いつものごとく、ゼルにツッコミを入れられてしまった。
ふっふっふ、だが、そんなモノはどこ吹く風か!
あのめちゃくちゃ照れ屋なリナが、俺に甘えてくれたのだ!
これを幸せと言わずして、何が幸せかっ!
・・・・いや、あと一歩進みたいのは山々なんだが・・(爆)。

「いやぁ、改めてリナをモノにできて良かったな〜と思ってな。」
「モノにって・・・しちまったのか?」
「おいおい、お前じゃあるまいし。誤解を受ける様な言い方止めろよな。」
「お前にだけは言われたくない!」

・・・無益な言い合いだ(笑)。

「俺はリナが『いい』って言うまで、絶対しないさ。」
「お〜お〜、言い切ったな。」
ゼルは、何故か苦虫を潰した様な顔をして、俺に突っかかってくる。
「それが、あいつの不安を煽るかもしれないって、考えた事ナイか?」
「不安?」
「本当に気付いてないのか?・・・・この前の事だぜ?」

この前・・・あぁ、シルフィールか。

「あいつ、結構気にしてたみたいだぞ。アメリアも心配してた?
「そりゃ、ど〜も。」
「おい、ガウリィ・・・。」
まったく、お節介なヤツだな。アメリアとの付き合いで、こいつも結構変わった
よな。
「お前の言いたい事も解るさ。でもな、ここで俺が自分の気持ちばかり押して
しちまったら、それこそ自己満足でしかないじゃないか。そんなのは俺はゴメンだね。
今まで待ったんだ。気長に待つさ。」
「・・・案外、考えてるんだ、あんたも。」
「それにな。」
俺の言葉に、首をかしげるゼルに向かい、意地の悪い笑みを浮かべつつ。

「今まで『追っていた者』に『追われる』ってのも、結構いい気分だぞ?」
「・・・・・・!!ふ・・・ふざけんなぁあああ!!!」

ゼルの容赦ない一撃が、校舎中に響き渡った。


「今日は、リナさん。」

アメリアと下校途中に、その人は現れた。

「・・・シルフィール・・さん・・。」
「この前は御馳走様でした。今帰りですか?」
「あ、はい・・・あの?」
私の横で、アメリアが露骨に嫌な顔をしている。
さり気なく脇を突ついたつもりが、嵌ってしまって何故か涙目(てへ?)。
「ガウリィ様にちょっとお話がありまして。途中までご一緒してもいいですか?」

微笑んではいるけど、何処か挑戦的な視線に、思わず目を反らしてしまう。

最初に口を開いたのは、アメリア。
「シルフィールさん、今日はガウリィさんに何の御用なんですか?」
「あら、それは御本人に直接お話しますわ。失礼ですけど、今は言う事じゃないと
思いますけど。」
うぬ、ごもっとも。
「わ、私達、これからガウリィさんとゼルガディスさんに勉強を見てもらう予定なんですけど。だから・・その。」
アメリア、ふぁいとだ!
「まぁ、そうでしたの。・・・では、夜に改めてお尋ねする事にしますわ。」
うあ、墓穴っ。
「いえ、ですから・・!」「それでは失礼しますね。」

さっさと去って行くシルフィールの背中を見送りつつ、私達は暫し呆然とその場に
立ち尽くした。
「・・・・リナ。」
「・・・・なぁに。」

「くっ・・・・くやしいぃいいいい!!」

・・・あんたが悔しがってどうすんねん。
「リナ、貴女何とも感じないの?あの人、かなりヤバいわよっ!!」
「で、でもさ、大事な話しかも知れないし・・・ねぇ?」
「あぁあああ!!リナの大馬鹿モノぉおおお!!」

そんな事・・・言われなくても思うわよ、私だって。


そして。
いつか感じた予感通りに。


嵐は、次の日の朝訪れた。