Behind the Red Curtain
〜第十四幕〜























真紅のドレスに身を包み、長い緋色のストレートヘアをなびかせて微笑むサティーン。

オレの目には、他のどの娼婦より、いや、他のどの女よりも美しく輝いて見える。


「……お客さん?」


彼女の問いかけに、オレは自分を失っていた事に気づいた。

「あ、ああ……あんたがサティーンか…?」
「……あなたが指名してくれたんでしょ?」
「…確かにそうだが……。」

まさか顔すら知らなかったなんて言えるはずもない。
童貞のガキみたいに狼狽しているオレをよそに、彼女は小さく微笑むと、赤いランプの炎を消した。
窓から差し込む月の光が、剥き出しになった彼女の白い背中や両腕を浮かび上がらせる。

彼女はオレの目を見つめながらゆっくりとこちらに歩み寄ると、オレの手をとって耳元で囁きかけた。


「さぁ…そんなとこに突っ立ってないで、ヤルことヤッてしまいましょ…?」

「え…!?」


オレはそのままなす術も無く、なだれこむようにベッドに押し倒された。
オレのドレスシャツのボタンを引きちぎるように外していくサティーン。

「ちょっ……おい…!待ってくれ…!」
「静かにして……私を抱きたいんでしょ…?」
「オ、オレは…君に贈り物があって……!」
「あら……それってひょっとして……」
スーツの上からオレの下腹部に手を這わせるサティーン。


「“コレ”のこと…?」

「…っ!?」


その瞬間、身体中の血液が“ソコ”へ集中した。
あろうことか“オレ”をその手で掴んだのだ。
さすがのオレもベッドから起き上がる。
余裕の表情の彼女を前に、本格的に童貞のガキのように情けない姿にされている気がするが…。


「お…おい…!」
「早く…!早くあなたの贈り物をちょうだい!!」
サティーンはシーツを頭から被ってベッドの上を転げまわりだした。
「あ、あのなぁ……!」
落ち着いた大人の女性かと思わせられた第一印象は一瞬にして掻き消えた。

「それが目的なんでしょ!?」


その一声を聞いて、オレはクレイグの顔を思い出した。
そして──。


「My gift is my song!」(贈れるのは僕の歌だけ!)

オレが叫ぶようにして口にしたのはクレイグの歌。
シーツに包まって身悶えしていたサティーンの動きがとまった。

「And this one is for you......」(そしてこれは君へ捧げる歌......)

クレイグによると“Your Song”というタイトルの、ヤツの自信作らしい。
どこかで聞いたことあるような気がするのは、オレの気のせいだろうか……?

「And you can tell everybody that this is your song......」
                      (これが君の歌だって皆に教えていいんだよ?)

クレイグに教わったときは、なかなか覚えられなかったけど──。

「It may be quite simple but now that it's done......」
                      (とてもシンプルかもしれないけど、やっと書き上がったんだ)


君を目の前にすると、言葉が勝手に口を飛び出していく──。

「I hope you don't mind. I hope you don't mind.」(どうかこの歌を気に入ってほしい)

君は美しい碧眼を見開いて、黙ってオレの瞳を見つめ続けてくれて──。

「That I put down in words......」(僕の想いの全てを込めたこの歌を…)

オレは知らぬまに、歌に込められたクレイグの気持ちを自分の気持ちに替えて、君へ
と贈っていたんだ──。

「How wonderful life is now you're in the world...」(こんなにも素晴らしい 
君と分かち合うこの世界...)

君に一目惚れしたんだって気づいたのは、このときが初めてだった──。


「So excuse me forgetting but these things I do」(ホラ、また忘れてしまったけどこれが僕なんだ)
「You see I've forgotten if they're green or they're blue」(君の瞳の色が緑だったか青だったか…)
「Anyway the thing is what I really mean」(でもとにかく 僕が本当に言いたいことはね…)
「Yours are the sweetest eyes I've ever seen!」
                         (君の瞳は誰よりも優しくて僕は永遠に君の虜ってことなんだ!)


「How wonderful life is now you're in the world!」(こんなにも素晴らしい 君と分かち合うこの世界!)


歌が全て終った時に、オレと君は完全に恋に落ちてしまっていた──。


「あなたは……誰なの…?」

そう問い掛ける彼女に、オレは少し躊躇した末、こう答えた……。


「ガウリイ・ガウリエフだ……。」









Notice!:作中に登場する歌、「Your Song」に関する全ての権利は、Elton John及び20th FOXに帰属します。
       こちらも、詳しくは「Moulin Rouge!」をご覧下さい。


                                 
           
                                 
           

                                      
                to be continued......






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