Behind the Red Curtain 〜第六幕〜 |
目の前に広がる世界は、とても現実とは思えないくらいの騒がしさに包まれている。 果てしなく広いホールを埋め尽くしているのは、ガウリイと似たような格好をした男たち。 彼らの熱気と興奮で、会場の温度はかなり上昇しているようだ。 そんな真っ黒い人込みの中に、時折見えるのが、光り輝く豪華な衣装の女たち──。 派手としか形容しようのないポップ・ミュージックにあわせて、激しいカンカンダンスを披露している。 それは街中で観光客に見せるようなカンカンではなく、例えるなら、“闘鶏”とでも言うべきか…。 とにかく、様々な音が混ざり合っているために、あたしは隣りのガウリイに話し掛けるにも、 叫ぶようにしなければならなくなりそうだ。 「リナ!!」 不意に、ガウリイに手を引っ張られる。 「え?」 ホールの雰囲気に気圧されてボーっとしていたあたしは、彼の胸に倒れこむような形になってしまった。 あわわわわわわわっっ!!! さっきのニアミスの余韻もまだ残ってるっていうのに、このバカクラゲは何を考えてんのよぉ!! でも、見上げたガウリイの青い瞳は真剣そのもので……。 「離れるなよ!!」 「え…?」 「分かったか!?」 「う…うん…。」 ガウリイの綺麗な顔が目の前に迫ってきて、あたしはガラにもなく、ドキドキしちゃったわけで……。 やっぱりあたしたちの関係って、進歩してるんだよね……? そのままガウリイに引っ張られる形で、ホールの隅に連れて行かれる。 その途中──。 「お〜い!そこのピンクのカノジョ〜!」 え? そう言って、誰かが誰かを呼び止める声がする。 それってやっぱ……あたしのこと…? 「君だよ!赤毛の君っ!!」 ほかに、赤毛はいないわよねぇ……。 あたしが男の方に振り返ろうとしたその時── 「悪いな!彼女は俺と楽しむんだ!」 ガウリイが、あたしと男の間に立ちふさがる。 その言葉と同時に、あたしは空気が震えるのを感じた。 ガウリイが男に剣気を叩きつけたのだ。 「ひぃっ!?」 男はシャンパングラスを床に落して、腰が抜けたようにその場にしゃがみこむ。 彼ほどの剣士の気を正面から食らったのだから無理もない。 だが、そんな一連の騒動も、この喧騒のなかでは、誰の気に留まることもないのだ。 つくづく、凄いところである。 この街の厳粛とも言える雰囲気からは想像もつかない場所──。 そこが、このジャルダン・ド・ミース……。 ところで……。 「ね、ねぇ!!ガウリイ!!!」 彼に聞こえるように、あたしは精一杯の大声をあげた。 「あんたにつかまれてる手首が、痛いんだけど!」 あたしの訴えに、先を行く彼が振り返る。 ほんのちょっと怒ってるように見えるのは……あたしの気のせい…よね…? 「我慢してくれ!お前さんと離れると面倒だから!」 な…! なによ! その目一杯子ども扱いした発言わぁっ!!! 「なんですって────」 そのとき──。 突然ホールの照明が消え、音楽が鳴り止み、辺りが闇と静寂に包まれた。 反論しようとしたあたしも、思わず言いかけた言葉を飲み込む。 あんなに騒がしかったホールが、嘘のように静まり返った。 そしてどこからか差し込む、一条の光───。 その光が照らす先を追って、ホール中の全ての人が宙を見上げる。 そこにいるひとを見て、あたしは思わず、息をするのを忘れてしまった……。 …to be continued |