Behind the Red Curtain
〜第十七幕〜























「ガウリイに…そんなに想うひとがいたなんて……。」
「でも、この話は事実ですよリナさん…。」


あたしにはガードナーさんの話が信じられなかった。
ガウリイが冷徹な殺人鬼だったってことも信じられないけど、それ以上に、一人の女性のために歌ったり、その人を抱きしめたりする彼の姿が想像できない…。


胸に湧き上がってくるのはそれだけではない…。

ひとつの疑問だ──。


ガウリイとサティーンが恋仲になったという事は───


「クレイグはどうなったの…?」


あたしの漏らした一言に、ガードナーさんの身体が微かに震えた。
マリンブルーの瞳が、その心のうちを映しだしているかのように、みるみる暗さを帯びてくる。


「まさか……。」

ポツリと呟くあたしに、一瞬身体を震わせる彼…。
それで全てが分かった…。

そう、彼こそが──。


「そのとおりです…。私がクレイグ・オズボーンです…。」


小さな声でそう言うと、彼はその綺麗なダークブラウンの髪を人房掴むと、ゆっくりと持ち上げた。
その下から現れたのは見慣れた輝き……。

「あ、あんた…ウイッグ着けてたの…!?」

そう…彼は自分がクレイグであるという証拠を示すかのごとく、自前の金髪をかきあげながら頷いた。
ガウリイに勝るとも劣らない見事な輝きである。
ただし、その長さは、ウイッグと同じで肩ほどではあるが…。
だが、しかし……。

「ホント…ガウリイにそっくり…。」

思わず感嘆の声も漏らしたくなるわ…。

ひとり驚きつづけているあたしとは対照的に、どんどん彼の表情は曇っていく。


「私は、この容姿を利用したんです…。」

「え…?」

そして彼は、4年前から現在に至るまでの自らの足跡を語り始めた。


「あの日…私がガウリイに、自分の歌を託して彼女のもとへ行ってくれと頼んだ日、私も一人で隣りの部屋にいました。もともと造りの脆い、安いランクの部屋でしたから、隣りの部屋のやり取りなんて手に取るように分かってしまうんです。ガウリイも油断していたのか、結局私の気配に気づく事もありませんでした。そして……彼らの雰囲気がただならぬものであると気づいたんです。」

「それからは毎日二人の様子を窺いつづけました…。
我ながら、異常だとは思っていましたが、失恋の悲しみと、友に裏切られた怒りで、自分を止める事ができませんでした…。ガウリイも、サティーンに夢中で、私の気配に気づくこともなく………。」


あたしは黙って彼の話を聞きつづけた。
最初に味わった悲しみや喪失感が、再びあたしの胸を埋め尽くしていく気がした…。


「そんなある日、私はパレス・オブ・ウーマンが、5代目クリス・ガードナーを募っていると知りました。
そして、二人の仲を引き裂く妙案が浮かんだんです…。すぐに4代目の屋敷に向かい、5代目に名乗りをあげました。成り手の居ない職ですから、もちろん私は即刻就任の運びとなりましたよ。」

「そしてその足でガウリイの元へ向かったんです。
そこでガウリイと話をつけて、今度はサティーンの元へ向かいました。
それら一連の私の汚い計画の末、ガウリイはミースの街を離れ……
そして…二人の仲は終ったんです……。」


「なに……一体、何をしたの……?」


あたしの胸に湧き出た悲しみは、涙となって溢れ出そうとしていた……。


                                 
           
                                 
           

                                      
                to be continued......