Behind the Red Curtain 〜第九幕〜 |
「今夜のお相手を決めたわっ!」 高らかとそう宣言しながら、ある人物を指さす彼女を、あたしはどこか恍惚とした表情で見つめていた。 だって…その指が指し示しているのは、紛れもなく……ガウリイ…。 そう…打ち合わせも何もしていない、この行き当たりばったりのお芝居に脚本も何もない…。 つまり、彼女が自らの意思でガウリイの傍に行き、自らの意思で彼を選択したのだ…。 男たちの落胆の声が、ホールに響き渡る中で、あたしはただ、ガウリイと彼女だけを見つめていた。 遠目で見ているあたしには、二人が何を話しているのかまでは聞こえない…。 でも、彼女のあの言葉を聞く限りでは、ガウリイが彼女とのアヴァンチュールを承諾したと言う事…。 あ……。 あ、あたしったら何考えてんのよ…! そもそも、そうさせることが目的で、こんな格好してまで潜入してきてるんじゃない! でも……こんなに後味が悪いっていうか…胸が苦しいのは…………なんで……? 「リナさん?」 「…えっ?」 突然後ろから声をかけられ、振り向いた先には── 「ガードナーさん!?」 昼間とは打って変わって、真っ赤なスーツに身を包んだガードナーさんが立っていた。 これが支配人としての、彼の姿なのだろう。 「なかなかうまく変装しましたね。とてもお美しい…。」 「は、はぁ…。どうも…。」 「どうやら、あの二人もうまくいったみたいですね。」 そう言って、二人の方へ視線を送る。 「え、ええ…そうですね…。」 どうしても、気のない返事しか返せないあたし…。 「彼女の名は、サティーン…。」 「え?」 彼の言葉に、あたしは顔をあげた。 そういえば、あのコーティザンのことって、何にも聞いてなかったっけ…。 「彼女は、私がこのジャルダン・ド・ミースの支配人の座を先代から受け継ぐ前からここで働いていました。」 「……そう…。」 「私が彼女について知っているのはそこまでです。」 「…え?」 大きくため息をつくガードナーさん。 「どんなに尋ねても、出身地やフルネームは明かしてくれません…。」 「…………。」 「もしかしたら…覚えていないのかもしれない…。」 「覚えて…ない…?」 「だからこそ、この世界や生きるということに、無頓着なんでしょうね…。」 「…………。」 「そんな彼女は、誰よりも冷静に“男”というものを眺めている。それは、トップになってからも変わりません。」 「…………。」 「だから、恋をして欲しいという依頼は、実の所、私の本心なんですよ…。」 え…? 「そ、それじゃあ……本当にあの二人がデキちゃったらどうすんのよ…!?」 自分で言った言葉に、胸が締め付けられそうになる。 「もし、そうなったら、私は何も言いません…例え二人で、駆け落ちすると言っても……。」 そ、そんなっ……。 うつむくガードナーさんが、あまりにも悲しげで、あたしはそれ以上、何も言えなくなってしまった…。 「それに……あの二人は…初対面ではありません……。」 「え………?」 な、何言ってんの……? だって……そんなこと、ガウリイは一言も……! 「あの二人は……」 いや……聞きたくない……! 「4年前……私が無理やり引き離した……」 もうやめて!!それ以上知りたくないっっ!!! 「恋人同士です……。」 その瞬間、あたしの視界は暗転した。 ガウリイとサティーンが微笑み合っている姿を目の片隅に捉えたのが最後、あたしは、自ら意識を手放した。 to be continued...... |