Behind the Red Curtain
〜第十六幕〜

























何日たっても、何週間たっても───

クレイグは姿を現さなかった。



オレは結局、ミースに逗留する形になっている。
雇い主から解雇され、傭兵仲間たちから陰口をたたかれようとも、オレは全く気にならなかった。


ここには彼女がいるから……。


サティーンに出会う前のオレが、今のオレを知ったらどう思うだろうか…?
あんなに偉そうに傭兵たる者の心構えをクレイグに教授したのが嘘のようだ。


サティーンはあれ以来、指名がきても、何かと理由をつけて断り続けていた。
体調がすぐれないだとか、疲れて動けないだとか……。

だが実の所、毎晩オレの宿で二人きりの時間を過ごしていたのだ。


二人で居る時は幸せだった。
ただ、たった一つ気になる事があって…。


「あの日君に贈った歌は……オレの歌じゃないんだ…。」
「え?」


気だるい昼下がりに、オレはずっと胸の中のしこりになっていた事をサティーンに告げた。
その日も、彼女はオレの宿に来ていた。
ベランダの手すりにもたれかかって、オレはベッドの上のサティーンを見つめている。
その肌の色と同じくらい白い、安物のシーツだけを身体に巻いて起き上がる彼女。

サティーンは時々あの歌を口ずさむ。
その度に、オレは自分の歌を贈ろうという決意を固めていった。

そして──。


「Never knew I could feel like this...」(今まで知らなかった こんな気持ちになれるなんて)

彼女と過ごした時間の中で、オレが感じたことを正直に言葉にしたこの歌──。

「Like I've never seen the sky before...」(空を見上げた事なんてなかったように...)

この気持ちがちゃんと伝わるように、オレは彼女の瞳から決して目を離さない──。

「Want to vanish inside your kiss...」(このまま君のキスの中に溶けてしまいたい...)

立ち上がったサティーンが、ゆっくりとオレに近づいてくる──。

「Everyday I love you more and more...」(日に日に深まっていく 君への愛...)

「Listen to my heart. Can you hear it says?」(聞こえるかい?このハートの声が?)
「Telling me to give you everything.」(君に全てを捧げるんだって言いつづけている声が...)
「Seasons may change winter to spring...」(季節は冬から春へと移り変わってしまうけど...)


「But I love you...until the end of time...」(僕は変わらず愛しつづける...この世が尽き果てるまで...)


「Come what may...」(何があろうとも...)
「Come what may...」(たとえどんなことが起きようとも...)

「I will love you until my dying day...」(死が訪れるその日まで 君をずっと愛しつづける...)



ここから起こったことは奇跡としか言い様のないことだが…。


「「Suddenly the world seems such a perfect place」」(突然 世界が素晴らしいものに思えてきて...)


サティーンが、オレの心の中にしか存在しない歌を、一緒に歌ってくれたのだ…。

「「Suddenly it moves with such a perfect grace」」(突然 毎日が喜びに満ち溢れたものに変わり始めた...)

オレは彼女の腰をそっと引き寄せ、彼女はオレの腕を優しく包み込む──。

「「Suddenly my life doesn't seem such a waste」」(そして突然 価値あるものに思えてきた自分の人生...)

この歌は、オレ達の心がひとつだという証なのだろう…。

「「It all revolves around you...」」(でもそれはすべて あなたがいるから...)

「「And there's no mountains too high」」(二人には越えられない山なんて無い)
「「No river too wide...」」(広すぎて渡れない河も無い)
「「Sing out this song and I'll be there by your side...」」(この歌を歌えば二人の心は一つになれる...)
「「Storm clouds may gather and stars may collide...」」(雷雲が集まってきても 星々が砕け散っても...)

「But I love you...」(君を愛す...)

「I love you...」(あなたを愛してるわ...)

「Until the end...」(この世界が...)

「Till the ...」(この世界が...)

「「End of time...」」(終るその日まで...)


「「Come what may...」」(何があろうとも...)
「「Come what may...」」(たとえどんなことが起きようとも...)

「「I will love you until my dying day」」(死が訪れるその日まで あなたを愛しつづける)


オレ達は幸せだった。
この歌を二人で歌って、互いの気持ちを改めて確認した時までは…。


でも……。


もしかしたら、すでに悲劇は始まっていたのかもしれない…。

だからなのだろうか……。
幸せのうちに、再び二人でベッドに潜り込んだ時、彼女が尋ねてきた事にオレがあえて答えなかったのは──。


「それじゃあ…あの日あなたが歌ってくれたのは…誰の歌だったの…?」



Notice!:作中に登場する歌、「Come What May」に関する全ての権利は20th FOXに帰属します。
       ここまでこの駄文に付き合ってくださった方、是非「ムーラン・ルージュ!」をご覧になってください!
       「ムーラン・ルージュ!」に惚れこんで早2年…ガウリイに「ComeWhatMay」を歌わせたくて、
       この駄文をここまでこしらえてきました。1ミクロンでも興味を持ってくださった方はビデオ屋さんへGO!
       こんな駄作とは比べ物にならないくらい素晴らしい世界が、あなたを待っていますっっっ★☆


                                 
           
                                 
           

                                      
                to be continued......